ファンタジー世界の住人だった男がエロゲ世界のモブに転生した結果
シャルねる
第1話
目が覚めると同時に、俺は違和感を覚えた。
(……何故、俺はベッドで眠っている?)
俺が体験したことの無いようないい気持ちだった。こんなベッドで寝られるのなら、もう死んでもいい、と思える程にこのベッドの寝心地は気持ちが良かった。……貴族ですらこんなベッドで眠ったことなど無いのではないだろうか。……それこそ、王族とかが使うようなベッドだと思う。
……もうこのまま、何も考えずにもう一度このベッドで眠りたかった。
ただ、思考しない訳にはいかない。
何故なら、俺はこんなベッドで眠れるような身分じゃないからだ。
昨日のことを思い出せ。
何があった?
まさかとは思うが、王族の住んでいる城にでも侵入して、俺は王族の誰かのベッドで眠っているのか? ……ありえない。
仮に酒に酔っていたんだとしても、そんな不敬なことは考えないし、そもそもの話、俺に王城に侵入できるような実力は無い。
と言うか、王城に侵入して、何かを盗むわけでもなく、ベッドでただ眠っているだけだなんて、頭がおかしいだろう。……王城に侵入すること自体が頭のおかしいことだが。
とにかく、別の可能性を考えよう。
……行き倒れていたところを、王族の誰かに拾われたか? ……それもありえない。
俺は王族からしたら触るのも汚らわしいような身分の平民だ。
そんな平民が行き倒れていたからって、助けるような者は……口に出して言うことなんて絶対にできないが、少なくとも今の王族には居ないだろう。
(……ダメだ。どれだけ考えても、分からないし、昨日のことを思い出してみても、昨日は普通に自分の家の硬い床で眠った記憶しかない)
誘拐なんて言葉もほんの一瞬だけ頭をよぎったけど、そんなことはもっとありえない。
誰が俺なんかを攫うっていうんだ。
確かに攫うリスクは無いだろうが、それと同時にメリットも無いんだ。
更に言うなら、攫った無価値な相手をこんないいベッドに寝かせる理由も意味が分からない。
そこで初めて、なんだかんだ考えつつも、経験したことの無い気持ちよさから未だにベッドから抜けられていない俺は、ベッド以外……つまり、今いるこの部屋に目を向けた。
……もっと早く状況確認のために向けておくべきだったという後悔はあるけど、目が覚めたら平民である俺が王族くらいしか使えなさそうなベッドで眠ってたんだ。
混乱するのは仕方ないだろう。
(……なんだ? この部屋)
ベッドはもちろんながら、部屋も異質な雰囲気だった。
無意識のうちにベッドの呪縛から解放され、俺はベッドから立ち上がっていた。
(机……は分かる。ただ、上に置いてある尖ったものはなんだ? この部屋の主が使う武器か?)
武器らしきものの横には何かの本? が置いてあった。
いや、そこ以外にも、本らしきものは沢山あった。
……個人の部屋、なんだよな? こんなに本が置いてあるなんて、やっぱりここは王族の部屋なのか?
思わず机の上に置いてあった本を手に取る。
本なんて、生まれて初めて触ったな。
(文字が読めない)
それ自体は翻訳魔法を習得しているから大丈夫なのだが、文字が読めないということは、ここは異国の者が住んでいる部屋なのか?
……ますます俺がこんな所にいる意味がわからなくなってきたな。
翻訳魔法を使い、改めて本を見ると、そこには日記と書かれていた。
日記は分かるぞ。
貴族や王族といった紙を沢山買うことの出来る人間が書くもの……のはずだ。
……もしもこれを勝手に読んだりして、そのことがバレれば、俺はこの部屋の主に間違いなく殺されるだろうが、もうこの部屋に入ってしまっている時点でどうせ逃げられないし、どうせなら、読んでしまえ。
そう思い、日記を開いた。
その瞬間、何か罠でも仕掛けられていたのか、俺の頭に激痛が走った。……と同時に、色々と俺の……いや、違う。……何の因果か、俺が転生? 憑依? してしまったこの男の記憶が流れ込んできた。
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