闇深守護霊の成り代わり人生

@midori822

黒里と白里

 太陽の光が入らない怪しい地下室で男がにやけながら資料を見ていた。

 部屋の中央には鉄で作られた実験用のベッドがあり、少女が震えていた。

 血と薬品の匂いしかなくかなりの悪臭だが、男も少年も嗅覚が働いていないのか気にする様子はなかった。


「やっとだ、やっと、私の願いが叶えられる!」


 意味のわからないことをブツブツと言いながら少女の体に薬品を注射する。

 少女は苦しく悶えながらも男に殴られ、大人しくなる。


「これで、やっと!完成だ!」



 ♪


 僕は生まれ変わったらしい。

 最初は長い夢を見ているような感覚だった。

 長い夢の中で彼の一生を見ていた。

 僕はずっと彼女を見守っていた。

 守護霊の気持ちが初めて分かった気がする。

 あれ、僕って一生このまま、?

 そんな不安を抱いたこともあったけど、彼の人生を見守っているうちにそんな不安は消えていった。

 彼女の名前は導鬼黒里みちびきこくり

 結構珍しい名前じゃない?

 頷いてそうな名前をしている。

 黒里は優しく穏やかな性格でかなりモテる。

 容姿も整っているからね。

 それに、黒里は僕が見えてるらしい。

 こんな僕にも優しく接してくれた。


「君の名前は、?」


「うーん、僕の名前は…、」


 どうしようか?

 前世の名前は何故か思い出せない。


「分からないの?じゃあ、私が決めてあげるよ!」


 今思えば、この瞬間が一番嬉しくて、楽しくて、最高だった。


「今日から君の名前は、白里はくり、だ!」


「…ありがと。」


「どういたしまして!」



 黒里の周りはラブコメみたいな世界だった。

 異性の幼馴染、義理の姉妹、小さい頃将来を誓い合った親友。

 全員女の子だったから、今思えば百合だよな…

 まぁ、この頃はみんな小学生だから黒里は誰も選ばなかったけどね。


 そして小学校卒業の日、この日は、黒里と僕にとっての最悪の日になった。

 いや、最悪なんて生温いと感じるほど、最悪を超えた最悪。

 語彙力が無いからうまく伝えられないけど、許してほしい。

 国語は苦手なんだ。


 卒業式の日、黒里は誘拐された。

 身代金とか要求するのかな?とか思ったけど、あの外道達はそんなことはしなかった。


【プロバンス・リコレクター】

 人類の進化を目標として、非道な人体実験を進めていた危険な組織。

 黒里が誘拐された理由は、人体実験のためだった。

 ふざけるな。

 何度もそう思った。

 僕が代わりにやるから。

 何度も、何度も、願った。


 実験は過酷で、毎日毎日行われた。

 黒里は夜に泣きながら言う。


「帰りたい。帰りたい。みんなと、過ごしたい…」


 僕はそれを見て無いはずの心を痛めた。

 僕は、声をかけてあげられなかった。


 次の日、僕の夢は覚め、僕の願いは叶った。

 叶って、しまった。


 自分の身体に触れながら黒里の名前を何度も言った。

 それでも、黒里が反応してくれることはなかった。

 僕と黒里の繋がりは、切れた。


「……里…黒里…黒里…」


 他人から見たら壊れた人に見えるのだろうか?

 もう、いっそ壊れてしまいたい。

 だって、だって僕は、黒里の「みんなと一緒に過ごしたい」という夢を壊して、自分の「代わりたい」という夢を叶えてしまったから。


 黒里のために思ったことが、感謝をしてもしきれないほどの恩を、僕は仇にして返してしまった。

 いや、もうそんな仇を返す相手もいない


 今日は、規模の大きい実験でかなりのストレスが溜まり髪の色が薄れてきて、白くなった。


 今日は脳を弄られた。

 人間が一生をかけても手に入らないほどの知識を手に入れた。

 すぐにその知識は他の子に移された。


 今日はかなり痛い思いをした。

 失敗作が暴れたらしく、鎮圧には成功したが、僕の手足はなくなってしまった。

 すぐ治ったけど…



 今日は…


 今日は…



 今日は最後の実験らしい。

 感情、感覚、生命、全ての遮断と接続。

 もう、実験は嫌だ。




 サイレンが鳴り響き、二人の男が必死に手を動かしている。

 次第にサイレンの音は弱まり、一人の男が疲れた口調で言う。


「……失敗だな。遮断は上手くいったが、接続ができていない。もう死んでいる。」


「そんな!なんとかならないかっ!?私が手塩にかけた最高傑作だぞ!」


「無理だ。捨ててこい。」


「…くそっ!」


 命令された男は大きな湖の中に少年を投げ入れる。

 湖は赤く染まっており、鯉が泳いでいる。

 湖から泡が出てくる。


「ぶふぉ、がぼぉぼぼ!」


 少年が苦しそうに湖から飛び出す。


「うげぇ、ここの水気持ち悪…成功したのに失敗だと思われて、捨てられた、か。」


 なんで、だよ。

 なんでなんだよ。

 なんで、なんで、なんで、なんで、なんで!

 黒里じゃなくて、僕なんだよ、!

 僕だけがいい思いをして、!

 僕なんか、死んだほうが良い、

 生きてて良い、人間じゃ、ない。


「あぁっ!くそっ!!くそっくそっくそっ!くそぉっ、!」


 僕は、現実逃避をしていた。

 だからだろうか?


「あ、っえ?幻、覚?」


 目の前に、黒里が、いた。


『白里。それは私の体だよ?大切にしてよね。本当にもう。』


「あ、えと、ごめ、ごめんなさ、ごめん…」


『謝らなくていいよ!私の命はどっちにしろ、研究所でなくなっていた命だったし。それを、白里にあげられるなら、私は満足だよ。』


「…君が、黒里が満足していても、僕は、、嫌だ!」


『はぁ、もう長ったらしく言うのは止める!要するに私は、白里に生きていてほしいの!これが、私の最後のお願い。私の守護霊を名乗るのならさ、私の願いくらい叶えてよね!』


「あぁ、うっうう、………わ、分かった。僕が、君の願いを叶える!」


『……うん!それでこそ、私の守護霊だ!そんなに泣くなよ、?私の体なんだからさ、もっと堂々と、ね?…そろそろ行かなくちゃ。そんな顔しても駄目だよ、バイバイ、白里。ありがとう、白里。君がいて、楽しかったよ。』


「こちら、こそ。黒里、僕は、ずっと君の親友だ。」


 黒里は驚き豪快に笑った後、にこりと微笑み、消えていった。


 僕の、幻覚、かな?

 それでも、黒里と、出会えた。

 黒里、僕は頑張って、生きてみるよ。

 僕だけの人生を、歩んでみるよ。

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