JKボディガードと異世界エルフ

亜逸

プロローグ

 ボディガードの山谷やまたには、依頼主クライアントを乗せた車を運転しながら、今自分が置かれている状況に著しく不満を抱いていた。


 今回の依頼主クライアントは、都心近くで行われている再開発計画を主導してきた、大手不動産開発会社の社長だった。

 なんでもこの社長は、利権に群がろうとした国内外の反社会組織を片端から突っぱねた結果、命を狙われるハメになったという話だった。

 そこで雇われたのが、山谷が所属しているチームも含めたボディガードだったわけだが、


(なぜ依頼主クライアントに最も近いポジションの護衛を、あんな少女に任せているんだ?)


 かく言う山谷も、二〇代半ばでありながら依頼主クライアントが乗る車の運転手という、相当に近いポジションに抜擢されていることはさておき。

 後部座席の社長の隣に座る少女に、山谷はバックミラー越しから不満と不審が入り混じった視線を向ける。

 

 服装は山谷たちと同じ、黒のスーツ。

 元々なのかこちらに合わせたのかネクタイはしておらず、上着の下に着ている女性用レディースパターンのワイシャツも白色だった。

 ボディガードという仕事柄、当然と言えば当然の話だが、濡れ羽のように黒い髪はみだりに伸ばしておらず、肩には届かない程度の長さに留めていた。

 顔立ちは、ボディガードよりもアイドルや読者モデルをやっていた方がしっくりくる程に整っており、高校二年生という年齢相応にあどけなさも残っていた。


 頭の天辺から爪先までボディガードらしからぬ少女の名は、神村かむら十七夜かなき

 信じられないことに、女子高生JKでありながら業界でも五本の指に入る凄腕ボディガードだった。

 だからこそ社長は、最も自分に近いポジションに十七夜を配置したのだろうと思いたいところだが、


「ほう。ならばお父さんは、またどこぞをほっつき歩いているのかね?」

「はい。一応、母の命日には必ず顔を出しに来ますので完全に音信不通というわけではないのですが……我が父ながらお恥ずかしい限りです」


 面識があるのか、十七夜と身の上話をしている社長の相好そうごうは、山谷たちと接している時に比べたら崩れがちになっていた。

 正直山谷の目には、社長は十七夜と談笑したいがために自分に最も近いポジションに彼女を配置したようにしか見えない。

 還暦を超えている社長からしたら、高二の十七夜なんて孫みたいなものなので、周りがむさ苦しくて息苦しい男のボディガードばかりな分、なおさらかわいく見えるだろう。


 だが、最も大事なポジションを奪われた上に、社長の口から「火急においては十七夜の言葉に必ず従うこと」という、耳を疑うような注文までつけられた身としては、彼女のことをかわいく思える要素は皆無等しかった。

 平時においては、山谷が所属しているチームのリーダーが全体の指揮を執ることになっているため、その一点だけは救いだった。


 などと余計なことを頭の隅で考えながらも、山谷は油断なく車を走らせていく。

 今車が走っている場所は、くだんの再開発エリア。

 再開発そのものは八割方完成しており、その出来映えを確認するために、社長は役員を連れてエリアの視察に訪れていた。

 ゆえに、走っている車は山谷が運転している一台だけではなく、その後ろには、会社の役員と、視察のために増員されたボディガードを乗せた計六台の車が続いていた。

 十七夜も視察のために増員された、ワンポイント起用のボディガードであることはさておき。

 警備の観点から見れば、最重要護衛対象である社長の車に先頭を走らせることにも、走行速度が時速二〇キロ以下の低速であることにもNGを出したいところだったが、他ならぬ依頼主クライアントが視察のためだからと要望を出してきた以上、従うしかなかった。


(NGを出したいといえば、を通ることもだよなぁ……)


 今走っている、ビルが多く建ち並ぶ区画に差し掛かったところで、山谷は気を引き締め直すようにしてハンドルを握り直す。


 この再開発エリアは、完成間近ゆえにろくに人がいない区画も存在しており、今車が走っている区画がまさしくそれだった。

 当然そういった区画には見回りの警備員を多めに配備しているが、今回の再開発は一つの町を丸々造り替えるほどの規模になっているため、どうしても警備に穴が生じてしまう。

 社長の命を狙う敵どもが、そんなわかりやすい穴を見逃してくれるとは思えない。

 自然、胃が疼くような緊張を覚え、ハンドルを握る手も汗ばんでしまう。


(……よくないな。ゴーストタウンみたいな雰囲気のせいか、必要以上に緊張してしまっている。こんなんじゃ、いざという時に動けな――)



「ブレーキっ!!」



 後部座席にいた十七夜が、突然声を張り上げる。

 透き通るような声音のせいか、不思議と逆らう気が起きなかった山谷は、半ば反射的にブレーキペダルを踏み込んだ。

 ボディガード全員が装着しているタイピンマイクの無線を通じ、十七夜の声に従った全ての車両が急停止した直後、



 地を揺るがすような轟音とともに、山谷たちの乗る車の一〇メートル前方で爆発が巻き起こった。



 強化ガラスでなければウインドウが割れていたであろう衝撃が車を震わす中、山谷は瞠目してしまう。

 この目で、はっきりと見てしまったのだ。

 右斜め上方から飛んできたロケット弾が、道行く先の道路に着弾した瞬間を。

 十七夜にブレーキを踏むよう促されてなければ、ロケット弾がこの車に直撃していたところだった。


(ロケットランチャーだと!? 正気か!? ここは日本だぞ!?)


 かつて経験したことのない過激な襲撃に狼狽うろたえる中、またしても十七夜の透き通るような声が耳朶じだを打つ。


「伏せてくださいっ!!」


 その言葉に従って山谷がハンドルよりも低い位置まで頭を下げる中、十七夜は隣に座っていた社長を押し倒す。

 半瞬後、フロントウィンドウと、社長が背中を預けていた背もたれシートバックに、に指先ほどのあなが穿たれた。


(今度は狙撃だと!?)


 想定外の連続で狼狽しきりなものの、ボディガードとしてよく訓練されていた山谷の体が、思考を介するよりも早くに助手席に置いていた防弾バッグを掴み取る。


 その最中さなか、十七夜は依然として社長を押し倒した体勢のまま、ワイシャツの胸元に取りつけていたタイピンマイクに話しかける。


古川ふるかわさん。三時方向すぐ手前にあるビルの三階に砲撃手が、一時方向三〇〇メートル先にあるビルの屋上に狙撃手がいます。すぐに人員を向かわせてください」


 古川とは、山谷が所属しているチームのリーダーの名だった。

 ほんの十数秒前ならば「俺のリーダーに何を偉そうに命令している」と思っていたところだろう。

 だが、予知さながらに砲撃と狙撃を察知し、依頼主クライアントはおろか自分の命すらも護られてしまった今となっては、「火急においては十七夜の言葉に必ず従うこと」は最早当然のことだと思えてしまう。

 自分の掌の返しっぷりに、それこそ火急の状況でなければ、苦笑の一つや二つ漏らしていたところだろう。


「役員の方々を乗せた車は、今すぐこの場から離脱してください。敵はもう社長さんの乗る車を特定しているので、標的ではない皆さんを無理に追うような真似はしないはずですから」


 依然としてタイピンマイクから指示を飛ばす十七夜の言葉に、山谷は片眉を上げながら訊ねる。


「俺たちは離脱しないのか?」

「『しない』というより『できない』ですね。狙撃手が二射目でタイヤをしっかりと撃ち抜いてきましたので」


 だからなんでわかるんだ?――と訊ねたいところだが、そんな悠長なことをしている暇はないので、別の質問をぶつけることにする。


「だったら、どう動く?」

「わたしが出ます。砲撃手と狙撃手を除けば、敵はあの人たちで打ち止めのようですから」


 そう言って、十七夜が頭を低くしたまま右手方向に視線を向けたので、山谷も彼女に倣って視線を向け……思わずギョッとしてしまう。

 右手方向のビルから、銃で武装した男たちが飛び出してきたのだ。

 数は五。内四人が拳銃を、内一人はあろうことか短機関銃サブマシンガンを携えていた。


 言うまでもない話だが、日本の法律上、警察でもないボディガードには銃の携行を許されていない。

 武装と呼べる物は特殊警棒と防弾バッグくらいだ。


 だからこそ、山谷は色を失ってしまう。

 相手の数と装備は、仮に手元に拳銃があったとしても勝機が薄いものだったから。


(……いや、待てよ……)


 山谷はふと思い出す。

 今し方、十七夜が言っていた言葉を。


「神村……君は今、『わたしが出ます』と言わなかったか?」

「はい、言いました。襲撃要員が出てきた時点で、ロケットランチャーは一発限りと見てまず間違いありません。ですので、社長と山谷さんは気兼ねなくこの車に籠城でき、わたしもある程度は自由に動けますので」


 十七夜は平然と答えながら、敵が迫る右手側とは反対側のドアを開けようとする。


「そ、そういう話をしてるんじゃない! 丸腰で銃の相手をするつもりなのかと訊いてるんだ!」

「わたしのことを心配してくれているのであれば、どうかお気遣いなく。あの程度の戦力が相手ならば問題はありませんので」


 言葉そのものは理解しがたいどころか、理解そのものを拒みたくなるような内容だった。

 だが、微塵の動揺も感じられない落ち着き払った声音で断言されたせいか、山谷はなぜか異論を唱えることができず。

 その間にも射程距離までやってきた敵が、こちらの車に容赦なく銃弾を浴びせかけてくる。


 ウインドウだけでなく車体そのものも頑丈に造られているため、弾丸は一発も車内に届くことはなかったが、それでも山谷は内心ビクビクしながらも、弾丸が貫通された場合に備えて社長の盾になる位置に移動し、防弾バッグを展開する。

 肝が据わっているのか、それとも自分が乗る車の強度を信頼しているのか、社長は頭を低くしてはいるものの、山谷よりも余程落ち着いている様子だった。


 そうこうしている内に、敵がいる方角とは反対側のドアから車外に出た十七夜が、突然スーツの上着を脱ぎ始める。

 意図は山谷でも理解できる。

 十七夜は、盾となっている車体から飛び出す前に、上着をあらぬ方向に投げることで敵の注意を引きつけるつもりなのだ。

 だけど、なぜ今すぐにでもそれを実行に移さないのかが、山谷には理解できなかった。


 いったい何を待っているのか?

 それとも何かしらのタイミングを計っているのか?

 敵の動向に注意しながらも、十七夜の様子を窺っていたその時、彼女はその手に持った上着を車のフロント側に放り投げ、自身はその反対側となるリア側から飛び出していく。


 首尾良く釣られた敵の銃弾が上着を蜂の巣にする中、十七夜は女豹さながらの速度で疾駆し、瞬く間に間合いを詰めていく。

 だがそれでも、十七夜が間合いを詰め切るよりも、五つの銃口が彼女を捉える方が余程早かった。


 やられる――と思った山谷が、目を瞑りそうになったその時、十七夜は進行方向とほとんど直角になる勢いで真横に飛び、急激な動きについていけなかった敵たちが、彼女のいなくなった空間に銃撃を浴びせる。


 神業の如き回避を諸手もろてを叩いて讃えたいところだが、いちいち照準を合わせる必要がある拳銃はともかく、〝面〟による攻撃が可能な短機関銃サブマシンガンの前では、そう何度も通じるとは思えない。


(ここは、俺も飛び出して注意を引きつけた方がいいかもしれないな……!)


 と思ったその時だった。


「しまッ――!?」


 短機関銃サブマシンガンの銃手が、慌てふためきながらも自分の体をまさぐり始める。

 その様子を見て、山谷は気づく。

 十七夜が囮の上着をすぐには投げ捨てなかったのは、短機関銃サブマシンガンが弾切れになる瞬間を見計らっていたからだということに。


(まさか、音だけで銃の種類と、撃った弾数を把握していたというのか!?)


 山谷が驚愕している間に、いよいよ四肢が届く間合いまで詰め切った十七夜が、疾駆の勢いを利用した掌底を鳩尾に叩き込んで、最も厄介な短機関銃サブマシンガンの銃手を一撃で昏倒させる。

 すぐ傍にいた一人が即座に銃口を向けてくるも、その時にはもう繰り出していた十七夜の蹴り上げが持ち手ごと拳銃を高々と跳ね飛ばしていた。

 その間にも残りの三人が十七夜に銃口を向けようとするも、拳銃を蹴り飛ばされた味方が射線上にいるせいで引き金をひけず。

 そこまで計算に入れていた十七夜は、続けて足刀蹴そくとうげりを繰り出し、躊躇という隙を見せていた三人目がけて、眼前の敵を蹴り飛ばした。

 それによって揉みくちゃになってしまった四人の延髄に次々と手刀を叩き込んでいき、瞬く間に全滅させた。


 銃で武装した五人の大人が、たった一人の女子高生ボディガードを相手に、為す術もなく制圧された。

 その事実は、山谷に衝撃を与えて余りあるものだった。

 正直山谷の目には、十七夜が女子高生の形をした化け物にしか見えなかった――と言いたいところだが。


 こちらに背を向けている十七夜の首元。

 そこからチラリと顔を覗かせている、ワイシャツの値札タグの存在に気づいた山谷は、思わず目が点になってしまう。

 どうやら値札タグの存在には社長も気づいているらしく、笑いをこらえるようにしてプルプルと震えていた。


 どうしよう? 教えてあげるべきだろうか?――と割りと本気で悩んでいたところで、十七夜がこちらに振り返ってくる。

 なんだかんだ言ってもこういうところはまだ子供なのか、十七夜は控えめながらも「むふー」とドヤ顔を浮かべていた。

 ちょっと得意げになっている彼女に対して、上げて落とすような真似はできないと思った山谷は、値札タグについては見なかったことにしようと心に決めた。



 ◇ ◇ ◇



 再開発エリアがある、外津市そつし

 その市内にある、社長が手配してくれたホテルの部屋に戻った十七夜は、きっちりと入口の扉を閉めてから深々と安堵の吐息をつく。


 あの後、襲撃犯を警察に引き渡すことも含めた事後処理を他の人員に任せた十七夜は、車を乗り換えた上で、引き続き社長の視察に随行した。

 日本にあるまじき銃撃戦を経験したにもかかわらず、当たり前のように視察を続行した社長の胆力はさておき。

 あの襲撃以降は平穏の一語に尽きるほどに、つつがなく視察を終えることができた。


 そして、視察時限定のワンポイント起用だった十七夜はその時点でお役御免となり、今日のところはこのホテルで一夜を過ごしてから、明日自宅――といっても実家ではなく、進学の際に借りた賃貸マンションになるが――に戻る手筈になっていた。


 依頼主クライアントである社長や役員の方々は勿論、一緒に護衛についていた同業者たちも、たいした怪我もなく仕事を終えることができたのは喜ばしい限りだが、


「上着、一着ダメにしちゃった……」


 今度は、ウンザリとしたため息をついてしまう。

 新しい上着を買った際は、領収書を送ってくれたら費用は立て替えてあげようと社長は言ってくれたが、お金がどうこうというよりも、店に採寸に行ったり、立て替えてもらうための事務手続きをしなければならないことが、十七夜にとってはちょっと以上に面倒くさかった。

 ウンザリとしたため息をついてしまったのも、それゆえだった。


 個人でボディガードをしていると、こういった事務処理が本当に面倒だと思いながら部屋の奥へ向かい、楽な服装に着替えるためにワイシャツを脱いでベッドの上に放り捨て……気づいてしまう。

 ワイシャツの後ろ襟から「やあ」と言わんばかりに顔を出している、値札タグの存在に。


 十七夜は、今日の自分の仕事ぶりを思い返す。

 上着を着ていた間は、もしかしたら、上手いこと値札タグは隠れていたかもしれない。

 けれど、上着を脱いだ後はそうはいかないだろう。

 仮にワイシャツの内側に値札タグが入り込んでいた場合、値札タグの角が首周りにチクチクと当たってすぐに気づくことができたはずだ。

 となると、値札タグはワイシャツの外に出ていた可能性が濃厚。

 そして自分は、襲撃犯を撃退した際、社長と山谷が乗る車に背を向けていた。

 そこから、ちょっとドヤ顔気味に振り返ってしまった。

 たぶん、いや、間違いなく、二人からは値札タグが丸見えになっていただろう。


 冷静に、あくまでも冷静にそこまで思い返した十七夜は、憎き値札タグを押し潰すようにしてベッドの上に倒れ込み、



(あぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!)



 瞬く間に耳まで真っ赤になった顔を両手で隠しながら、ベッドの上でゴンロゴンロと転がって身悶えた。


(なんで誰も教えてくれなかったの~~~~~~~~~っ!!)


 社長と山谷を筆頭に、まず間違いなく値札タグの存在に気づいていたであろう他の人たちも非難しながら、ベッドの上をゴンロゴンロと転がる。


 ひとしきり身悶え、うつ伏せになりながら枕に顔をうずめたところで、はたと気づく。

 今の自分の姿は、これはこれで人に見せられたものではないことに。

 正直、痴態と言っても差し支えなかった。


「うぅ……こんなところ誰かに見られたら、三日は立ち直れない自信があるぅ……」


 話は変わるが、十七夜は敵意や殺意といった、害意を孕んだ視線ならばたとえ一キロ以上離れた場所でも察知できるほどに鋭い感覚を有している。

 砲撃や狙撃を事前に察知できたのも、その鋭敏な感覚のおかげだった。

 逆に、害意の欠片もない視線に対しては、鈍感に片足を突っ込んでいるほどににぶかった。


 ゆえに、だった。

 ゆえに十七夜は、息苦しくなって枕に埋めていた顔を横に向けるまで、気づくことが出来なかった。

 視線の先――壁際に設置された机の下に隠れている、〝少女〟の存在に。


「……へ?」


 呆けた声を漏らしながらも、ボディガードとして鍛えられた思考が、外見から得られる情報から冷静に〝少女〟のことを分析していく。


 見た目からして、〝少女〟の年齢は一〇歳前後。

 薄汚れているからこそなおさら映える、煌めくような白銀の長髪と、抜けるように白い肌。

 顔立ちはある種芸術を思わせるほどに整っており、小さな体躯と合わさって人形のように可愛らしかった。


 と、ここまでは、どこにでもいるとはいかないまでも、国際社会においては特段珍しくない特徴だった。


 問題は、髪や肌と同じように薄汚れている、ファンタジー世界の魔導師が着ていそうな外衣ローブに身を包んでいること。

 そして、耳が十七夜たちとは違って長く尖っていること。

 この二点だった。


 う。


〝少女〟はエルフだった。


 漫画にライトノベル、アニメにゲームと様々なジャンルに登場する、あのエルフだった。


 本物かどうかはわからないが、今目の前に、エルフと思しき〝少女〟がいる。

 その事実に、感動なり驚愕なりするのが普通の反応だが。


〝少女〟が、こちらとは極力目を合わさないようにしているせいか。

〝少女〟の表情が、どこか申し訳なさそうにしているせいか。


 痴態を見られた挙句に、〝少女〟に気を遣わせてしまったことを嫌というほどに理解してしまった十七夜は、


(うわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっ!! 見られた~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!)


 涙目になりながら、心の中で情けなく悲鳴を上げたのであった。

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