皇帝癒し人~殺される覚悟で来たのに溺愛されています~

碧野葉菜

プロローグ

 真っ黒な馬に引かれた、青い三角屋根をした木造の乗り物。

 胸元を斜めに合わせた白い上着に、深い青色の袴。

 腰から垂らした白い帯と、襟に黒い龍の刺繍が入っている。

 そんな衣装を着た二人は、あたしを迎えに来た、おつきの人。

 きっと、今から会う偉い人に、頼まれてやって来たんだ。 

 今からあたしは、お仕事に行く。

 生まれて初めて、育った場所を離れる。

 今にも崩れそうな石と藁でできた家を出て、カサカサに乾いた砂利道を歩く。

 あたしがそばに行くと、迎えの人は馬車の方を向いて、出発の準備にかかる。

 その間、そっと後ろを振り向いたら、同じユニ国の人たちが、こっちを見てた。

 みんな笑ってる。ニコニコしたり、ホッとしたり、誰一人として、悲しんでいる様子はない。

 だからあたしも、ニッコリ微笑んで、くるっと前を向いた。

 迎えの人に指示されて、馬車の後ろの席に乗る。

 前にいる二人が、黒い皮の手綱を握って、一振りする。

 それを合図に馬が歩き始めると、屋根からぶら下がった金の飾りが、チャリチャリと音を立てる。

 おばあちゃん、あたし、おっきな仕事をもらったよ。

 きっと、最初で最後になる――。

 小さな窓から流れる景色を見ながら、胸元にしまったペンダントを握りしめた。

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