十四話 初めては獣狩りですか? 其の伍
決闘が終わり、騎士たちがその場から離れるとバサラは一人地面に倒れ込んだ。
(つっかれたぁ! いや、ユースって子、流石だね! ジータの右腕があんなに強いとなるとやっぱり、ジータはもっと強いんだろうな~)
そんなことを考えながら空を見上げると今日一日を思い返した。
道場を畳み、静かに暮らそうとしていたのが一転。弟子に連れられ、王都に来て、かつての相棒と再会し、弟子の部下と決闘をする。
自分でもいまだに心と体が追いついていない気がしており、空の青さだけが現実味を帯びていた。
(一気に、疲れが、来た、な、ちょっとだけ、ほんの少しだけ)
***
初めて神を殺した時、彼は何を思ったんだろうか。
自身の愛した
少年は剣を持ち、勝てぬと思えた存在を一人で、力のみで殺し、その時、彼は、若き日のバサラはこう思った。
案外、簡単に殺せるな、と。
そこからは速かった。
失ったものを取り戻すかの様に、相手の持つものを奪うために。
出会う神を殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し、殺し尽くした。
そして、最後は神が集う間にて、人の夜明けを告げ、歴史に刻まれることなく消えていった。
「良いのかい? 名誉も、地位も、誰に讃えられる訳もなく、誰に好かれる訳でもない! そんな人生に君は殉じると言うのかい? 人らしからぬ願いだな! 神ですら名誉も、地位も欲するのにお前は何も求めないのか?! 無償で、人類を救うと言うのか?」
戯神の一言。
それが30年間、バサラの心に引っ掛かる。
誰に評価されたい訳でも、誰かに語られたい訳でもない。そんな自分が、そんな自分へ神が放った一言は、その無欲に対しての怒り。
「俺は、人らしくないのか? 俺は、じゃあ、なんなんだ?」
***
「ひゃん!?!」
頬に何か冷たいものをつけられ、バサラは急に体を起こした。
「ふふふ、御師様、お可愛い声を出すのですね」
バサラの頬に水筒をつけたジータはいたずらに笑うと嬉しそうにしていた。
「こらこら、おじさんを揶揄うんじゃないよ」
「それにしても御師様、流石ですわね。一撃でユースをのすなんて」
「いやいや、あの連撃を耐え抜く自信がなかったし、一撃で決まってなければ不利になってたのは僕だ。だから、彼はすごい。確実に僕を追い詰めていた」
そう言うとバサラは水筒の口を開き、そこに入っていた水をごくごくと飲み始める。バサラは決闘後から何も飲んでいなかったため、その水は彼の渇きと疲れを癒す一杯となった。
少しばかりぼんやりとして、時間を過ごすとハッと何かに気づいたバサラはジータに質問した。
「と言うよりも、僕なんで決闘したんだっけ?」
「え?」
「僕、なんか知らず知らずに決闘をしてたんだけど」
バサラの言葉に、ジータはため息を吐くも、気にすることなくそれに答えた。
「話をよく聞かないところも少しずつ直して行きましょうね、御師様。今回、御師様には獣狩りをしてもらいます」
「獣狩り?」
「はい! 魔獣アルミラージの討伐です!」
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