第5話 第1回異世界居酒屋会議

「それでは、今日の大当たりを祝して……乾杯!」


 とある異世界の居酒屋。テーブル席の一角で3柱の上級神と1柱の下級神がビールのジョッキを鳴らしていた。

 主にインターネット上にて創作された物語の世界を管理する新文神・ナロウ。

 主にコンピューターゲームの世界を管理する電遊神・ユニティ。

 破棄されるべき世界を選定し、実際に処理を担当する廃棄神・エターナル。

 そして、そんな彼らとパチンコを打ちに行っただけなのに何故か飲み会に参加させられている下級神ひらしゃいん・フィオラ。


(どうして……どうしてこうなった……!?)




 〜〜〜〜〜回想〜〜〜〜〜


 いつものパチンコ店でいつも通りユニティが大勝ちし、玉と引き換えに貰った札を隣にある建物に持っていってものすごい額のお金と交換した。


「いやあ稼いだ稼いだ」


「フィオラ、あいつ廃棄世界にブチ込んで魂ごと消し飛ばしてやりましょうか」


「それやったらエターナル様がミイラになるだけですからお控えください。今貴女を失えば世界がパンクしてしまうので」


「歯がゆいですね……こっちはただでさえ消えかけの神徳を消費してまで打ちに来ていると言うのに……」


「これから奢るんだから勘弁してよ。大体、エターナルは何でそうまでしてパチンコに来るんだい」


「廃棄世界の管理なんかしていると、あの音と光は極楽そのものに見えてしまうので」


 これはエターナルだけではなく、神達に共通する思考である。花は咲き、蝶は舞い、美女が踊ると噂される極楽ではあるが、パチンコの演出もそれに似通っている。

 咲くのはチャッカーで、舞うのはパチンコ玉で、踊るのは液晶の演出なのだが。


「あら、あんたらまたつるんで打ちに行ってたの」


 パチンコ屋の裏手からナロウがスッと現れる。フィオラを挟んでいがみ合っているユニティとエターナルを交互に睨んでいるように見える。


「ナロウ様もパチンコ行くんですか?」


「安定して喫煙所があるのがここだけって話。今やコンビニですら置いてないからね」


「昔は体の良いセーブポイントだったんですけどね……コンビニ……」


「喫煙所をセーブポイント扱いしないでくれるかな。今やオートセーブが主流なんだよ?」


「だったらフィールドでぐらい吸わせてもらいたいものね」


 天界に於いても分煙が推奨されている。路上喫煙など以ての外で、神罰が下る。

 最も、ナロウほどの上級神に神罰を下せる者は祖神ぐらいの者しかいないのだが。


「ところで、えらくご機嫌じゃないのユニティ。もしかしてまた勝ったのかしら?」


「僕はあらゆるゲームを極めた神だぜ?確定で当たる台なんかお見通しさ」


「だったら私もその台に座らせてくださいよ」


「エターナル様に同じです」


「フィオラもエターナルも神徳が低いからダメなんだよ。僕は良い台を選んだ上で神徳使って追記しまくってるんだから」


 このおとこがやっているのは神の力を使った運命操作イカサマだ。別にユニティぐらいの神であればパチンコで稼がなくても生きていけるのだが、パチンコが電脳遊戯ゲームである以上はだけなのだ。


「んなくだらないことに神徳使って……そんなんだから【超人気新作ゲームハード】の抽選に落ちんのよ。今、何回戦目?」


「無事5回戦進出を果たしました……ッ」


 ユニティは涙を流した。


「あっそ。ところでこれから呑みに行くんだけど、あんた奢ってくれない?」


「あ、ナロウも来ます?私達、これからこの穀潰しの金で奢って貰う予定なんですよ」


「うるさいよ世界潰し。しかし困ったな……ナロウまで来るとなると神目を避けたいんだよな。フィオラもいるし」


(えっ、これ私も行くの確定してる?)


 てっきり奢られるのはエターナルだけだと思っていたフィオラだが、自分が頭数に入っているとは到底思っていなかった。

 上級神と下級神の差は歴然としている。普通は下級神たる自分などプライベートで相手にもされないはずなのだ。一緒にパチンコ行っといて今更だが。


「そしたら、いい店知ってるわよ。祖神様がこないだ教えてくれたのよ」


「そ、祖神様が!?」


「何でも、祖神様の管理する世界にあるらしいわ。祖神様御用達のお店らしいんだけど、行く?」


 だんだん話が大きくなってきてフィオラは困惑する。上級神3柱と呑みに行くだけでも異常なのに、顔すら見たことのない祖神行きつけの店など。


「マジか。天界こっちにお戻りになられたというだけで珍しいのに、ナロウは話まで……いや、これは奢り甲斐があるぞお!」


「私も同伴させていただきます。運良く祖神様に会えるのでしたら、廃棄の仕事を手伝って貰うよう頼み込めますからね」


「話は決まったわね。それじゃ、飛ぶわよ」


「えっ、ちょっ……おああーーーーーッ!?」


 ナロウはフィオラとエターナルの腰を掴んで飛翔した。下級神ごときが上級神の意見に逆らえるはずもなく、異世界へと拉致されてしまったのだった。



 〜〜〜〜〜回想終わり〜〜〜〜〜



 という訳でフィオラは諦めてビールを飲むが、正直味がしない。ヤニ友達とパチ友達とはいえ上級神3柱と同じ席な上に、祖神の領域に来てしまっているのだ。無理はない。


「うわっ!やっぱ祖神様の行きつけだけあって美味しいね!」


「え、枝豆だけでものすごくお酒が進みます……!」


「私も来るのは初めてだけど、ここまでとはね……まだ前菜すら来てないのにこれよ……」


 などと上司たちは言っているが、フィオラには味がわからない。実家が農家なので枝豆自体の品質は良いと感じているのだが、緊張でそれどころではない。

 居酒屋にしては異質だ。大将は黒い丸眼鏡をかけた黒い長髪の怪しい男で、何故か店内にグランドピアノが備え付けられておりそれを金髪ボブカットの女性が演奏している。その異質さにすら気づけないでいた。


「……ところでフィオラ、今日のお客様かなりおかしかったわね」


「あ、ああ……重ねて申し訳ありません。退勤直前にやっか……いえ、とても個性的なお客様をお連れして……」


「ナロウの管轄は最近変わり種が多いからねえ。どんなのだった?」


「それが……勇者パーティに入って追放されたい、と仰るものですから……」


 ユニティは驚いて食べようとしていた枝豆をエターナルの方へ飛ばしてしまった。

 そのエターナルは動じず、むしろフィオラの方を見据えていた。


「そっそれは……お気の毒に……」


「やめてください。そういうの、私の管轄になりがちなんですから」


「所謂追放モノ、というやつなんだけど……普通はこういうのって小世界の中で起こり得る、転生とはあまり関係ない事案なんだけどね」


 追放モノ。もはや昨今ではありふれた創作ジャンルの一つだ。

 基本的にはとある組織、あるいは仲間から追放を宣告されて1人になったところで自由気ままに生活を送るというものだ。追放される理由は被追放者の実力がその集団に釣り合っていない、外れスキルを持っている、単なる逆恨みなど多岐にわたる。

 その中でもオーソドックスなのが勇者パーティからの追放だ。勇者と一緒に旅をしていたら、他の仲間から追放を宣告されるのが冒頭のお決まりとも言っていい。


「あれは【追放モノの源流となったゲーム】が発端だから僕の責任でもあるんだけど、創作者ってのはそんな微々たる事象からネタを拾ってくるんだから参っちゃうよ」


「恐らくその影響でしょうね。俺は真の仲間じゃないって言われて追放されるけど、実は戦闘面以外で活躍していて俺が抜けた後は勇者パーティがガタガタになってざまぁしたい!などと仰っておりまして……」


 ざまぁ。これもジャンルの一つであり追放モノとの相性が非常に良い。

 要は主人公を不当に虐げた者への復讐を行うというものである。不快感を読者と共有し、加害者を何らかの形で断罪してスカッとさせるものである。


「でも、大抵はその後のビジョンがなくて行き詰まってしまう事が多いんですよね……実際、幾度もそういう世界を消してきました」


「こないだゲンファンやルインと呑んだ時も同じ事言ってたわね……ブラック企業?ってやつに対して行われる事が多いみたい」


(ブラックなのはウチもなんですけどね……ケッ)


 フィオラはビールを一気に飲み干す。死後役所は創作者の急増によって業務が逼迫しているため、労働時間だけで言えばブラック企業……もといブラック役所と言っても差し支えない。

 だが、上級神や中級神に対して魂の強度が劣っているフィオラが追放されたところで誰も困らないし悪いのはフィオラなのでざまぁには発展しない。実家の農家でセカンドライフを送るのが精一杯だろう。


「それで、どうしたんだい?勇者パーティに入れて、かつ追放者の鼻を明かせる能力の持ち主なんて魂がよっぽど強靭じゃなきゃなれないぜ?」


「あまりにも面白かったから私の神徳を授けたわ。雑務に向いているスキルをこれでもかとね。ただし、それを活かせるかは本人次第だけど」


 今回ナロウが与えたパターンは、雑務を担ってパーティを裏で補佐するものだ。主人公が裏で頑張っていたおかげで旅が快適だったことに追放後気づく典型的とも言えるパターンである。

 ただし、それは勇者パーティが軒並み無能でなければ成立しない。戦闘極振りのせいで実生活やコミュニケーションがボロボロであることが条件である。

 あるいは、追放されないパターンも考えられる。パーティ全員が主人公の働きを認めている、または軽々しく追放しようなどとする視野狭窄に陥っている愚者がいない場合を指す。


「勇者というのは一部の例外を除いて大きな使命を背負った高潔な人格者である事が多いですからね。それに付随する仲間もそれなりのクオリティが求められます」


 その会話をこっそり聞いていた店主とピアノ弾きは一瞬驚いたが、すぐに各々の仕事へと戻った。


「ナロウ、参考までに聞くけど……どういう世界に飛ばしたんだい?」


「ウチの、至って普通のファンタジー世界よ。魔王が世界を支配しようとしているけど勇者が討伐に向かっているタイプの」


「【国民的JRPG】と似通ってるね。【社会現象を起こした続編の続編】だったら開拓地に送られる商人みたいになるかもだけど」


「魂が弱いくせに過剰な要求を通さんとしてきたんだから、世界の選定ぐらいはこちらの要求を通させて貰ったわ。さて、今頃はどうなっているのやら……」


 話が煮詰まってきたところでメインディッシュとおかわりのビールが運ばれてくる。

 神達はもう一度乾杯し、少しだけビールを呑んだ後で料理に取り掛かる。

 食虫植物のような見た目の葉が大半を占める食えなさそうなサラダ、多種多様な具材が揚げられている天ぷら、箸だけで切れるほど柔らかく煮られた豚バラ肉の塊、何の種類か分からない生魚の刺身など様々だ。


「すみません。私、お手洗いに……」


 そんな料理群に舌鼓を打っている上級神達と同席しているのが耐えられなくなったフィオラはトイレへと駆け込んだ。いくらパチ友とはいえ上級神たるユニティの金で飯を食うというのも手伝っていた。

 そして、フィオラのいなくなった卓は急激に空気が重たくなる。ここだけ重力が100倍ぐらいにはなったのではないかと言わんばかりだ。


「パチンカスどもさあ。そろそろにちょっかいかけんのやめてくれないかなあ」


「何を言っているんだ悪食。にコナかけてるのはそっちの方だろ?」


「あの子には廃棄神の後継としての才能が大いにあります。を潰しているのはお二人に共通します」


 一気に険悪な雰囲気になったが、この3柱は仲が悪いわけではない。全ては天界の神手不足が原因である。

 魂の流入量が増えてしまった事で下級神の業務は逼迫しているが、それと同じように上級神の負担も大きくなっている。

 だが、際限なく増える人と違って神は滅多な事では繁殖しない。何千年とも言える寿命を持つ故に増える必要性を感じないのだ。

 古代ならそれで良かったのかもしれない。しかし、今は人口規模が全然違う。人が増えるのに対し、神は絶対数を引き上げようとしない。故に、相対的に業務は滞ってしまう。

 下級神が上級神への熾烈な胡麻すり合戦を繰り広げているように、上級神もまた下級神へのスカウトに熱心なのだ。中級神を抱え込んでいる数イコール管理出来る世界が増え、神徳が溜まりやすくなるからだ。


 では何故、下級神の中でも魂の強度が低く昇進の芽がないはずのフィオラがここまで執着されているのか。


「潰すなんて心外ね。私はそうなるようにというのに」


「僕だって同じさ。というか君だってじゃないか」


「あなた方に取られたくないから付き合っているだけです。それよりもっとがあるというのに……」


(えっ……何……?フィオラですが、酒場内の空気が最悪です。案件?)


 トイレから帰ってきたフィオラが見たのは、帰るべき卓の周囲だけ紫色のオーラが見える光景であった。その原因である3柱の上級神は何やら物騒な事を言っている。


(もしや、私の中座が原因……!?若しくは何らかの粗相を……!?ナロウ様が追放モノの話を始めたのも、私を追放するため……!?)


「手っ取り早いってあんたねえ……確かに彼女の素質を開花・認識させるには多少手荒なことも必要だけど……」


「一気に進めるにはこれが一番なのです。まずは廃棄世界を一つ用意し」


「突然の中座、大ッ変ッ!申し訳ありませんでしたあああああ!」


 そこへすかさず土下座するフィオラ。3柱はきょとんとした面持ちである。


「ど、どうしたんだいフィオラ。別にトイレぐらい自由に行けば良いじゃないか」


「何卒、何卒廃棄世界への追放だけはご勘弁を!」


「……エターナル」


「ご、ごめんなさい!大丈夫ですよ!そのような

 事は致しません!ほ、ほらこれを持って!」


 エターナルから差し出されたのはビールのジョッキ。なんとか落ち着いたフィオラはそれを持って席につく。


「それでは、改めて乾杯!」


「か、乾杯……」


 その後のフィオラは家に帰るまでの記憶がなかった。飲み過ぎたからではない。緊張し過ぎていただけで二日酔いの症状は出ていない。

 翌日出勤するなり同席した3柱からは改めて謝罪された。そのせいで同僚から詰められたが、フィオラには何の事かさっぱり分からない。むしろ粗相をしたのは自分の方だと思っているからだ。

 業務のついでにナロウの執務室へ寄ったが、昨日の話に出た転生者には労働意欲が欠落していたらしく、勇者パーティに入ることすら出来なかったらしい。そのため、ナロウから貸し与えられた力は没収されていた。

 自分はああならないようにしよう。そう思ったフィオラは今日の業務をひたすら真面目にこなすのであった。

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