滅びゆく世界で③
2044年5月7日
世界人口の1割が死亡したとニュースが流れた。
70億人の1割……
とんでもない死者の数に彼方は呆然とする。
「カナタ、携帯貸して。」
携帯でニュースを見ていると横からアカリに強引に奪い取られた。
「何するんだ!」
いきなりの事に声を荒げるがそんな声も虚しくアカリによって近くの川に投げ捨てられた。
「こんなもの見なくていい。貴方は間違っていない、だから早く行こう。」
何も言えず、ただアカリと共に歩く。
あの事件から1ヶ月。
僕とアカリはある計画を進める為、瓦礫と化した街を歩いていた。
魔法には無限の可能性がある。
科学では辿り着けない未知の事象まで起こせてしまう。
それに気付いた僕はある一つの仮説を思いつく。
時を戻す方法。
普通に考えれば、何を馬鹿なことをと言われるだろうが僕には魔法という未知の力がある。
アレンさんからも言われていたが、僕には才能があるとのことだ。
もしかすると時を戻すことも出来るのではないか……そう考えてしまった。
アカリは、貴方のしたい事を止めるようなことはしない、と言ってくれた。
だから僕達はアレンさん達と合流することを後に回し、目的の場所へと向かっている。
「ここからは絶対に私から離れないで。」
目的地となる場所。
それは終わりの始まり、異世界ゲートのある研究所だ。
もちろん周りには魔族や魔物が蔓延っている。
簡単に行くとは思わないが、アカリいわく一瞬近づくだけならなんとかなるとのこと。
魔族達に見つからないよう腰を落とし少しずつ異世界ゲートへと近付いて行く。
奇跡的に異世界ゲートが見えるところまで見つからず近づくことができた。
「カナタ、最後にもう一度だけ確認しておく。」
いつもより真剣な表情で僕を見つめる。
「チャンスは一度だけ。異世界ゲートの側まで一瞬で近寄り私が結界を発動する。自慢じゃないけど私の結界だと保って10秒。その時間で貴方は異世界ゲートに送り込んでいる魔神の魔力を使って魔法を発動。」
「ああ、失敗は許されない。」
「正直……危険すぎる。時間に干渉するのは神の所業。人の身でその魔法は何が起こるか分からない。本当にいいの?」
「構わない。元の世界に戻せるのなら僕の命なんてどうなってもいい。」
「そう……」
一瞬悲しそうな顔を見せるがすぐにいつもの無表情に戻るアカリ。
「ここまで協力してくれてありがとう。僕に何かあったら姉さんをよろしく頼む。」
「分かった。命に変えてもその使命、全うさせてもらう。」
そう、これから行うのは時を戻す魔法。
魔法はイメージで使うと習った。
僕の頭の中にある時を戻すイメージをフルに活用する。
しかしそんな魔法、アカリいわく前代未聞だそうで成功するかも分からないし魔力も膨大な量を必要とするとのことだ。
そこで、魔神の魔力が役に立つ。
異世界ゲートに魔力を送り込み稼働させ続けている膨大な魔力。
それを横から掠め取り僕の魔法に流用する。
「準備はいい?」
「いつでも。」
「行くよ。」
合図とともに走り出す。もちろん周りにいる魔族が気づくがアカリの速さには追いつけない。
あっという間にゲートの側まで来られた。
「結界発動」
アカリの結界が展開した。
今からは時間との勝負。
目を瞑り、僕の中にある魔力を全て一点に集中する。
同時にゲートに流れ込む魔力を奪い、魔法を詠唱する。
詠唱なんて言うが、僕の考えたイメージ通りになるよう言葉にするだけだ。
「魔力よ、集約せよ。その光は時を駆け時代を遡る。我は彼方。幾千の世界より望む時間に巻きもどれ。」
足元には見たこともない魔法陣が展開していき、次第に大きくなる。
青白い光が研究所の隙間から溢れ出し周囲を青く染める。
「な、何だこれは!!!」
研究所の地下で何かしていたのか、魔神が姿を現した。
「魔力が奪われたと思ったらお前たちか。何をするのか知らんがそんな魔法陣は我でも見たことがない。暴走して死ぬのがオチだぞ。」
無視だ。何を言われても意識を集中させる。
魔法陣は何重にも重なり、次第に僕を包むほどの大きな魔法陣となる。
「カナタ……もう……もたない……」
アカリの結界を破ろうと魔族達が攻撃している。
もってあと2秒か。
それだけあれば、完成する。
思い出せ、あの日のことを。
戻すのは2044年4月7日、12時だ。
1ヶ月前に戻すだけだ、僕の命もくれてやる。
だから、頼む。成功してくれ。
ガラスの割れる音がする。
アカリの結界が破られたようだ。
「カナタ!!!」
大丈夫。
もう出来たから。
思いの限り叫ぶ。
「駆けろ!!時の結界!!!」
音は消え、真っ暗な視界。
魔法は成功したのか?
何もわからない、分かるのは今寝転んでいるだけだ。
ゆっくり目を開けると、アカリが覗き込んでくる。
「あ、起きた。ご飯用意したよ」
いつものアカリだ。
ここはどこだ?
何も分からない。
ゆっくりと身体を起こし辺りを見渡す。
見覚えのある壁や机。
嫌な予感がするが、平静を装いアカリに問う。
「アカリ、今は何月何日だ?」
何を言ってるのだ、というような顔をして首を傾げるが答えてくれる。
「今日は4月9日」
絶望した。
時は確かに戻っている。
だが僕の望んだ時間ではなかった。
事故が起きたあとだ……
やはりいきなり初めての魔法、尚且つ誰も見たことないオリジナル魔法を使った弊害か、成功はしたが望み通りには行かなかったようだ。
しかしまだ可能性はある。
時が戻ることは確認した。
次はもっと正確に時間を指定すれば問題はない。
そう思い、アカリに計画を話そうとするが、アカリの目線はずっとある一点を見ている。
表情も酷く動揺しているようだ。
「どうした?」
「カナタ……貴方はいつ禁呪を使ったの……?」
禁呪?何を言っているか分からず、反応に困っていると続きを話してくれた。
「貴方の右眼は赤くなっている。」
赤くなっているのがどうしたのだろうか。
充血することなんてよくある話だ。
「充血じゃない。赤眼」
「……?意味がわからないぞ。」
「禁呪を使った者は赤い眼になってしまう。」
まさか時を戻す魔法は禁呪と呼ばれる危険なものだったのだろうか。
しかし赤い眼の何が悪いのか。
僕は元々命を懸けて魔法を使った。
赤い眼くらいは許容範囲だ。
「違う……貴方は何も知らないからそんな気楽に考えている。」
少し怒ったような声質に変わり、驚いていると胸ぐらを掴まれた。
「いつだ!!いつ使った!!禁呪なんて誰に教わった!!!」
初めて見る怒気を放つアカリ。
あまりの勢いに僕は何も喋れない。
少し落ち着きを取り戻したアカリは話を続ける。
「禁呪を使った者は呪われる。その証が赤い眼。私達の世界では忌み嫌われる者となる。」
だからアカリは怒ったのだ。
もしも異世界に僕もついて行くとなった場合、赤い眼のせいで疎まれる存在となることを見越して。
「ごめん……実は……」
そこからは今先程起こった現象を細かく説明した。
「事情は分かった。でももうその魔法は使えない。」
「いや、でも次はもっと鮮明に時間をイメージすれば、」
「違うの……」
何が違うというのか。僕は次に発した言葉を二度と忘れることはないだろう。
「禁呪を使い赤い眼が現れた者は二度と禁呪は使えない……使おうとすると全身に激痛が奔り死に至る……それどころか高位魔法と呼ばれる上級以上の魔法は二度と使えない……」
僕はただただ立ち尽くした。
僕は取り返しのつかない事をしてしまったようだ。
もし異世界に行ったとしても満足に魔法が使えない僕はお荷物でしかない。
そして時を戻す魔法はもう二度と試すこともできなくなってしまった。
「ごめん…………僕の早とちりで……」
「大丈夫。どんな貴方であっても私が守るから」
そう言って、涙を流す僕を静かに抱きしめてくれた。
1時間はずっと抱き合っていただろうか。
少し恥ずかしくなり、涙を拭っているとアカリは出立の準備をしだした。
「どこに行くんだ?」
「もうその手段は使えない以上、団長達と合流してゲートを奪い返すしかない。」
僕も準備をして玄関の扉に手をかける。
「多分見るも無惨な光景が広がってるだろうけど、行くしかない。」
「行こう、貴方は私が守るから安心していい」
「ありがとう。」
微笑みそう言うと、初めてアカリは笑顔を見せてくれた。
今まで見たことがなかったが、アカリの前で泣いたせいかかなり打ち解けられたようだった。
隠れ家を出て、少し歩いていると聞こえるのは悲鳴と怒声。
どこを見ても瓦礫と化したビルや家々。
所々には息をしていない人達が倒れている。
目を逸らすわけにもいかず、ただ黙々と目的地へと向かって歩き続ける。
たまに聞こえる助けてという悲鳴。
それすらと聞こえないフリをする。
僕には誰かを助ける力も余裕もない。
ただ今は姉さんの無事を確かめる事とアレンさん達とゲート奪還作戦を決行することだけ考える。
「何人死んだんだろうな……」
アカリは独り言のように呟く。
それに何も返答はせず、ただひたすらに前だけを見る。
アカリには言っていないが、既に計画はある。
少なくとも僕の命と引き換えに時を戻せる。
こんな悲劇を生んだのは僕だ。
だから後始末は僕がやる。
ゲートまで近付ければ後は…………
アカリには気づかれてはいけない。
止められるだろう。
もしかすると監禁されるかもしれない。
だから僕は心の中だけで誓う。
「あの日に戻せる力があるなら使わずして終わるはずがないだろう……」
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