第二十二話 王女と勝てない存在
皆さんこんばんは。私はテラスです。
現在二十四時を超えました。
そんな時間に、私は今何をしているのかと言うと、城下町の上空を飛んでおります。
いつもの無音と不可視の魔法で城を抜け出してきた、そんなお姫様な私でした。
私は魔法の研究が行き詰まると、こうしてたまに夜の城下町を眺めながら空を飛び回る事があるのだ。
エクラには、最初は内緒で飛び出していたのだが、ある日バレて怒られたので、今日はちゃんと伝えてある。
「二時間だけですよ!…だなんて、エクラは今日も尊いなあ。」
そんな独り言を呟きながら、城下町を上空から巡る私の二時間だけの孤独な旅は続く。
別に、城下町に何かアイデアを求めている訳ではなく、ただの気分転換なのでのんびり旅を続ける私だったが、その平和な旅の終わりは突然であった。
時刻は二十四時半ぐらいだろうか。
「あれ?あの場所、なんだか明る過ぎない?」
私はそう呟きながら望遠の魔法を発動させてみると、
「ああ。火事ね。」
と、火事を視認した私はすぐに、翼での飛行に切り替え、不可視と無音の魔法を解いた。
そして火事現場へ急いだ。
火事現場につくとそこには、周辺の住民が必死に魔法で出した水や井戸水を使い火を消そうとしている光景が広がっていた。
夜中であるにも関わらず、皆が協力して火を消そうと奮闘しているその姿に、私は感動した。
私は建物の真上から少し離れた空で止まり、そして巨大な水泡を魔法で生成する。
そして、その水泡内から繋がる細長い水の線を生成すると、それを操り火事を的確に消化していった。
この魔法は結構前に作った魔法で、消火栓や消防車にホースを繋ぎそして消火をする消防士をイメージした作りになっている。
消防士と違う点は、水をより正確に操作できる為、的確に火事を消していくことが出来る事だ。
巨大な水泡と、そしてそれを生み出した存在を確認した周辺の民達は、大歓声を上げた。
「うおおお!!姫様が来て下さったぞ!!」
「巫女様が来て下さったのなら安心だわい!」
「確定演出キタコレ!」
「ありがとうー!水の巫女姫様ー!」
なんか一部変な言葉が混じっていたような気がしたが、気にせず私は無事に消火を終えた。
え?何故私がこんなにも慣れた手つきで消火活動を進めているのかだって?
だって、こんな出来事は良くある事なのだもの。
日本と比べ、この世界は、防火設備が遥かに劣っているので、火事など良くある事なのだ。
そしてたまに、私がこうして消火を手伝っていたら、いつの間にか私の評価が爆上がりしていたのだ。
先程呼ばれていた、水の巫女姫様なんて勝手に付けられた異名まである。
周囲の安全を上空から確認した私は、負傷者や行方不明者が居ないか確認する為、未だ騒ぐ民達のもとに降り立った。
私はすぐさま囲まれ、皆から感謝の言葉をかけられまくる。
皆の感謝の言葉に対応しつつ、現場の状況を把握していく。
しかしそれは、聞けば聞くほど奇妙な話であった。
まず、負傷者は四名。とは言っても皆本当に軽傷なので即座に治療し、全快させる事が出来た。そして行方不明者も無く、無事解決。
…ではなく、出火原因と、そこで簀巻にされている人族の男の正体ついて聞くと、それはあまりにも奇妙であった。
簀巻にされている人族の男の正体は、この火事になった店の店長であるらしい。
何か、言葉にならない叫びを先程から繰り返しているこの店長が、なんと自分の店に火をつけたらしい。
先程の負傷者四名の内、一人は店長の奥さんで、残りの三名は店長を簀巻にした周辺住民の屈強な男達だ。そして、全員魔族である。
私は、普段はあまり事件に深く関わらないようにしている。
それは警備兵(警察の様な仕事をする兵士)や、裁判官の仕事であるからだ。
しかしあまりにも奇妙であった為、追求してみる事にした。
奥さん曰く、
「主人とわたくしは、閉店後の片付けをしていましたの。そして、深夜の訪れを告げる鐘の音が辺りに響いて少し経ったその時、突然主人の様子がおかしくなりましたの。店内で訳のわからないことを叫びながら暴れ出して、店の机や椅子を壊して回り、遂には精霊術で店に火まで放って。」
そこまで話し、その時の事を思い出したのか涙を流しながら震える奥さん。
しかし震えながらも、言葉を続けた。
「わたくし、何度も止めようとしましたの。ですが、今度は主人、わたくしを殺そうと包丁を持ち出して来ましたの。わたくしそこで、あまりの恐怖と、主人の変わりように耐えられなくなって、気を失ってしまいましたの…。」
どういう事?鐘の音に何か魔法でも仕掛けられた?でもそんなの全く感じなかった。
簀巻の店長に、魔法の気配や洗脳の気配は感じられない。
その後の話をしてくれたのは、残りの三名の負傷者達であった。
「俺ら三人、仕事の帰りでよう。そしたら破壊音と悲鳴が聞こえてきて、俺ら直ぐに駆け付けたんだ。そしたら、人族の男が魔族の女を刺し殺そうとしてて、慌てて俺らが止めに入ったんだ。でもあの人族の男、あの貧弱な人族とは思えない程力が強くて、俺ら三人がかりでもああするのに時間が掛かったよ。」
そう言って、簀巻店長の方を見る魔族男。
見ると、簀巻店長は一般的な体型で、対する魔族の男三人は、鍛え上げられたその筋肉が服の上からでもわかるほど屈強であった。
明らかに、簀巻店長に勝ち目は無いはず。
しかし事実、彼らは捕縛に手間取って怪我を負っていたのだ。
人族が扱える精霊術の属性は、基本的に一種類。そして先程建物に精霊術の火を放ったと言っていた時点で、簀巻店長の属性は火なのであろう。
身体強化の精霊術は確か闇属性であった筈なのだが…。
「姫様危ない!!」
私が思考を巡らせていると、背後からそんな声が聞こえた。
振り向くと、簀巻店長が自らを縛っていた縄を力で引きちぎり、そして私に何かを叫びながら、一直線で向かって来ていたのだ。
「ゆ"う"ろ"え"あ"ま"あ"あ"あ"!!!」
本当になんと言っているかよく分からなかったが、取り敢えず飛び掛かって来た店長の頭を上から叩いて撃墜し、地面に顔をめり込ませておいた。
店長はしばらくピクピク動き、やがて動かなくなった。
ヤバ、やり過ぎた。
私は店長の足を引っ張って、地面に埋まった顔を外に出すと、魔法で鉄の縄を生成し、再び簀巻店長に戻しておいた。
見ると、ちょっっとだけ顔が潰れていたので、簀巻店長の顔を治療してあげた。
そして、この一連の流れを見終わった周囲の野次馬たちは、またしても大歓声をあげた。
「うおおおお!!!姫様凄え!!!」
「これならこの国も安泰だわい!!」
「俺にもやってくれえええ!!」
「姫様!!!とてもかっこいいわ!!!」
私はそんな声に答えながら(一部の声は無視したが)、警備兵達の到着を視認すると、私は道を開けてもらい、警備兵達に近づいて行く。
そして今回の事件について調べた事を話し、後は任せて私はその場を飛び去った。
私は火事現場から遠く離れた場所の路地に降り立ち、不可視と無音の魔法を再びかけ直すと、再び深夜の孤独旅に戻る。
今度は先程とは違い、魔法ではなく翼による飛行である。
理由は特に無い。気分で変えている。
しかし先程の事件、かなり不可解な事が多かった。
なんだか気になるし、今日の孤独旅はここまでにして、今仕事中のお母様に報告しておこうかな。
それに、龍の力が目覚めた事によって発生した深夜の眠気が段々と私を襲い始めたので、城に帰ることを決めた。
眠たい目をこすりながら空中で回転して城の方に向き、あくびをしながら城に向かって進もうと翼を動かした。
しかしその瞬間、辺りに鳴り響いた爆発音で、私の眠気も建物も、一気に吹き飛んだのであった。
え?私、また何かやっちゃいました?
…なんて馬鹿な事を言っている場合じゃない!
え!?私翼を動かしただけだよ!?
何も魔法とか発動させてないし、翼から爆風が出たとか、そんな事も無かったよ!?
なんて焦る私であったが、冷静になって爆発音がした場所を観察すると、そこには首謀者と思われる奴らが居た。
手には明らかに爆弾っぽい物を持っているし、絶対にあいつらの仕業だ。
私は少しの安堵感を感じた後、すぐにそいつらを無力化しようと動き…出せなかった。
街中から、爆発音が鳴り響く。
かと思えば遠くで火事。しかも何軒も。
そして望遠の魔法で街を眺めると、魔族を襲う人族達の姿がそこらじゅうで確認出来た。
一体、何が起きているのか理解出来なかった。
しかし私はこの国の姫!
ならば今は考えるより、先に自国の民を救う事を優先すべきでしょう!
私は無音と不可視の魔法をその場で解くと、龍の威圧を発動させる。
最大出力で放った威圧は首都全てに広がった。
それは私の国を襲う者達への怒り。
私の民を脅かす者達への怒り。
そして、エクラを脅かす可能性への憤怒であった。
私の威圧を受けた首都中の反乱者共は、何故か皆動きを止め、そして一斉に私の方を向き、そして私を目指して一斉に走り出す。
気味が悪かったが、私だけを狙って集まってくれるのならばむしろ好都合。
殲滅のお時間でございます。
私は、懐かしのあの魔法の展開を始める。
そういえば、あの時もこうして街を上空から眺めていたな。懐かしい。
「炎弓千々矢!」
前とは違い、空に向けて放った一本の炎の矢は、天空で千本に分裂し、そして反乱者に五本づつ確実に命中していく。
数年前と変わった点は、まず名前通りちゃんと千本に分裂するようになった事と、その命中精度と確殺精度だ。
敵が確実に死ぬまでに千本のうち何本を使えばよいのかを私が見定め、そして敵一体につき何本降り注ぐのかを決める事が出来るようになった。
今回は取り敢えず五本にしてみた。
…え?全然見定められていないじゃないかって?そんな貴方には、今なら何と二十本プレゼント!
そんな事を考えながらも、しっかりと望遠の魔法で観察していたのだが、予想以上に奴らは丈夫で、二百人中死んだのは五十人ぐらいしかいなかった。
まだ全体にどれだけの反乱者共がいるのか把握しきれていないこの状況で、この魔法はどう考えても効率が悪過ぎる。
しかし、この魔法が一番周囲に影響が出にくく広範囲に攻撃できる魔法なので困った。
私が悩んでいる間にも、反乱者共はまるでゾンビ映画のワンシーンのように私に群がろうと足元をうろついている。
しかしゾンビと違い奴らは遠距離攻撃ができる為、それを避けながら最適な魔法を探すのはなかなかしんどい。
てか、周囲、つまり街への被害を考えていたけれど、すでにこいつらが被害出しまくってるじゃないか。
ならば被害が酷い、なおかつ住民の被害が完了している場所を探してこいつらをそこに誘導すれば、周囲を気にせずこいつら殲滅出来るのでは?
私は、下から飛んでくる火の玉やら水の槍やら何やらを避けながら望遠の魔法で探す。
すると、爆発で辺りが吹っ飛んで、住民も多分逃げ終えている場所を近くに見つけた。
そう、最初に爆発音がした場所である。
すぐそこなので、私は下から飛んでくる攻撃を避けながら、その場所の中心に移動する。
近くで確認したが、やはり周辺の住民は逃げ終えていた。
少ししてやはりまたゾンビのように群がる反乱者。
「ゆ"う"ろ"え"あ"ま"あ"あ"あ"!!!」
なんか、さっき聞いた様な叫び声を上げている。
しかし相変わらず何を言いたいのかよく分からなかった私は、気にせず魔法を展開する。
いや、この魔法は『魔砲』のほうが正しいか。
私は脳内の魔法リストの、今から放とうとしているこの魔砲の名前を変更すると、その名を叫ぶ。
「龍魔砲・ドラゴンキャノン!!」
これは、お母様に放ったあの七属性ブレスの内、私が担当していた純粋な龍の力だけを乗せたブレスの、威力を少し弱めその代わり範囲を広げたバージョンな魔砲だ。
何故か頑丈な人族の反乱者共も流石にこれには耐えられないのか、蒸発した。
そして、この魔砲の効果範囲外にいた反乱者共もこれには恐怖を覚えたのか、後退りする。
ヒャッハー!!汚物は消毒だぁぁぁ!!と、もう一度同じ魔法の準備を始めたのだが、ここで私は不意に冷静になる。
あれこれ、殲滅しない方が良いのでは?
そのほうが取り調べもできるし、何より、人族を殲滅したシュトラールの姫となれば、世界の平和が崩れない?
あ〜あ。やっちゃったな〜これ〜。
冷静になった私は、別の魔法を唱える。
「バーストマジック・パラライズ。」
すると、麻痺効果の混ざった衝撃波みたいなのが広がり、瞬く間に反乱者共は倒れていく。
しかしそれでも倒れない反乱者も。
麻痺を弾き、倒れなかった反乱者共は再び私に群がろうと足元に集まる。
さて、どうしようか。
これ以上の強さの麻痺は後遺症が残ったりするから危険なんだよね。
最悪、死ぬよりはマシでしょ、と打つ事も考えつつ、下からの攻撃を避けながら、次の一手を考えていたら、一つの案が浮かんだ。
しかしこれ、即興で上手くできるのか…?
…ええい!やってみるしかない!
私は、脳内で浮かんだ魔法の最終的な形を思い浮かべながら、その場で魔法を構築していく。
あ、下からの攻撃は、自分の足元に透明な盾を生み出したから大丈夫。
てか、始めからこうしていれば良かった。
私を中心に、超巨大魔法陣が街の地面に広がっていく。そして構築を終え、パパっと見直した私は、魔法の展開を叫ぶ。
「名前はまだ無い魔法発動!」
すると、地面から鉄の柱が何本も生えてくる。驚くべきはその範囲。
数百メートル×数百メートルの範囲を囲うように生えたその鉄の柱は、一定の高さまで伸びると、今度は鉄の天井が生成されていく。
私はすぐ様より高く飛び、その光景を眺めていた。
やがて、天井が完成すると、これで反乱者共を閉じ込める超巨大な檻の完成だ。
我ながら物凄い魔法を作ったものだ。
街の一角を包む鉄の檻の生成…。
うーん、魔法の名前は何にしようかな。
なんて、呑気なことを考えていたら、事の顛末を見ていた民たちが大歓声を上げまくる。
その言葉を聞こうと思ったが、エクラとの約束の時間がとっくに過ぎている事に気が付いた 私は、全速力でその場から去った。
城に帰った私を待っていたのは、可愛いエクラとの添い寝タイム…では無く。
「おかえりなさぁい、テラス。随分と、楽しんできたようねぇ?」
「お、お母様!?こ、これには訳がぁぁ…。」
そうして、一つの街を救った英雄の、眠れない夜は始まったのであった……。
「ゆ"…う"し"ゃ"…さ"ま"……。」
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