それからしばらくは、皆で酒や食事を楽しむ時間となった。

 皆、暁嵐への挨拶が済み、あらかた食事が片付いたところで、催しが開始される。

 移動していた者も、再び自分の場所に戻り待機姿勢に入る。

 食事の後の催しを、皆いつも楽しみにしていた。

 火を使った大道芸や、鳥を使った手品など、物珍しい演技の数々に、皆は声を上げて喜んだ。

 暁嵐はいつもがんばってくれる従者のために、この日ばかりはと、贅を尽くすようにしていた。

 そう、今までは自分のためではなく、周りのためだったのだ。

 そんな暁嵐が、今日は初めて、自分に贈り物を用意した。

 愛する女と、自分のために――。

 芸人が一同に頭を下げて去っていくと、次はなにかと皆が楽しげに予想をする。


「みんなお上手ですね、そろそろしまいでしょうか」

「そうじゃな、おそらく次で――」


 美雨への返事の途中で、暁嵐は言葉を切った。

 それは暁嵐に限ったことではない。

 ここにいた全員が、一度に動きを止めた。

 それは一瞬にして、目の前に人間が現れたからだ。

 芸をする者たちは、皆御殿の端の方……舞台袖のような場所からゾロゾロとやって来るもの。

 にも関わらず、彼女はいつの間にかそこにいた。暁嵐の御前に、片膝をついて視線を落としていた。

 眩しいほどの金でできた衣と装飾品。

 しかし、それに負けない彼女の美貌が、御殿中の視線を攫った。

 暁嵐はゾクリとした。

 何度も戦に馳せ参じた。命のやり取りには慣れている。

 そんな暁嵐が、初めての感覚に囚われた。

 喜びなどという生ぬるいものではない、未知なる領域への期待と不安、それは恐怖に近い感嘆だった。

 翠玉は立ち上がる。弓のように反り返った剣を片手に。

 そして、空高く舞い上がった。

 柔軟な身体を活かし、常人ではあり得ない体勢で剣を操る。

 観客は翠玉に合わせて目を動かし、剣を投げた時は息を止め、成功した時は胸を撫で下ろす。

 しかしそのすべてが野蛮ではなく、優美な天女の戯れのようなのだ。

 先ほどまで騒がしさが嘘のように、皆口を結んで翠玉の演舞に夢中になっていた。

 そんな中、翠玉は些細な違和感に気づいていた。

 全身全霊で舞いながらも、視野が広い。これは職業柄だろう。

 だからこそ気づいた。暁嵐の隣に座る美雨の視線が、自分ではなく別のところにあることに。

 ――ずいぶん、熱い視線だこと。

 舞いで身体の向きを変えながら、美雨の視線の先を確かめる。

 すると確実ではないが、あらかた推測はついた。

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