滅びゆく世界で②

アレンを筆頭に団員3名の計4名で捜索に出ることとなった。

レイには万が一の時に備え、秘密基地で待機。

他の団員も一般人の守りに付くため待機。


ボロボロになった街を歩き、アカリに逃げてくる場所は伝えていた為そこに向かう。


既にあの日から1週間は経っている。

もしかすると既にいるかも知れないが、あまり派手に動き魔族らに囲まれると厄介な為慎重に足を進める。


「団長、アカリちゃんとカナタさん無事ですかね……?」

小さく幼い声で聞いてくるこの子は団員の1人、セラ・マクレーン。

アカリと同じ20歳という若さで二つ名を得た、黄金の旅団に相応しいメンバーだ。

「そうだね、二人共無事だと思うよ。何しろあの神速が護衛なんだから。友達ならもっと信じてあげよう。」

優しく微笑み返し、セラも頷く。


セラにとっては唯一の同い歳。

最年少の団員は他にいるが、いつ何処に行くにも一緒だったアカリの事が心配でならないのだろう。

不安そうな顔を見せるが、頭を撫でてあげると照れた表情をしてちょっと怒る。

「もー!私ももう20歳なんですよ!団長は子供扱いしすぎです!」

「ははは、ごめんよ。妹みたいな存在だからねセラは。」

身長も低く、礼儀も正しい。それに可愛らしいキャラの為団員からは可愛がられていた。

そんな彼女ももちろん黄金の旅団にいる以上は、かなり上位の能力を持つ。


絶対防御。


彼女の幼い見た目からは想像がつかない二つ名だが、力は本物だ。

彼女の防御結界は誰にも破られない。

これはアレンにも適用する。

殲滅王と呼ばれる彼ですら1度も破れたことが無いほどの防御力を誇る彼女は次第に絶対防御と呼ばれるようになった。


しかし、そんな彼女にも欠点はある。


戦闘能力が低いことだ。

防御に特化している為、攻撃手段は乏しい。

もちろん、一般人相手なら簡単に勝てるだろうが、魔法を使える能力者との戦闘では勝てない程度の戦闘能力。

今回の探索メンバーに入れたのは、圧倒的な防御力を生かした援護をしてもらう為。

それにアカリの唯一の友達だと知っていたので、今回の探索に参加してもらった。


「旦那、俺も探索メンバーに入れてもらってありがとうございます。」

そう言って横から声を掛けてくるのは、ゼンの兄貴分だったガイラ・ビクトール。

轟龍の二つ名を持つ力こそ全て、の戦い方を好む男だ。

彼もゼンを失った悲しさからずっと塞ぎ込んでいたが、少しは気晴らしになるだろうと着いて来させることにした。

「いいよいいよ、ガイラも少し気分を変えたかったんだろ?」

「分かってましたか……ゼンを失ったのは辛いですがいつまでも塞ぎ込んではいられませんしね……」

家族のようだったゼンを失ったのはかなり辛いだろう。

アレンには、ただ気晴らしに連れて来る事くらいしか出来なかった。


そしてもう一人、この探索メンバーに参加している者がいる。

ほとんど喋る所を見たことがない無口な女だ。

リサ・バーネット。

無音の殺意、なんて恐ろしい二つ名を持つがその名に相応しく、無口だ。

戦う所すらあまり見ることがなく、今回は団長として久しぶりに戦い方を見ておきたかった為連れてきていた。

「リサ、こうやって一緒に任務をこなすのも久しぶりだね。」

リサが加入した頃は、何度か共に依頼を受けて戦ったことがあるが、最近は全く無い。

相変わらず、返事はないが頷いてはくれる。

いつものやり取りはこの程度だ。


この面子なら不測の事態にも対処できる。

指揮はアレン、攻撃はガイラ、守備はセラ、遊撃にリサ。

あまり組むことのなかったメンバーばかりだが、たまにはいいだろう。


探索に出て1時間。

リサはいきなり立ち止まった。

こんな時は大体魔物が近くにいる。

気配に敏感なリサは真っ先に気づいたようだ。

「リサ?もしかして魔物かい?」

無言で前方に指を向ける。

なるほど、前方の見えないくらいの距離に何かがいるようだ。


全員が臨戦態勢に入り、ゆっくり音を立てないよう進む。

次第にシルエットが見えてきたが、2人いるようだ。

1人は背の高い男らしき人物。

その横には女のようなシルエットが見える。


顔が見える所まで近付くと、向こうから声をかけてきた。


「おい!アレンか!」

聞き覚えのある声。

「剣聖か!?」

走り寄ると剣聖とその横に1人の女性がいる。


「ん?彼女は誰だい?」

「ああ、この子は紫音。カナタくんのお姉さんだ。」

まさか彼方より姉が先に見つけられるとは思わなかったが、基地に戻ればいい報告ができる。


「そうか、保護してくれていたんだね。」

「あの……初めまして。紫音と言います。」

「初めまして、ボクはアレン。カナタくんの師匠ってとこかな?」

握手と必要最低限の挨拶だけ交わす。

「紫音さん。まず最初に言っておくよ、カナタくんはボクらもまだ出会えていない」

それを聞いた紫音はとても悲しそうな顔をする。

「でも心配しなくてもいい。こうやって探索に出ているのもカナタくんを見つけるためなんだ。」

「ありがとうございます……!」

涙を流しながら礼をする紫音だが、実際はアレン達も一緒に居てくれることを期待していた。


「とりあえず一緒に来てくれるかな、カナタくんの護衛に付けていたアカリには落ち合う場所を伝えてある。今はそこを目指しているんだ。」


こうして4人から6人での行動となったが、剣聖が入ったおかげでより一層安全性は増した。

紫音は守らなければならないが、それを加味しても有り余る戦力だ。


「ここからは後5キロ程の場所なんだ。周囲警戒しつつ進もう。」


もう悲惨な光景は見慣れてしまった。

この近くに住んでいた人達は恐らくもう帰らぬ人となってしまったのだろう。

まだ一度も生存者には出会っていない。



一度も魔物と遭遇せぬまま目的地へと辿り着いた。

「……ここの廃屋ですか?」

セラが恐る恐る窓から中を覗くが人がいる気配はない。

「うーん、アカリにはここを伝えたんだけどなぁ」

まだ来ていないのか、辺りに彼らの姿はない。


「旦那、とりあえず中に入ってみましょう。」

リサの警戒で問題が無い事を確認しガイラが最初に中に入り安全確認をしたのち、一同は廃屋の中へと足を進めた。


朽ちた机に割れた窓、積もった埃に散乱した食器類。

明らかに人が立ち入っていない様子の部屋を見る限り1度もここへは来ていないようだった。


「今夜はここで一夜を明かす。リサは外の警戒を、セラは家全体に結界を展開、ガイラは寝床の用意を。剣聖はそのまま紫音さんに付いていてあげてね。」

「ああ、そのつもりだ。」

各々準備に入り、手持ち無沙汰になってしまった紫音は携帯で何度も彼方に連絡をするが返事はない。



日も落ち、静かな夜が来る。

セラ達は3人で女性同士の会話を楽しんでいるようだ。

リサは相変わらず相槌を打つくらいしかしてないようだが。

ガイラは外の警戒中。

今ボクは剣聖と二人で向かい合っている。


「あの後どうやって逃げたんだい?」

「魔物が抜け出していた壁の隙間から外に出て逃げたんだがな……」

「数日間はウロウロしてたんだろ?どうだった?街の様子は。」

「あまりいいとは言えないな……何処も戦争中のような悲惨な光景だ。」

やはり、魔物と魔族が溢れ出たせいで、世界は破滅へと近づいているようだ。

「この国だけじゃないみたいだぞ、騒動は。」

「あーボクも携帯で確認したよ。世界中に散らばったみたいだからね魔物が」


もはやこの世界は平和、という時代は終わったのかもしれない。

「とりあえず直近の目標は、カナタくん達と合流。その後反撃にでるつもりだ」

「しかし……この戦力では心許ない……」

「ふふふ、秘策があるのさ。異世界ゲートまでたどり着いたらレイを元の世界に戻させる。」

「どういうことだ?」

剣聖はまだ理解が出来ていないようで、訝しげな顔をする。


「連れて来ればいいのさ、戦力を。」

「なんだと?」

「レイには雷神ゼノンを連れてきてもらう。」

「量より質か……」

「3人の英雄、そのうちの2人がここに居ることになるんだから、十分な戦力だろう?」

我ながら無茶とは思ったがそれしか、この世界に平和を取り戻す手段はない。

「そこに加えて君がいるんだ。魔神を相手取るには丁度いい戦力さ。」

反撃の計画はできた。

後は無事にゲートまで辿り着く方法を探さなければ。



ふと、女性陣を見ると疲れたのか全員眠っている。

アレンたちも会話はそこそこに切り上げ、眠りについた。




異世界ゲート対策会議室。

日本の首脳陣達は頭を抱え今起こっている問題をどうするべきか、話し合っている。

「佐藤首相、まずはこちらをご覧下さい。」

そう言って会議の進行を務めるテロ対策委員会のトップはスクリーン映像を映し出す。

そこには見たこともない異形の生物どもが人々を襲っていた。

中継で見た映像と同じく、人の形をした化け物もいる。

「もういい、止めてくれ」

吐き気を催す凄惨な光景に首相は映像から目を逸らす。

「これが今日本で起きているテロです。」

「テロだと?こんなものがテロと言えるのか!!あれはなんなんだ!!見たこともない化け物ではないか!私の部下も何人もやられたんだぞ!」

机を叩き大声で叫ぶのは日本軍元帥、一条武。

軍も総動員したが、戦果は得られず無駄に人員を失うこととなってしまったせいか、落ち着いてはいられないようだ。

「一条、少し落ち着きたまえ。」

「しかし首相、あれはもう我々の手には負えません。」

数十人の軍隊が魔物一匹倒せれば御の字。

それほどまでに戦力差がある。

「まず、呼び方は統一しましょう。映像で超能力のような彼らが呼んでいた通り魔物、魔族と。」

「そもそも彼らは何者だ?魔物と魔族とやらに対抗できる力を持っていたが……」

彼らとはアレン達の事を言っているのだろう。

中継では彼らが主導となり、反撃していたように見えた。


「もう日本だけの話ではない。アメリカや中国、世界各国で同じような悲劇が起きている。」

首相の表情は厳しく、同じように会議に参加している者の全ては苦々しい顔をしていた。


「これは人類と異世界からやって来たと思われる魔物や魔族との生存競争だ。世界各国に伝えろ、地球防衛軍を設立し奴らを根絶やしにすると。」

元帥は既に動いていたのか、補足を説明しだした。

「アメリカとは既に協力体制に入っている。もはやこれまでのように国家機密などとは言ってられん。人類全ての武力をもって制圧する。」


「あの異世界ゲートを創り出した城ヶ崎彼方という男はいかがしますか?」

「詳しく話を聞く必要があるな……見つけ次第捕らえろ。国際指名手配として各国にあの男の情報流せ。」


彼方の知らぬところで、事は大きくなってきていた。

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