ギャルゲのお助けキャラ枠が絶対に攻略できないラブコメ
輝響 ライト
一章
第1話 目覚めは転生と共に
『これで、本当に実験は終了だ』
桜の木が風に揺れ、花弁が舞う三月の終わり。
先輩の胸ポケットには、卒業生の証である造花が刺さっていた。
『この一年、思えば散々無茶ぶりをしたね』
『……自覚はあったんですね』
『未知の実験だからね、無茶もしてもらうよ』
普段表情の変わらない先輩が珍しく笑った。
『さて、あまり君を引き留めるのも悪いか。君を待っている少女たちはたくさんいるわけだし』
先輩が向いた先を見れば、こちらを見る四人の人影があった。
『おーい! 涼真くーん!』
『二人きりで何? 浮気?』
『……それを言ったらボクたち浮気どころの話じゃないと思うんだけど』
『公認なので問題ないと思いますよ? そんなことよりセーンパーイ!』
四者四様の会話に思わず笑ってしまう。
『ほら、早くヒロインたちのとこまで行ってきたまえ。わたしはもう少しここで風を浴びることにするから』
『……わかりました』
四人の元へ駆け足で向かえば元気な後輩にカメラと三脚を渡された。
『ほらほらセンパイ、皆で撮りますよ!』
少し離れた場所に三脚を置き、その上にカメラを設置する。
ピントを皆に合わせてセルフタイマーをオンにすれば準備は完了だ。
『涼真の隣はあたしだから』
『ずるい、私も隣がいい』
『……ボクは構わないから二人で隣に入ればいいんじゃないかな?』
『じゃセンパイは真ん中で、準備オッケーです!』
シャッターを押して急いで皆の中心に入る。
『隙あり』
『ここです!』
両隣の二人が飛びついてきた。
『あ、二人ともずるいです!』
『……じゃあ、ボクも』
そんなことを言ってもう二人も飛びついてくる。
それと同時にシャッター音が鳴った。
こうして、学園ハーレム物語は幕を閉じた。
しかし、大切な四人の少女たちとの話はこれからも続いていくだろう。
学園ハーレムトライアル
グランドルート ~完~
全てのエンディングを踏破したプレイヤーだけが最後に見ることが出来る真のエンディング。
スタッフロールと主題歌が流れる画面を見つめながら俺は絶望していた。
ここで終わり? そんなはずはないだろ?
だってまだ、彼女のルートが終わってない。
目の前にある事実を認めたくない。
思わず画面に手を伸ばすも、それは段々と遠のいて、俺の視界は黒くぼやけて――。
――――――――
――――
――
「――――ん、――ちゃん。もう、お兄ちゃん!」
体が強く揺すられる感覚と誰かが呼ぶ声で俺は目を覚ました。
「あ、やっと起きた。もう朝だよ、お兄ちゃん」
「……朝?」
俺の事をお兄ちゃんと呼んだ見知らぬ少女は、はぁとため息をつく。
気だるげなたれ目と黒の瞳、二つにまとめられた黒のツインテール。
絵にかいたような可愛さの少女は、こちらの様子を窺うように言葉を続けた。
「お兄ちゃん、時間になっても珍しく起きてこないし、様子見に来たらうなされてるし……なんか悪い夢でも見た?」
「夢……」
夢の内容を思い出せば、普段の夢とは違って今も脳裏に焼き付いて……いや、記憶にあるといった言葉の方が合っていた。
この状況、何か変? すごく違和感がある、この記憶は――。
「なんかよくわからない反応……まぁ生きてるならいいや。私は下行くから、お兄ちゃんも早く着替えなね~」
「あ、あぁ」
部屋を出ていく少女の背中を見送った後、俺はゆっくりと立ち上がる。
そのままクローゼットの隣にある姿見のもとまで移動すれば、そこに自分の姿が反射した。
少し長めの黒髪に黒い瞳、そこそこ整った顔立ち。
思い出せる自分の姿とは違う姿がそこには映っていた。
全く状況が呑み込めない、一体何がどうなっている?
俺は何とか現状を理解しようと、頭の中を整理し始めた。
まずは……そう、名前から。
名前は
年齢は十八歳、高校三年生の男子で、趣味はゲームに漫画、ラノベなど。
ここまでは間違いないはずだ。記憶はしっかりと頭に残っているし、人違いなんてこともないと思う。
昨日は日曜日で、特に外に出ることもなく一日をゲームに費やしていた。
明日は学校だからと自室のベッドに入り眠りについたのが最後の記憶である。
思い出せる範囲で何かが起きた覚えはない。
まさに寝て起きたらこうなっていた、ということになる。
そこまで思い出したとき、俺はある事を思い出した。
それは、昨日やっていたゲームの記憶。それと共に、今目の前の姿見に映っている人物の事を思い出した。
十六歳の男子高校生、成績は良い方だが運動はそこそこ、人に優しく超が付くお人好し。そして俺が好きなギャルゲである学トラ、正式なタイトルは『学園ハーレムトライアル』の主人公。
「どういうことだ?」
あたりを見渡せば、黒を基調としている物数の多くない部屋が広がっている。
目の前のクローゼットと姿見、少し離れた位置に机に椅子と本棚。そして先ほどまで眠っていたベッド。壁にかけられた時計は八時過ぎを指していた。
すんなりと頭に入ってくる……というか何故か見慣れている感じがする。
なんなら、俺は起きてから何も迷うことなくこの鏡の前まで来てないか?
部屋をまともに見たのは今が初めてで――
「っ……」
突如鈍い頭痛が襲ってきて思わず頭を押さえる。
痛みを堪えていると、ふと頭の中に色々なものがフラッシュバックしてきた。
「こ、れは……」
その内容は痛む頭でもすぐに理解できてしまった。
これは、
昨日までの十六年間、彼がどう生きてきて何を考えてきたか、誰に対して何を思ってきたか、その人間性や性格までの全てが流れ込み、二つの意識が混ざり始める。
そのうち痛みよりは頭の中がぐるぐるとするような感覚が強くなり、俺はその場で座り込んでしまった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……落ち着いた、か」
出来る限り楽になりたくてフローリングの床に寝っ転がっていた俺は、頭を動かして時計を見る。
時刻は八時十五分、十分ほど経っていた。
念のためゆっくりと立ち上がったところで、下の階から声がする。
「お兄ちゃーん、まだ支度終わらないのー?」
「え、あぁ、すまん!」
そういえば、と先ほど起こしに来た時に早く着替えろと言われていたことを思い出し、俺は目の前のクローゼットを開けた。
……確か、今日は月曜日で学校があったはず。そう思い出した涼真の記憶を信じ、クローゼットに中から制服を取り出す。
寝間着を脱いで制服に袖を通せば、ゲームの中で良く見慣れた姿が映った。
最後に制服のボタンを留め、机の上に置いてあった鞄を持って部屋を出る。
一階のリビングまで下りれば、テーブルで先ほどの美少女……じゃなくて、
「やっと降りてきた、遅いよ~」
「あー……二度寝しそうになってたんだ」
「わざわざ起こしに行ったのに……ほら、そっちにお兄ちゃんの分もあるからさっさと食べちゃって」
「はいよ」
荷物を置き、言われるままに妹の向かいの席に座ってトーストを手に取る。
視線を前に向ければ、涼香はニュースに対して「ほへー」とか「ふーん」とか適当な相槌を打ちながらトーストを食べていた。
めんどくさがりでマイペース、基本的に何かしているときは自分の為なことが多い自分良ければすべて良しの性格。
ゲームでの紹介文を思い出しながら、トーストを食べる。
……今更だが、この状況は転生というやつなのだろうか?
言われるがままに支度をしていたが、やはり分からないことが多い。
一体なぜこんなことになっているのだろうか。
「お皿、片付けちゃうね」
そんなことを考えながら俺が二枚目のトーストを手に取ったところで、涼香が皿をキッチンの方まで持っていった。
珍しいなんて思ってれば水の流れる音が聞こえるキッチンから涼香の声がした。
「ほらほら、早く食べちゃって。今日は私の入学式なんだから」
「……え?」
そう言われ、ニュース番組の画面を見る。
書かれている日付は四月九日。
それは、奇しくも『学トラ』ストーリーが始まる日付と同じだった。
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