せーの!で斧を振り上げて

湾野薄暗

インタビュー


こんな祠さえ無ければ■■は死ななくて済む…と祠に斧を振り下ろした時に感じた手応えは「ぐちゃり」だった(名前は伏字、見出しにする)

→見送り(急病とインタビューした□□さんと連絡がつかないため)


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では話されてください。


…町外れにそんなに古くない木製の祠があって、

そこの近くの広場で毎年、秋祭りがあるんです。

その毎年ある秋祭りは普通のお祭りなんですけど、18年に1度、その木製の祠の建て替える儀式があって、その儀式を幼馴染の睡蓮ちゃんがしなくてはいけなくって。


その儀式の内容は秘密にされていて、どうも「睡蓮ちゃんが死ぬ役割」だと家の…お寺なんですけど集まりで立ち聞きした時に言っていたので、その儀式の前に祠を壊しに行けばいいのでは?と町外れの小高い丘にある祠まで向かったんです。


祠は木製の50cmぐらいの祠で、そんなに大きくありません。

祠の扉はずっと閉じられているし鍵もかかっているので中に何が入っているのかは分からなくて…。

でも家から薪割り用の斧を持ってきたので、祠自体を壊すことはできるだろうと思ったんです。


町外れの森でほとんど人は来ないので早速、斧を取り出して。ここで気づいたんですけど学校の制服のセーラーワンピースのまま来てしまったので少し動きにくくて…。


でも、こんな祠さえ無ければ睡蓮ちゃんは死ななくて済むから…と心の中でせーの!と斧を振り上げて祠に振り下ろした時に感じた手応えは思ってた以上に柔らかくて…ぐちゃりとしたんです。

ぐちゃり…そう、家庭科の授業の時に包丁で肉を叩いた感触に近かったです。

感触に呆然としながら叩き割った祠を見ると道路を伝って隙間から赤黒い液体が流れ出ていて…どう見ても血だったんです。


私は斧を後ろに投げて、祠の木を少し退かすと薄汚れたぬいぐるみが見える。

「あれ…睡蓮ちゃんとお揃いのぬいぐるみ…」と一瞬思考が止まってしまって…。

何で、あのぬいぐるみがこんなところにあるんだろうと…。


さらに祠の木片を退かすと未消化のような食べ物がべちゃべちゃと落ちていて…。おそらくトマトとレタスとハムで今日のお昼休み、睡蓮ちゃんはサンドイッチ食べてたような…と奥のぬいぐるみを手を伸ばしたんです。


高校の修学旅行で買ったぬいぐるみで、ぬいぐるみのタグに名前を刺繍してくれるサービスがあって睡蓮ちゃんと私はぬいぐるみを交換したんです。

タグの名前が私のであれば、それは睡蓮ちゃんの物で間違いなくて…。


背面に付いているタグを恐る恐る見たら『YURI』と刺繍されていました。


…祠を壊した後、どうやって帰ったのか覚えていないんですよね…。

でも次の日に学校に行って分かったことは睡蓮ちゃんは突然、亡くなったことだけでした。


具合が悪いと学校を早退して、その足で祠へと向かうと祠の残骸はすでに無くて、私の父が険しい表情で立っていたんです。お寺の住職だから祠もお寺のものだったのかな…って。


「…ここに来たってことは祠を壊したのは百合か…」と

木々のざわめきの中に父の小さな声が聞こえて。


「…3ヶ月後に祠の18年に1度の祭りがある。その時に睡蓮さんの代わりをやってくれ」と泣き笑いのような顔をしてボソボソと言った後、

いやにはっきりとした声で

「そこでお前は死ぬ」と告げられました。


私が話せるのはここまでですね…。祭りの内容は知らないんです、本当に。

秘祭は2週間後なんですが…混ざり込めるかは難しいですね。

…コーヒーご馳走様でした。


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