追放勇者の学びなおし!魔法学園の常識をS級勇者が引っくり返す!力ずくで!

司馬 ばん

第1話 決戦!勇者VSレッドドラゴン!

 後に火竜山かりゅうざんの決戦と伝説に刻まれる激闘が、ようやく決着の時を迎えようとしている。


「さあ、次で最後だ。かかってきやがれドラゴン野郎!」


 炎に包まれた火竜山の頂上。

 ぶすぶすと燃える砂利をブーツの底で踏みしめ、上空を旋回する火竜山の主たるレッドドラゴンを睨みつけながら若き勇者は吠えた。


 勇者の名はラグナ・ロック。

 齢十九にして数多の怪物モンスターとの闘いを潜り抜け、その身に刻まれた経験は既に超一流の戦士の風格を彼に与えている。

 だが、今勇者の身に刻まれているのは経験だけではない。ドラゴンから受けた数多の傷もそうだ。


 勇者の身を守る白銀の胸当ては、度重なるドラゴンの爪や牙の攻撃で原型を留めるのがやっとなほど損傷している。

 左腕に構えるべき魔法の盾は幾度もドラゴンの放つブレスを防ぎ続けたため、既に魔法の力を使い果たし燃え尽きた。

 空中を自在に駆ける魔法を付与エンチャントされた飛空マントも同様に焼け焦げており、込められた魔力もまもなく底を尽きそうだ。


 しかし、右手に力強く握られた剛剣サザンクロスの輝きはどうか。微塵もその鋭さを失ってはいない。

 そして勇者の燃える瞳の輝きはどうか。ドラゴンの炎にも劣らぬ熱量をほとばしらせているではないか。


 機をうかがうように上空を旋回していたドラゴンが、勇者めがけて滑空してくる。

 ドラゴンとて体中至る所に傷を負い満身創痍であり、一時でも早くこの眼下に立つ生意気な人間を屠らねばその怒りは収まらぬ。


 「そうだ! かかってこいこの野郎!」


 魔力の尽きかけた飛空マントで剣の届くところまで飛ぶには、もっと近くまで引き付けねばならない。

 常人が相対したら恐怖で気がふれる程の凶悪な形相で迫りくるレッドドラゴンを睨みつけ、勇者は微塵も目を逸らさずにギリギリのタイミングを見極めんとしていた。


 ドラゴンが眼前30メートル程の上空に達し、口内から灼熱のブレスを吹き出さんとしたその一瞬を捉える。


 ――今だ!


 勇者はドラゴンに向かって全力で跳躍し、マントの最後の魔力を振り絞り空中を駆けた。

 瞬間、地獄の炎にも似たブレスが竜の口から放たれる。


 間一髪!


 ギリギリのところで灼熱のブレスを潜り抜け、勇者はドラゴンの頭上にその身を躍らせた。

 ドラゴンは眼前をすり抜けた人間をブレスの餌食にせんと素早く振り向――


「うおりゃあああああ!」


 ――生と死が交錯する刹那をもぎ取るが如く、気合とともに勇者の剣がドラゴンの首に振り下ろされる!

 ガキィン! とも、ズバァッ! とも、どちらにも聞こえるような、鋼が鋼を切り裂くような凄まじい音を立て、遂に勇者の剣がドラゴンの首を両断した!


 が、時を同じくしてマントが浮力を失い、勇者は首を失ったドラゴンの死骸と共に空中から落下する。


「ぬわああああ~」


 凄まじい衝撃音と共に勇者ラグナは地面に叩きつけられ、辺りに血と炎の砂塵が舞い上がった。

 数秒ののち、もうもうと立ち込める砂塵が晴れていくにつれ、膝に手を当てながら立ち上がるラグナの姿が見えてくる。


「痛てててて……マントめ肝心なとこで魔力切れしやがって」

「だ、旦那ぁ~! ご無事ですか旦那~!」


 戦闘の邪魔にならぬよう、岩陰にかくれ決戦を見守っていた獣人族の少年、従者セバスチャンが尻尾をピンと逆立てながら勇者の元へ駆け寄ってくる。

 よほどラグナの身を案じていたのだろう、涙でぐしゃぐしゃの頬を拭おうともせず全力で駆けてくる従者の姿を見とめ、ラグナに勝利の実感が沸きあがってきた。


「うおおおおおお! やってやったぞこの野郎!」


 両の拳を握りしめ、天に向けて放たれた勇者の雄たけびが火竜山の空に響き渡る。

 新たな竜殺しドラゴンスレイヤーの誕生を告げる産声であった。




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