九
それからしばらくは、皆で酒や食事を楽しむ時間となった。
皆、暁嵐への挨拶が済み、あらかた食事が片付いたところで、催しが開始される。
移動していた者も、再び自分の場所に戻り待機姿勢に入る。
食事の後の催しを、皆いつも楽しみにしていた。
火を使った大道芸や、鳥を使った手品など、物珍しい演技の数々に、皆は声を上げて喜んだ。
暁嵐はいつもがんばってくれる従者のために、この日ばかりはと、贅を尽くすようにしていた。
そう、今までは自分のためではなく、周りのためだったのだ。
そんな暁嵐が、今日は初めて、自分に贈り物を用意した。
愛する女と、自分のために――。
芸人が一同に頭を下げて去っていくと、次はなにかと皆が楽しげに予想をする。
「みんなお上手ですね、そろそろしまいでしょうか」
「そうじゃな、おそらく次で――」
美雨への返事の途中で、暁嵐は言葉を切った。
それは暁嵐に限ったことではない。
ここにいた全員が、一度に動きを止めた。
それは一瞬にして、目の前に人間が現れたからだ。
芸をする者たちは、皆御殿の端の方……舞台袖のような場所からゾロゾロとやって来るもの。
にも関わらず、彼女はいつの間にかそこにいた。暁嵐の御前に、片膝をついて視線を落としていた。
眩しいほどの金でできた衣と装飾品。
しかし、それに負けない彼女の美貌が、御殿中の視線を攫った。
暁嵐はゾクリとした。
何度も戦に馳せ参じた。命のやり取りには慣れている。
そんな暁嵐が、初めての感覚に囚われた。
喜びなどという生ぬるいものではない、未知なる領域への期待と不安、それは恐怖に近い感嘆だった。
翠玉は立ち上がる。弓のように反り返った剣を片手に。
そして、空高く舞い上がった。
柔軟な身体を活かし、常人ではあり得ない体勢で剣を操る。
観客は翠玉に合わせて目を動かし、剣を投げた時は息を止め、成功した時は胸を撫で下ろす。
しかしそのすべてが野蛮ではなく、優美な天女の戯れのようなのだ。
先ほどまで騒がしさが嘘のように、皆口を結んで翠玉の演舞に夢中になっていた。
そんな中、翠玉は些細な違和感に気づいていた。
全身全霊で舞いながらも、視野が広い。これは職業柄だろう。
だからこそ気づいた。暁嵐の隣に座る美雨の視線が、自分ではなく別のところにあることに。
――ずいぶん、熱い視線だこと。
舞いで身体の向きを変えながら、美雨の視線の先を確かめる。
すると確実ではないが、あらかた推測はついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます