ほこらこわしたんか
卯月二一
第1話 あー、あの祠壊しちゃったの?
祠とは神さまを祀る小さな建物のことを言う。その多くは人の立ち入らないような山深い場所などで見られる。祀られる神さまも様々であり、過疎化が進みその由来もわからなくなってしまったものも多い。
「あの祠を壊したんか! もうダメじゃ……」
村のまとめ役なのだろう白い髭を長く伸ばした爺さんが怒鳴ったかと思えば、すぐに頭を抱えてしまった。そんな僕はいま縄で縛られている。高校の歴史研究会に所属する僕は県内の山奥の村に古い地域信仰を調べに訪れていた。道祖神などは道端なんかに祀られていることが多いのだが、地元の人によるとなんでも山の中に誰も詳細を知らない古い祠があるらしく、興味を持った僕はそこへ足を運んだのだった。
道に迷いそうになりながらもなんとかそれらしき祠を見つけたちょうどそのとき、少し大きめの地震が起きた。もともと古そうな石造りの祠だったので、それは目の前であっけなく崩れてしまった……。僕の目の前には崩れ落ち粉々になった祠があった。村にとって歴史的な価値があるものかもしれないと思い、親切心から山を降りて報告にきた結果がこの状況である。
「だから、地震で壊れたって言ってるでしょ! それにこんなこと、明らかに犯罪行為です。抗議します!」
何度目かになるこの僕の訴えを、爺さんもまわりを囲む男たちも聞こうとしない。地震など無かったし、祠のつくりはしっかりしたもので勝手に崩れるようなことは絶対にないと言う始末である。僕が縛られているこの異常な事態もそうなのだが、山に登る前と降りた後で村の様子が大きく変わってしまっていたというおまけ付きである。降りる道を間違えて別の村に来てしまったのだと初めは思っていたのだが、冷静になってみると明らかにおかしい。彼らの服装も髪型もこの家屋もひと昔前の時代劇に出てきそうなそれである。しかし、電灯の明かりがあるし窓ガラスも見える。型は古そうだが電話機のようなものも壁に掛かっている。だからタイムスリップしたなんてことは無さそうではある。
でも、これが最も気になることなのだが、カレンダーに見えるその壁にあるそれの数字が変なのである。色使いから左端が赤く日曜で右端が青で土曜日だということが推測できるのだが、そこに書かれている漢字もバグっていた。漢検2級の僕でも見たことのない謎の漢字が並ぶ。これは何かのジョークなのだろうか?
「よお、爺さん。祠が壊されちまったってか?」
また一人男が増えた。だが、他の連中と明らかに服装が異なる。村人、農民というよりは僕の側に近い現代風の服装。年は30過ぎだろうか、無精髭に長髪、口には紙巻きタバコを咥えてうまそうに吸っている。
「やっときたか拝み屋。先祖代々、あれは良くないモノを封じた祠じゃと話だけは伝わっておるが、詳しいことは既に失伝しておる。お前さんも気づいたはずじゃ、この空の異様な色。きっと恐ろしいことが起こる兆候に違いない。金でも村の娘でも欲しいもんはくれてやる。何とかしてくれ」
男はそれを聞き、僕のほうをチラッと見て一瞬ニヤッと笑ったように見えた。
「それでこの少年が壊した犯人だっていうんだな?」
「そうじゃ」
男は身動きのできない俺の前にしゃがみ込んだ。
「あー、あの祠壊しちゃったの?」
タバコの嫌な臭いと煙で僕は咳き込む。
「それじゃもうダメだね。君、たぶん死ぬ」
「はあ!?」
男のその言葉に思わず変な声がでてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます