救世のマグニ ─奴隷の少年、魔王の手により英雄となる─
上衣ルイ
序文 創世記
最初、世界には暗闇と、ぽっかり輝く大きな黄金の種しかなかった。
ある時、種がぱっかり割れた。割れた種の中からは水と雲、そして創造女神ユグドラシルが現れた。
かの女神は天を支えるほど巨大であり、そして若草と黄金の髪を地の果てまで伸ばしていた。
女神ユグドラシルは、種の黄金色をかきあつめて太陽をつくり、照らされた暗闇に空と名付けた。
そして雲に命じて風と空気を生み出し、種の殻をていねいに割って大地を創った。
満たされた水に大地を浮かべると、ユグドラシルは涙と己の爪、ひと束の髪を水と大地に放った。
涙は水と混ざって海になり、爪は植物へ、髪は水を揺蕩う海藻に変わった。
大地ファンタジアの誕生である。
出来上がった世界を見て、女神ユグドラシルは満足すると、天上に暮らす神々の友を呼んで自慢した。
九柱の神々は、出来上がった世界を賛美し、祝福した。
女神ユグドラシルは、九柱の神々に生命を創って大地と海、空に放つことを許した。
神々は自身の体の一部を使って、めいめい好きな命を創った。
小柄なもの、背の高いもの、ツノを持つもの、尾びれを持つもの、翼を持つもの……様々な命がうまれた。
ユグドラシルと九柱の生まれた神々は、自らが創った命に宝を授けた。
智慧、勇気、優しさ、創造力、そして魔術。
おしまいに、女神ユグドラシルは銀色の小窓を空の果てに置かれた。これが「月」と呼ばれるものである。
こうしてファンタジアは完成した。
女神たちは世界を、自らの写し身である、知恵ある生命たちに任せて天に昇り、月からファンタジアを見守ることにした。
だが、この天地創造をよく思わないものがいた。
嫉妬深く強欲、怠惰で傲慢な、大飯食らいの狼マーナガルムである。
狼は女神たちが大嫌いであったので、何度も女神たちに嫌がらせをした。
地には己の毛をばらまいた。毛は醜く恐ろしい獣たちに姿を変え、他の命を襲うようになった。
海には己の血を流し込んだ。血はやがて雨や川にも流れて、これを飲んだ者たちは欲深さと嫉妬を覚えた。
空には己の唾を吐きかけた。唾の雨を受けた全ての命たちは、争い殺し合うことや誰かを欺くことに快楽を覚えた。
女神たちはこれを知り、創造物たちを傷つけられたことに、激怒した。
狼を懲らしめようと、女神達は戦争を仕掛けた。狼も大勢の蕃神たちを連れ、何年ものあいだ争った。
長い争いの末、女神の軍勢は狼たちに勝利した。
狼は地の果てにある大きな虚へと閉じ込められ、彼が時折暴れる時、ファンタジアの地や海が荒れるのだそう。
──三賢者メルトト著「ファンタジア天地創造」より抜粋
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