なにがあろうとも、夜は明ける。

 丸い太陽が空に昇り、宮中を明るく照らす。

 一日の始まりを知らせる、無邪気な小鳥の囀り。

 朝の訪れはやがて、翠玉の元にも届いた。

 ん……と、小さな声を漏らし、寝返りを打つと、重たい瞼をうっすら開く。

 すると、ぼんやりした視界が徐々に鮮明さを増す。

 やがて、目の前にいる人物が誰なのか、認識した瞬間、カッと目を見開いた。

 ――ああ、そうだ、私……。

 すぐさま昨夜の出来事を思い出した翠玉は、ハァーと深いため息をついた。

 翠玉の方を向いて、すやすやと気持ちよさそうに眠る男。

 さらさらした紅色の髪が、顔の前に流れている。

 精悍で凛々しい顔つきだ。女好きといっても、軟派な雰囲気は感じられない。

 ふかふかの布団を被っているが、肩は出ている。健康的な肌色で、無駄のない筋肉質な身体だ。

 ふと、昨夜の情事を思い出した翠玉は、徐々に顔が熱くなっていくのを感じた。

 ――なんなのよ、この男っ……この私が……翠玉様ともあろう者がっ……!

 怒りと恥じらいが入り混じったような、複雑な心境に震える翠玉。

 かと思うと、急にすっと熱を失くしたように冷静になり、上体を起こした。

 暁嵐と同じく、翠玉も生まれたままの姿だ。

 翠玉は片手で布団を寄せて胸元を隠すと、静かに暁嵐を見つめた。

 そして徐に、もう片方の手を暁嵐の首元に伸ばした。


「絞殺は無理じゃろう」


 薄い唇がそう告げた次の瞬間、翠玉の腕は暁嵐の手に掴まれていた。


「その細腕ではの」


 勢いよく上体を起こした暁嵐は、翠玉と向かい合ってニッと笑う。

 まるでさっきまで動いていたかのような、寝起きのよさだ。

 太陽の化身と言われているからか、ふん、くだらない――と、翠玉は思った。


「バカにしないで、その気になればできるわ」

「ほう、なら今まで経験が?」

「……ないけど、それはなるべく証拠が残らない方法を選んでいるからよ」

「わしには刃を向けてきたが」

「大きな仕事は仕留めた確認が必要だから、飛び道具だけじゃ不十分なの」

「なるほど」


 暁嵐は翠玉の細い手首を掴んだまま、感心するように頷いた。

 自分を殺そうとした奴の話を、面白そうに聞くなんて、この皇帝はネジが緩んでいるのではないかと、翠玉は思った。


「司馬宇をも凌ぐ戦闘能力……どう考えてもそんじょそこらの殺し屋ではない……となれば、玄人の暗殺者……韻の者、か?」

「……ふぅん、知ってたのね」


 暁嵐の質問を、あっさり肯定する翠玉。

 韻だと知られたところで、なにも不都合はないからだ。

 基本、暗殺者同士で助け合うことはないので、失敗すれば切り捨てるだけだ。なので誰かが捕まったところで、芋蔓式に駆逐されるという心配もない。

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