十六話 初めては獣狩りですか? 其の漆

 幾つもの禍々しい形を成した獣達。

 それらの首を切り落とし、機兵と少女。


 血の上をクルクルと少女は周り、それらを行った機兵に微笑み、口を開く。


「ねえ、ラビット、今日は人に会えるかな?」


「わかりません。だけど、何か途轍もなく底知れない、そんな強者と会える気がします」


 死体の山の上に立つ機兵と少女、彼らの視線の先、それに写るものは?


***


(兎狩りって聞いてたのに、なんだ、こいつは!?)


 初めての任務。それを受け、意気込んでいたはずだったバサラは少女とそれに付き従う人型の人工物と対峙する。


 少女がバサラを指指すと人工物は彼目掛けて腕のようなモノから光の線を放った。


 涅槃静寂ニルヴァーナの刃で弾くもそれは地面に逸らされると爆発した。地面から煙が舞う最中、人工物はバサラとの距離を詰めており、彼目掛けて容赦なく攻撃を続ける。


 連撃に重ねる連撃、一撃一撃が必殺となるレベルの拳を人工物は放ち続け、バサラは耐えきれず吹き飛ばされた。


 吹き飛ばされたバサラが簡単に立ち上がると少女は面倒くさそうに人工物に喋りかけた。


「おじさん、硬い。ね? ラビット」


 ラビットと呼ばれた人工物は頭に該当するであろう単眼がついた部位を縦に振ると口はないがどこからか声に似た音を出し、反応した。


「アリス、あれは私達と同じ。やるなら本気でなければならない」


「あらそうなの。なら、本気でやろうかしら」


***


 遡ること数時間前。


「御師様! 起きてください! 初の任務! 初の武勲をお上げになる日ですよ!」


 ジータが勢いよくドアを開けるとそこには目を閉じて、瞑想をしていたバサラがベッドの上に座っていた。


 彼女のモーニングコールにより、バサラは閉じていた目を開けるとそれに応えた。


「ありがとう、ジータ。起こしに来てくれて」


 バサラはニッコリと笑顔を浮かべるとジータは少しばかり、恥ずかしそうな顔をして、ドアを静かに閉じた。そして、彼は寝巻きから昨日、ジータからもらった服に着替えると彼女がいる食堂への足を運ぶ。


 食器に乗せられていたパンと焼きたてのベーコンと目玉焼き。


 バサラは両手をつけ感謝を込めるとそれらに手をつけた。一瞬にして空になった食器を確認するとジータは彼の近くに寄り、口を開いた。


「御師様、早速ですが参りましょう」


「うん、これから頑張らせてもらうね! ジータ!」


 バサラは立ち上がり、腰に剣を差すとジータが向かう方へと歩いていく。


「元気があって嬉しいです、御師様。今日の御師様の武勲を上げる姿、楽しみにしております」


***


 つい数時間前まで、このような微笑ましいやり取りをしていたのにも関わらず、今現在、バサラは、兎狩りどころの問題ではない、別の何かと対峙することになっていた。


 目的のアルミラージはすでに死んでおり、いや、その周辺一帯の魔獣全てが殺され尽くされていた。


 バサラは魔獣の危機に晒されている村の近くに来ていたがそれらが一切現れる素振りを見せなかったため、何か別のことが起きていると判断し、辺りを探索していたところ、アルミラージの死体を持って現れた人工物と少女に遭遇したところ今に至る。


 出会った瞬間、その人型をした人工物からは神と同様の気配と氣を感じ取っており、警戒心を強めるもそれを無に帰すような速度で距離を詰めるとバサラを吹き飛ばした。


 理不尽なまでの力。

 そう、それはバサラがかつて戦って来た、神そのもの。


 バサラは吹き飛ばされるもすぐさま立ち上がり、少女と人工物の氣を見たところ互いに同じモノを纏っていた。


 故に、彼は迷いなく人工物に己の剣をぶつけ、獣狩りでは無い、それよりも危険を背負う何かと鎬を削る。

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