昔振ってきた子が久しぶりに会ったらなんか優しい

ハトア

第1話 まさかの再会

「ごめん……渓介君の事は好きだけど……私はあなたとは付き合えない……」

「えっ……」


 それが、俺の初恋の終わりだった。


「うわっ!?」


 俺は今見た夢の内容に驚き、思わず勢いよく立ち上がってしまう。

 休み時間ではあったが、教室で大きな声を出しながら立ち上がってしまい、クラスの大半の視線がこちらへ向く。


「あはは……すみません……」


 人の少ない昼休みでよかった……とやらかした反面内心安堵していた。

     

「はぁ……またこの夢か……」


 は自分の中では克服したと勝手に思っていたのだが、どうやら身体は正直らしい。


「ハハッ……俺いつまで昔のこと引きずってんだろ……」


 世の中には人の数だけ恋があると言われ、高校生ともなれば彼氏、彼女の一人は欲しいという人も多くなるだろう。

 だが全員がそうというわけではない、何らかの事情で好きになることが怖くなり、作りたくないと思うようになった人も少なくはないだろう。

 実は、それが俺だったりする。


 俺ことひいらぎ渓介けいすけは小学生の頃好きだった子が引っ越すと聞いて告白したのだが振られてしまい、それがトラウマになってしまった。

 高校生になってやっと克服したと思ったのだが、俺は未だに昔のことを引きずってしまっているらしい。


 どうしたらこれを克服できるんだろうか、俺は頭を抱え悩む。


「お前あんな叫んで、なんか変な夢とかでも見てたのか?」


 声がした方向を見ると友達のれんがこちらに話しかけていた。


 こいつの名前は鈴木すずきれん中学からの付き合いの俺の数少ない親友だ。


「お前昔から時々血の気が引いたように焦るよな、もしかしてなんかトラウマがあるとか?」

「うーん、まぁそんなもんかな」


 ……言えない、例え長い付き合いの涼介だとしても、小学生の頃の失恋を未だに引きずってるなんて言えるわけない。


「というか聞いたか?他のクラスに転校生が来たらしいぜ」

「この時期に転校生ってだいぶ珍しいな」


 今は7月、クラスの大半は仲いい人や固定のグループなどがとっくにできている時期だ。

 こんな時期に転校してきても、何かない限りは数日したらクラスから浮くだけだ。


「聞いた話によるとめっちゃ可愛くてスタイルもよくて、その上誰にでも優しいらしい」


 聞いている限り、まるでラノベの世界から取ってきたような完璧美少女なのだろう。


「興味あったら今から一緒に見に行かないか?」

「人をそんな展示物感覚で見に行くのかお前は」

「お前も気になるだろ?なあいこうぜ」

「正直あんま興味ないし俺はいいや、今から売店でパン買ってこなきゃだし」

「えー、ケチ!」

「お前の分も買ってきてやるよ」

「サンキュー!」


 なんてちょろいやつなのだろうか、と内心思いながら俺は売店へ向かう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 なんとなく予想はしてたけど、やっぱ混んでるよな。

 話してて行くのが遅れたからだろう、売店には既に多くの人が並んでいた。

 

 なんか今日はいつもよりやけに人が多い、大人しく並ぶにしても買えるのだろうか。

 買えるか分からない物のためにめっちゃ並ぶっていうのは正直かなりだるい。


 でも蓮と約束しちゃったしな〜……しかたない、大人しく並ぼう。


 だが……並ぼうと前に視線を飛ばしたとき、俺はとんでもないものを見ることになる。


「えっ……戸宮とみや……天海あまみ……?」


「戸宮天海」俺が昔好きで告白した女の子だ。


 容姿などは変わっているが俺にはわかる……あれは間違いなく戸宮だ……でも何故この高校にいる、戸宮は小学生の頃遠くに引っ越したはずじゃ──


 まさか……蓮が言ってた転校生って戸宮のことだったのか!?


 俺も昔とは容姿がかなり変わったからわかるわけないと思うが……正直近くにいるだけでだいぶ気まずい……


 教室に戻ろう……蓮には悪いが、まぁおにぎりでも渡しておけば大丈夫だろう、チョロいし。


 内心焦って去ろうとした、それ故に周りを見れてなかったのだろう。


「ねぇ!ちょっと待って!」


 声が聞こえた途端、何者かに右腕を掴まれる。


「えっ──」

「君渓介君でしょ!覚えてる?私戸宮天海!」


 戸宮が俺の手を勢いよく引き、俺は視線を戸宮の方に向かさせられる。


 俺も容姿がかなり変わっているのになんでバレた!?ってかこいつ大きい声で叫びすぎだろ、周りの視線が全て俺等に集まっている。


「え、あれなに?」

「カップルじゃね?」

「あんな冴えないのが彼氏?」

「釣り合ってね〜」

「てか女子の方かわよ!」


 周りからボロクソ言われているがこの際いいとしよう、大分ムカつくけど。


「やっぱあなた渓介君でしょ!」

「人違いです!」

「そんな嘘に騙されるわけないじゃん!」


 思いついた嘘も秒でバレてしまう、離れるために嘘を考えているが、戸宮は意に返さず俺に話しかけ続けてくる。


「あの時はごめん……そのよかったら──」


 戸宮が少し顔を赤くしながら何かを言いかけようとする。


「おーい、渓介ーどこだー?」


 戻るのがかなり遅れたからだろうか、近くで俺を探す蓮の声が聞こえた。


「マジで人違いですから!」


 俺はそう言い残し、その場を素早く去った。


「人違いって……渓介って名前に反応して、人違いなんてあるわけないじゃん」

「でもしょうがないよね、昔あんな別れ方しちゃったし……」

「でもよかった、ちゃんとこの学校にいて」

「次は、私の口から必ず──」

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