十三

 よい眠りを……ミハイロさんの台詞を反芻すると、そうだ、そろそろ寝る時間なんだと思い出す。

 と、同時に考えるのが今夜の寝床。

 てっきりなにもないこの部屋で、一人丸まって眠ると思っていたのに。

 目の前の雹華さんと雷華さんがニッコリ笑って左右に分かれると、その間から見えたのは、立派なベッドだった。

 一人には十分すぎる大きさに、真っ白で清潔な寝具がついてる。

 そしてその隣には、小ぶりな丸椅子と机のセットまで置いてあった。

 ここがあたしの部屋……ってことは。


「あ、あたし、ここで寝て、いいんですか?」

「もちろんですよーぉ! ピケ様のために用意したんですからっ」


 信じられない気持ちで確認したことを、雷華さんが全力で肯定してくれる。


「お召し物もお持ちしたのですが……どれも大きそう、ですね……?」


 続いて衣類を手にした雹華さんが、あたしを上から下まで見て悩ましげな表情をした。

 その衣類は雹華さんの背後――扉のすぐそばの棚から出したみたいだ。

 もちろんそれも、あたしが来た直後にはなかったもの。


「まさかこんなに小柄でお可愛らしい方だとは思わなかったので、標準的な大きさのものを持ってきてしまって」 

「ごめんなさい、なんか、成長が止まってるみたいで……」


 まさか服まで気を使ってくれるなんて驚きだ。それなのに、自分の身体が規格外で、迷惑をかけて申し訳なかった。


「ピケ様っておいくつなんですか? まだ十三、四歳とか?」

「……十八です」

「あらっ、そうだったんですか! じゃあもう立派な女性なんですねーぇ!」

「お若く見えて羨ましいです」


 子供っぽく見えるのを、呉の二人はバカにしなかった。

 ちゃんと実年齢を受け止めてくれて、大人って認めてくれたみたいで嬉しかった。


「あの、雹華さん、と雷華さんは、おいくつなんですか?」

「私たちはもう二十六ですよーぅ、ちなみにミハイロは二十四です、プレティナ人だから老けて見えますけどねっ」

「そんなこと言ったら、またミハイロに怒られるわよ」


 プレティナって、聞いたことがある。

 壮と同じくらい大きな国で、寒い寒い北の方にあるとか。


「ミハイロ……さん? は、異国の方、ですよね? だけど、壮の皇帝様に仕えているんですか?」

「そうなんですよー、異国人を側近にするなんて、異例ですから一悶着ありましたねぇ」

「ですが、ミハイロ自身、実力がありますので、今や文句を言う者はおりません」


 異国人を側近に迎えた皇帝様も、実力で周りに認めさせたミハイロさんもすごい。よほど忠誠心が強いのだろうか。


「……そ、そうなんですね」

「そんな具合で、陛下は少々破天荒なんですが」

「外見だけで人を判断するような曇った目はお持ちではないので、その辺りはご安心ください」


 少なくとも差別や偏見で殺されることはなさそうだ。

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