第5話 秘密
「エリーの本当の父親がだれか、知りたくないかしら?」と佳耶はまじめな顔で言った。
「そうだね」と徹は困った顔をして答えた。
「わたしが教えてあげるわ」と佳耶。「いいでしょ、エリー。」
絵里子は腕組をして、そっぽを向いた。
「エリーの本当の父親は、私のお父さんなの」と佳耶。
「え、叔父さんが?」と徹。
「そうよ。わたしのお父さんは伯母さん、つまりエリーの母親と付き合って妊娠させた。だけど別れてすぐに他の女の人と結婚した。それがわたしのお母さんよ。だから、エリーと私は異母姉妹なの」と佳耶。
徹は話を理解すると「ええ!」と少しのけぞった。「ということは、エリちゃんはぼくの従妹っていうこと?」
「私はお兄ちゃんの妹よ!だけどお嫁さんになれるんだからね!」と言って絵里子は顔を赤らめた。
「お兄さんの婚約者は私よ」と佳耶。
「そんなの認めないわ」と絵里子。
「そうか、事情はだいたいわかったよ。それじゃあ、ぼくは一足先におじいさんのところに行くよ。また後でね」と徹は立ち上がった。
ほぼ同時に、絵里子が素早く徹の腕を両手でつかみ、佳耶が背中から抱きついた。
「どこに行くつもり?」と絵里子が徹に顔を近づけながら言った。
「だから、おじいさんの家に」と徹。
「うそつき。このまま家出するつもりでしょ。逃がさないわ」と佳耶が耳元でささやいた。
「そんな、ぼくが逃げるわけないだろ」と徹。
「これはやばい、逃げなきゃって顔をしてたわ。私をごまかせると思っているの?」と絵里子。
「ぼくがおじいさんに会って何を話すんだよ?」と徹。
「お父さんと叔父さんを許してほしいって頼んでほしいの。縁を切るのはかわいそうだって」と絵里子。
「いやだよ、絶対に。ぼくはあの二人が大嫌いなんだ。縁切りだって、正直、ざまあみろって思ってるよ」と徹。
「でも、絶縁なんてしたら、わたしたち、お兄さんに会えなくなるのよ」と佳耶は目を潤ませた。
「叔父さんはぼくの家出に関係ないだろ?」と徹。
「お兄さんを追い出して、わたしたちのどちらかに跡取りの婿を取らせようって企んだのはお父さんなの。」と言って佳耶は顔を伏せた。「それに伯父さんと伯母さんが同意して、お兄さんの家での居心地を悪くしたの。」
「いかにも叔父さんの言いだしそうなことだね」と徹。「でも、おじいさんに知られなければ問題ないよ。」
「それがなぜか最近おじいさんの耳に入って、カンカンに怒ってしまったの」と佳耶。
「だれがばらしたんだい、佳耶ちゃん」と徹は佳耶を見た。
佳耶は顔を伏せたまま、「その後、おじいさんがお兄さんのことを心配して探し始めたの」と言った。
こっちが本題だと、徹はようやく気がついた。「想像以上にゲスだね、叔父さんは」と徹は少し大げさに言った。
「ごめんなさい」と佳耶。
「佳耶ちゃんが謝ることじゃないよ」と徹。「それにしても、よくそんなことまで知ってるね。」
「お父さん、私には優しいから」と佳耶。
「それに引き換え、ぼくは何でそこまで叔父さんに嫌われているの?」と徹。
「お兄さんは優秀過ぎるのよ。それに、すぐに家出するくらい行動力があるから怖いの。放っておいたら、将来自分たちが追い出されるんじゃないかって」と佳耶。
「ああ、間違いなく追い出すよ。こんな話を聞かされたら」と徹。
「やっぱりそうなのね」と佳耶。
「ああ、ちょっと許せない気持ちになってきた」と徹。
「お兄ちゃん、私たちがお願いしているのよ。聞いてくれたら、私がいつも側にいてあげるから」と絵里子はまっすぐに徹の目を見た。
「これから何があってもお兄さんの味方になると約束します。だから、どうかお願いします」と佳耶が頭を下げた。
「わかったよ」と徹。「仕方ない。」
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