三十六話 神殺しは迷宮の中で 其の漆

 断たれた首が地面へと転がり、それと同時に吟千代ぎんちよが着地する。


「やりましたね! バサラ殿!」


 吟千代ぎんちよは嬉しそうにバサラへと近づくとお互いに手を上げ、パチンと手を鳴らし合う。そんな中、転がっていた右象左象うぞうさぞうの首が声を上げた。


「お主ら」


「「首が喋った?!」」


 バサラと吟千代ぎんちよは倒したと思った相手が喋り出したことに驚き飛び上がるも彼らを落ち着けるために頭が地面に落ちている右象左象うぞうさぞうは再び口を開く。


「驚かすつもりはなかったんだがな。良い、首を断たれりゃ何も出来んさ。我は此処を守護する代わりに此処から出なければ不死身。そう言う呪いにかかっているのでな。主らは合格、首を体につけてくれさえすれば通って構わん」


 吟千代ぎんちよは言われるがままに首を近くに持って行くと右象左象うぞうさぞうは自身の体に首をつけ、ゴキゴキと鳴らした。


「本当につきましたな」


「ね」


 バサラと吟千代ぎんちよが不思議そうに眺めていると右象左象うぞうさぞうは再び正座をし、部屋の中央に座った。だが、一向に動かないバサラ達が自分の目の前で鞄の中から鍋やらを取り出し始めると右象左象うぞうさぞうは気になり、彼らに問いた。


「何故此処で燻る。下に向かわんのか?」


「うん、そうなんだけどさ。僕たち一旦、ここでご飯を食べようと思うんだけど右象左象うぞうさぞうも一緒にどうだい?」


「主らはひょっとして阿呆なのか?」


***


 そんなこんな言いながらバサラ、吟千代ぎんちよ右象左象うぞうさぞうは三人で火を囲っていた。大男には似合わぬ大きさの茶碗の中にはスープと炊き立てのご飯が入っており、乾燥肉を一人二枚ずつ分けられた。


「バサラ殿の鞄はなんでそんなに色々入っているんだ?」


 吟千代ぎんちよは野菜がゴロッと入ったスープを飲み、箸でご飯を掻き込みながらバサラに聞くと彼は自分の分の茶碗に食べる分を分けると答えた。


「一人でもいっぱい食べるからね~。食と言うものはどんな時でも心と体を温めてくれる。辛くても悲しくても全てを奪われてもお腹は空くし、食べなきゃ何も始まらない。だから、いつでもいっぱい食べれるようにしてるんだ。真の戦士は戦場で飯を食えることなんて言葉があるくらいだしね。右象左象うぞうさぞうも遠慮せずに食べて!」


 バサラ言われるがままに右象左象うぞうさぞうは体格とは似合わぬ綺麗な持ち方で茶碗と箸を持ち、食べ始めた。


 スープを飲み、ご飯を口に運ぶ。何年振りだろうか、人と食卓を囲むのは。自分がいた場所、死に損なった場所、二人の天津神が争いし時代。


 フラッシュバックし、思い出す。

 しかし、それは今はどうでも良く、彼らと囲う食に集中した。


「バサラ、主は飯を作るのが美味いな」


「あはは、お褒め頂けて光栄。舌にあって何よりだよ。吟千代ぎんちよが全部食べちゃうから負けないように食べて!」


「ふぇっふぁ、ふぉんなふぉとひぃまふぇんふぉ!(拙者、そんな事しませんよ!)」


 吟千代ぎんちよは興奮気味に喋りながらも箸を止めない。それを見てバサラは笑っており、右象左象うぞうさぞうもまた、兜の下から優しく微笑んだ。

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