七
なにがあろうとも、夜は明ける。
丸い太陽が空に昇り、宮中を明るく照らす。
一日の始まりを知らせる、無邪気な小鳥の囀り。
朝の訪れはやがて、翠玉の元にも届いた。
ん……と、小さな声を漏らし、寝返りを打つと、重たい瞼をうっすら開く。
すると、ぼんやりした視界が徐々に鮮明さを増す。
やがて、目の前にいる人物が誰なのか、認識した瞬間、カッと目を見開いた。
――ああ、そうだ、私……。
すぐさま昨夜の出来事を思い出した翠玉は、ハァーと深いため息をついた。
翠玉の方を向いて、すやすやと気持ちよさそうに眠る男。
さらさらした紅色の髪が、顔の前に流れている。
精悍で凛々しい顔つきだ。女好きといっても、軟派な雰囲気は感じられない。
ふかふかの布団を被っているが、肩は出ている。健康的な肌色で、無駄のない筋肉質な身体だ。
ふと、昨夜の情事を思い出した翠玉は、徐々に顔が熱くなっていくのを感じた。
――なんなのよ、この男っ……この私が……翠玉様ともあろう者がっ……!
怒りと恥じらいが入り混じったような、複雑な心境に震える翠玉。
かと思うと、急にすっと熱を失くしたように冷静になり、上体を起こした。
暁嵐と同じく、翠玉も生まれたままの姿だ。
翠玉は片手で布団を寄せて胸元を隠すと、静かに暁嵐を見つめた。
そして徐に、もう片方の手を暁嵐の首元に伸ばした。
「絞殺は無理じゃろう」
薄い唇がそう告げた次の瞬間、翠玉の腕は暁嵐の手に掴まれていた。
「その細腕ではの」
勢いよく上体を起こした暁嵐は、翠玉と向かい合ってニッと笑う。
まるでさっきまで動いていたかのような、寝起きのよさだ。
太陽の化身と言われているからか、ふん、くだらない――と、翠玉は思った。
「バカにしないで、その気になればできるわ」
「ほう、なら今まで経験が?」
「……ないけど、それはなるべく証拠が残らない方法を選んでいるからよ」
「わしには刃を向けてきたが」
「大きな仕事は仕留めた確認が必要だから、飛び道具だけじゃ不十分なの」
「なるほど」
暁嵐は翠玉の細い手首を掴んだまま、感心するように頷いた。
自分を殺そうとした奴の話を、面白そうに聞くなんて、この皇帝はネジが緩んでいるのではないかと、翠玉は思った。
「司馬宇をも凌ぐ戦闘能力……どう考えてもそんじょそこらの殺し屋ではない……となれば、玄人の暗殺者……韻の者、か?」
「……ふぅん、知ってたのね」
暁嵐の質問を、あっさり肯定する翠玉。
韻だと知られたところで、なにも不都合はないからだ。
基本、暗殺者同士で助け合うことはないので、失敗すれば切り捨てるだけだ。なので誰かが捕まったところで、芋蔓式に駆逐されるという心配もない。
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