平凡な青年は悪夢を見た。

 様々な種族の魔物を従え、王国の人々に恐怖を与え続ける魔王が現れてから既に数年の月日が流れていた。


 王国軍は策を講じ続け、何とか魔王配下の魔物達と拮抗した戦いを続けていた。


 魔物による被害が大きい地域に住まう人々の関心は魔王軍討伐に向けられているが、魔物が生息しておらず、外部の情報を仕入れる事がなかなか出来ない地域に住んでいる人々の魔王軍への関心は薄い。

 

 首都から距離がある辺境の村に住む一人の青年――リガ・ベルトも例外ではなかった。リガを悩ませているのは魔王軍による被害ではなく、毎晩見る悪夢についてだった。


 知らない世界、にほんという場所で、知らない人間として死ぬ夢……それが、リガの見る悪夢だった。

 

 目を覚ますタイミングは決まっていて、毎回、死を迎えた瞬間に目を覚ます。そんな悪夢をリガは既に二か月ほど見ていた。


 リガの精神はかなり疲弊しきっていた。


 段々と食も細くなり、ストレスも溜まり、人付き合いも悪くなった。


 夢とはいえ、生々しい死を毎晩、疑似体験しているようなものなのだから当然といえば当然だろう。

 

 遂に限界を迎えたリガは眠ることを止めた。寝なければ悪夢を見る事はないと思ったからだ。しかし、現実はそう上手くはいかず、徹夜三日目で睡眠不足で気絶してしまった。


 リガはその後、一週間の間、目を覚まさなかった。

 

 リガが目を覚ましたのは、彼が倒れてから二週間経った頃だった。


 気絶した影響か、記憶の混濁やパニック症状がみられたが、しばらく生活する内に記憶は戻り、明るく元気な姿を村人達に見せるようになった。


 だが、村人達は言う。


「リガ。少し変わったよね」

 

 と。


 目を覚ましてからリガは一度たりとも悪夢を見ていない。

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