鍵枷涙狩ルイティア

末幼羽還

第1話

『涙』とは何か。



-涙世界-


それは、涙に創られた世界でした。


深い青色と水色のグラデーション。


透明な、クリスタルダイヤモンド。


加工施した硝子細工の、草木、花々。


そして、涙硝子城。


全てが、架空庭園確かなる、癒しの空間。


"涙世界"それは、ルイティアとカイシェル。


ふたりきり平穏無事に暮らしていました。





「カイシェル?」






いつもと変わらない夜。


いつの間にベッドから抜け出したのか手洗いに行っているのだろう。


そう、思いたいが家の中を探し回っても見当たりません。


カイは何処へ隠されてしまったのか?



-その時-



小さな光の珠が、ルイティアの目の前に現れたした。




「ルイティア。はじめまして、『命の涙』を流す伝説の騎士。」


「…カイシェルは何処に居るのだ?」




ルイティアはカイシェルが心配でなりません、一刻も早く見つけ出さなければと焦燥に急かされました。


カイシェルの持つ"鍵としての開く能力"を盗賊達に悪用されてしまったら大変だ。

そう…"魔盗の扉"を開かれてしまわぬように。



「落ちついて聞いて下さい。カイシェルは魔盗子城の頭が使わす盗賊達に連れて行かれてしまったのです。」



「…この、命の涙が目的か。」



命の涙はいくらでもくれてやろう。



だから頼む…大切な人を俺の懐に還していただくぞ。



カイシェルは魔盗子城に向かう準備を整えた。


光の珠はルイティアに助言を伝い遺しました。




「儚くも潤わしいモノは、『人間の愛憎』よりも汚くて綺麗な想いはありません。」


「ああ。己の心に確りと矢を射そう。」




碧翠の森を抜けて、水溜の浮き草を渡り、クリスタルの氷鎌倉の中で一晩を明かしたり………


それは、それは、長い旅路を進みました。


険しい旅ではありました。






途中『涙狩り』にも合いました。






恐ろしい輩ではありました。


何故ルイティアの涙を奪うのか。


ルイティアの流す涙は、宝石で出来ているからです。


宝石の涙と呼ばれます。


ルイティアから流れる"宝石の涙"は涙狩りの輩によく奪われる。


泣き泣き帰って来ては、カイシェルを抱きしめた。


悔しい…悔しい…


そう、だから外の世界は怖いのだ。





しかし、そんなんじゃ人間は生きていけないんだ。


ルイティアは、涙狩りに涙を流された。


倒れては、光の珠に励まされ、また立ち上がる…。


カイシェルが待っている。


ルイティアを待っている。






「…哭いてはならんのだ。」






-そして-


涙狩りの防戦を突破し


辿り着いて目にした光景の黒い大地と敵城。


ルイティアは、一斉にして破壊をしました。



まず大地をマスカット。長剣を使い十字に刻むと地平から溢れんばかりの涙が天へ昇って行きました。


涙で視界を眩まし、目の前の黒幕、魔盗人の頭


とクロスソードしました。


互いが放つ水色とショックピンクの激しい閃光。


ぶつかりあって、また離れて、両者引かない。


カイは足で地を力いっぱい蹴り返し長剣を魔盗の胸に刺した。


魔盗の心から溢れんばかりの悲しみと怒りと失望が吐き出されました。


それは、黒煙になり天へ昇っていった。




「…っ来世で救われてくれ、魔盗人頭。」




パンッと黒煙が弾けて消えた。


すると黒煙の中からから吐き出されて現れたのは、愛しのカイシェルでした。


上空から降りてくるカイを、ルイティアは駆け足に両手で受け止めました。


包み込むように、そっと、彼女を広い腕が懐に抱き締めたのだ。


安堵に満ちたルイティアの表情は、柔に微笑んだ。


カイはルイティアの頬に、優しく触れました…。





「ルイティア…ごめんなさい。」


「カイシェル…!?」





魔盗の王が最後に残した黒幕。


魔盗の扉は開かれてしまっていた。


…カイシェルの力は、既に、使われてしまっていました…


ルイティアは上空の魔盗を睨み付けた。


カイティアが鍵に使われてしまった…。


遅かった。


だがしかし。


ルイティアが遺した"表裏一体"の裏言葉とはこれだ。




『消費に抗うな』




いつか使い果たす時が来るだろう


大切な人の為に


それは盗賊に奪われたお金よりも


大切な人の為に


使う一緒の時間だ


私だったら、それは、最も共に生きてきた"自分自身"と伝う名の、物語だ。


その物語の名前は………"命の涙"


彼はこう言の葉を告げました。





【己の涙、誰心開き、流せるか】





ルイティアは上空を突っ切る。


雲を裂き、雷より速く、雨の粒子達よりも……


皆が安心して楽しく暮らせる未来を作るんだ。


突っ切る、突っ切る、突っ切る。


夢を叶えるんだ。




ルイティアは「覚悟」を叫ぶ。




「水の軌跡」




を放ち魔盗の扉をまっぷたつに切りました。


天はターコイズ色の宙に晴れ渡りました。







地に着地。グレイシルバーのマントと銀メッキの防具が、太陽の日射しに反射し光る


風が彼の黒髪を撫で、赤い瞳がキラキラ輝いている。


そしてーーー






「ルイティア ! 」


「カイシェル… ! 大丈夫かっ ?怪我はなかったかのか…!?」


カイシェルはルイティアの頬を引き寄せると、キス。


細い腕を彼に回すと


涙をボタボタ溢した。



「ルイ…! ルイ…! う、うぅぅ…」


「よしよし。…よくがんばったな、カイ…。辛かったな。もう、大丈夫だぞ。」



背中を擦り、嗚咽を吐いた


喉が痛くなる位に熱く


命の涙が叫んだ


円を描く様にして。


"アーク"


光の輪がルイカイを中心に広がった。


すると、奇跡が起きたのでしょうか。


辺り一面に草木が芽生え、花が咲き誇り、自然界が甦りました。



黒煙の姿は消えました…。





「…これが命の涙の代償だな。」


「…綺麗。」


自然界からのプレゼントは、ふたりの"ある決意"を一層に、強く、強く、強固にしたのでした。


それも、冬から春へ繋なぐ頃の事。


水色とピンク色


この物語の固定色


その色の衣服を纏い儀式を祝う日は近い事でしょう。




ルイ


『ルイティア』


命の涙を持つ男。


銀色の衣鎧マント。


漆黒の短い髪。


赤く燃える瞳の輝き。


そして、左目に十字の眼帯





ルイティア、最後に聞くと命の涙とは?


「身を削る様な想いはもう御免だ。」


「あら、じゃあもう行かないでくださいな。」



ルイティアの豪腕に包まれて。


カイシェルはあたたかい、涙を流しました。


嗚呼…あったかい…キュウッと、胸が締まるわ…。


ルイ…私のルイ、だいすきよ。


ふたりは涙世界の殻を破り1歩前へ進みました。






物語を通して、必ず伝えたい事が、ひとつ、あるんだ。


それは………


「大人も子供も関係ない。いっぱい、涙いて、いいのだよ…。」


ルイティアの残した言葉でした…。










『光の珠』はルイティアの左目に還りました。


そして…


『命の涙』を流す事をを終わりました。


カイシェルにだけ、始めて見せました。


本当の 本物の 素顔です。





ルイティアは、ずっと、ずっと、その懐に顔を埋めて泣きたかった…。






本当の素顔に還ると人の仮面は砕かれる。






ルイティアの初めて流した。






『泪』でした。    







終わり

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