六
「後宮は女の園でしょう、嫉妬されては私の命が危ないかもしれないわ」
「ははは、それはないじゃろ、司馬宇にも勝る猛者が、どの口でそんなことを言いよる」
暁嵐はそう言って、翠玉の白い頬を引っ張った。翠玉に手を
「じゃが、後宮の深部まで把握できぬのが実情じゃ、命は取られぬとしても、常に危険に晒されておるのは気が休まらぬであろう。わしが生きておるゆえ、依頼人もなにか仕掛けてくるかもしれんしな」
最後の一文に、翠玉の脳が反応する。
目的を達成できなかったことで、依頼人との関係が危ういと、暁嵐も考えていたのだ。
暁嵐は請負人の存在を知らないため、実行人の翠玉だけに影響があると思っているが。
暁嵐はしばし頭を捻らせると、あることを閃いた。
「翠玉はなにか得意なことはないのか?」
「……暗殺」
「ではなくてな、公の場で披露できるような特技じゃ」
脈絡のない質問に、冷めた顔で答える翠玉、に突っ込む暁嵐。
「……特にないけど。ずっと暗殺しかしてこなかったから、身体を動かすくらいしか」
「暗殺の訓練というのは、どんなことをするのじゃ?」
翠玉に腕を回した状態で、顔を見つめながら聞く暁嵐。
翠玉は無駄に近いな、と思いながらも、仕方なく口を開く。
「身体の柔軟が基本よ、どんな隙間にも入り込めるくらい、骨ごと柔らかくするの。後は少しでも高く飛べるように、器用な動きができるように、そしてすべての動作に置いて、物音を立てないように鍛えるわ、側から見たらまるで踊っているようかもね」
「……それじゃ」
「なにが、それじゃ、なの?」
「踊れ、翠玉」
紅玉のような瞳が見開くと、翠玉の眉間に皺が寄る。
一体、なにがどうしてそうなったのか、さすがの翠玉も説明が欲しいところだ。
「はぁ? 何事?」
「来週、わしの生誕祭があるのじゃ、毎年、宮中の皆を集めて、御殿で盛大に行っておる」
「……まさか、そこで?」
「そのまさかじゃ、面倒な嫉妬を少しでも遠ざけたいのじゃろう? ならば、特技で黙らせてみよ。皆より優れておるものがあれば、なぜわしがお前を寵愛しておるのか伝わるであろう、いきなり五段入りしたのも、多少は納得させられるかもしれぬ」
まさか暗殺者に、皇帝の生誕祭で踊る役が回ってこようとは……人生なにがあるかわからない。
翠玉は暁嵐に言われたことを頭でまとめるも、本当にそんな必要性があるのか疑っていた。
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