第12話

「あ、綾音、ありがとな」


 あれから数分して、やっと綾音に離して貰えた俺は、気恥しさを我慢しつつ、礼を言った。

 ……元を辿れば、俺の言葉に原因があることだからな。

 綾音はただ、優しいから、あんな風にしてくれただけだろうし。


「う、うん。全然大丈夫だよ、お兄ちゃん」


 俺と同じように、綾音も顔を赤くして、恥ずかしそうだった。

 ……綾音も綾音でいきなりの俺の訳の分からない言葉に困惑して、おかしくなってたのかもな。

 それで今になって冷静になったからこそ、恥ずかしくなってきた、と。


「そ、それより、な、何かあったの? お兄ちゃん」


「……何も無いよ。その、ちょっとおかしくなっちゃってたんだよ。……あんまり気にしないでくれ」


 今のところ多分マイナスな感情では無い……と思うけど、権力者に目をつけられてるなんて綾音に言える訳もなく、多少……いや、かなり苦しいと思うけど、俺はそう言った。

 

「本当? 本当に、大丈夫? お兄ちゃん」


「大丈夫だよ。心配かけてごめんな」


「信じるよ?」


「……あぁ」


 少しだけ後ろめたさを感じたけど、正直に言う方が心配をかけることになるだろうし、と自分に言い聞かせ、俺は頷いた。


「うん! なら、お昼ご飯出来てるから、一緒に食べよ? お兄ちゃんも、お腹すいてるでしょ?」


 眩しい笑顔を俺に向けてきながら、綾音はそう言ってきた。


(……遥斗の記憶にあるシスコンというやつの気持ちがよく分かるな)


「食べるよ。綾音の料理は天才級に美味しいからな」


「う、うん。ありがとう、お兄ちゃん。……でも、恥ずかしいよ」


 ついさっきまでもっと恥ずかしいことをしていただろ……とは流石に言わない。……と言うか、言えない。


「本当のことだからな」


「も、もう、先にリビングに行ってるから、は、早く来てね!」


 綾音はそう言い残して、俺を置き一足先にリビングに戻って行った。

 俺も直ぐに後を追おうとしたのだが、その瞬間、ポケットに入れていたスマホが不思議な音と共に振動した。

 

(……やっぱり、神は俺の事が嫌いなんだろうか)


 これ、交換した連絡先からメッセージが着た時になる通知ってやつだろう? 遥斗の記憶が間違ってない限り、間違いないはずだ。

 ……そして、俺の……遥斗のスマホに入っている連絡先は三人しか居ないことは既に確認済みだ。

 綾音は当然として、美紀さんに理恵先輩の三人だ。


 ……綾音がこの状況で何かメッセージを送ってくるとは思えない。

 だって、もう数秒もすれば俺はリビングに行く気だったし、何か言いたいことがあるのなら、そこで直接話せばいいからだ。

 ……つまり、メッセージを送ってきた人間は実質二択ということになる。

 これが俗に言う当たりのないくじ引きというやつなのだろうか。……違うんだろうな。

 ただ、俺が絶望していることだけは確かだ。

 どっちからの連絡だったとしても、権力者からの連絡ということに違いは無いんだから。


 一度深く深呼吸をした俺は、嫌々……本当に嫌々スマホを取りだし、メッセージを確認した。

 

【ねぇ、遥斗、明日の放課後、暇?】


 すると、そこにあったのは美紀様……じゃなく、美紀さんからのそんなメッセージだった。


(……見なかったことにしようか)


【ねぇ、返事は?】


 少なくとも、このメッセージを俺が見た事は相手にバレることは無いだろうし、昼飯を食べてからでも遅くないと思っていたのだが、その瞬間、俺の心を見透かしたかのようにそんなメッセージが送られてきた。

 

 な、なんでバレ……い、いや、違う、のか? 俺がメッセージを確認したことがバレた訳じゃなく、単純に権力者である自分を待たせるなんて有り得ない、という考えからのメッセージか?

 ……そう、だよな。権力者を待たせるなんて、ダメに決まってるよな。

 少し気が抜けてたみたいだ。


 今すぐ返事を……返事……これ、どうやって返事をするんだ?

 ……いや、遥斗の記憶でなんとなく分かるといえば分かるんだけど、記憶で分かってても実際にやるってなればちょっとどうすればいいのか分からない。


【既読、ついてるんだけど、まだ無視する気?】


 それでも、なんとか少しづつ入力? をしていると、また新しいメッセージが着た。

 やばい。どうしよう。このままじゃ本当に殺されるかもしれない。


 そう思うと、体から変な汗が出て、更に焦ってしまい、入力が遅くなってしまった。

 そしてとうとう、電話というものが掛かってきた。


(もしかして俺、終わった?)

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