忍び寄る悪意④
刹那の攻防により辺りの道路は鋭利な刃物で引っ掻いたような傷、崩れる石垣、半壊した住宅。
見るも無惨な光景に変わりゆく。
動きが速すぎて目では捉えられないが、時折聞こえる剣戟の音が戦闘を物語っている。
「神速絶技、死線月花」
「ドミネートブラストォ!」
お互い技の撃ち合いをしているような声も聞こえてくる。
アレンさんに連絡をしておいたほうがいいか?
いやアカリが僕の為に戦ってくれているんだ。
水を差すような真似はやめよう。
「しぶといね、これで終わり」
「オメーこそなかなかやるじゃないか!」
お互い足を止めたようで僕にもやっと姿が見えたが、アカリはほぼ無傷でグリードは所々に血が滲んでいる。
四天王の1人を討伐したことがあるっていうのは、本当のようだ。
しかしアカリは瞑想のような仕草で深く呼吸をする。
一拍置いて目を開きグリードに問いかける。
「構えたほうがいい、これで四天王の1人は死んだから」
「なんだと?」
グリードも流石に不味いと感じたのか先程の余裕は感じられず力を溜めているような表情をしている。
「神速絶技、一閃」
刀がゆっくりと鞘から抜かれ刀身が顕わになる。
もう一度ゆっくり納刀する。
「終わった、カナタ」
いや、まだ眼の前にグリードが突っ立っているけども。
ボトリ。
重たい水袋を落としたような音が聞こえそちらに目を向けると、グリードが呻き声を上げだした。
「ううぐぅぅああ!」
足元には分厚い腕が落ちており、肩を見るとその先がない。
斬ったのか?さっきのゆっくりした抜刀で。
「クソが!!」
捨て台詞を吐き捨て、グリードは黒い靄に包まれて消えていった。
「終わったって言った」
そうは言うが僕にはただゆっくり刀を抜いてまた戻しただけに見えたがなにをしたんだ。
「見えなかっただけ、あいつの身体が異常に硬かったから同じ動作を数十回行った。」
なるほど、分からん。
瞬きの間に数十回斬ったなんて言われても、ピンとこない。
「早く紫音探そ」
そうだ、グリードのせいで忘れかけていたが本当の目的は姉を探すことだ。
拐ったって言ってたからこの近くの家に居そうだが、闇雲に探しても……と思っていたらアカリは迷うことなく一軒の小さな家に向かい歩いていく。僕も何かを言うことなくアカリに着いていく。
「居た」
なぜ分かったのか気になるが、聞いても多分理解出来そうにないから聞くのは止めておこう。
玄関の扉は鍵がかかっておらず簡単に開いたが、玄関先に紫音が倒れていた。
「紫音姉さん!」
姉の側に駆け寄り抱きかかえると、寝息が聞こえてきた。
どうやら寝かされて運ばれただけのようで、怪我は何処にも見当たらない。
「無事で良かった」
あまり笑う顔を見たことがないアカリが少し微笑みながら紫音を見つめている。
その後念の為、回復魔法を使える人に来てもらい魔法をかけてもらったが異常はなかったそうだ。
紫音を起こしてから寝惚けて道路で寝ていた事にするという大胆な嘘で騙すと、恥ずかしいと顔を両手で塞ぎながら走って帰って行った。
僕とアカリも帰路に着く為2人徒歩で夕焼けに染まる住宅街を歩く。
「そういえば気になったんだけど、閑静な住宅街とはいえ人はいるだろ?なんで誰も出てこなかったんだ?」
流石に人気が少ないとはいえ、住宅がある以上そこに住む人達は少なからず居る。
なのに、あれだけ大騒ぎしていたのにも関わらず
誰も出てこなかった。
「魔族が人払いの結界を張っていたから」
淡々と答えるアカリ。
「でも魔族って凶悪な存在なんだろ?人払いの結界を使うなんて変な話だな」
聞いてる話だと魔族は人を襲い、殺す。
それなのに人払いする意味が分からない。
「魔族はこっちの世界では目立ちたくない。目立てばこっちの世界の武力とぶつかる事になる。」
「魔族は強いんだから軍なんて役に立たないだろ」
「もちろん魔族が勝つ、けど消耗はする。
そこに私達と出会ったら消耗した魔族は討伐される危険性がある。」
なるほど、魔族も考えて行動をするみたいだ。
いくら強くても生物である以上は疲労も溜まるし魔力も体力も消耗する。
無敵なんて言葉は生ある者には似合わない言葉だな。
「じゃあこの世界の武力を総力戦でぶつければリンドールって魔神も簡単に倒せるんじゃないか?」
「カナタ、魔神は次元が違う。私達では逆立ちしても勝てないし、魔族にすら勝てない武力はあっても邪魔になるだけ。」
酷い言われようだがその通りだ。アカリみたいな強者であっても勝てないと言われる魔神は相当な強さを誇るんだろう。僕には想像できないが。
また2人無言で歩き続ける。
「そういえば、アカリはなんで護衛を引き受けたんだ?」
上からの命令とはいえ、自由がほとんどなくなってしまう護衛は正直いってなんのうまみもない。
「なんとなく」
まあそんな答えが返ってくる気はしてたよ。
聞いただけ無駄だった。
「カナタはなんで」
続きの言葉を紡ごうとしたアカリを遮るように声が掛けられる。
「あれ!彼方君!なになにデート!?」
茜さんだ。買い物帰りのような格好をしているが、この近くに住んでいるのかもしれない。
「お久しぶりです、茜さん。ちなみに彼女は友達ですよ」
「ええー?ほんとにー?こんな可愛い子と二人で歩いてデート以外あり得なくない?」
あり得なくない。確かにそう見える。
「アカリ」
一言呟く。茜にも聞こてたようで同じように自己紹介を返す。
「私は茜。斎藤茜っていうの。アカリちゃんは彼方君とどういう関係なの?」
「護衛」
おい、正直に言いすぎだろう。
茜さんも返答に困っているじゃないか。
仕方ない、ここは僕がフォローしたほうが良さそうだ。
「あはは、この子ちょっと変わってて。面白い奴なんですけどね。」
「みたいね。でも彼方君と仲は良さそうね!あ、早く帰らないとドラマ始まっちゃう!またねー!」
言いたいことだけ伝えたら走っていく茜さん。
背中が見えなくなると少しムッとした顔でアカリが僕の顔を覗き込む。
「ちょっと変わってるって何」
「あ、いや言葉の綾だよ。友達として面白い子って意味だよ」
「ふーん」
機嫌を直したのか、それとも友達と呼んだ事が気に入ったのか鼻歌まで歌い出す始末。
とにかくうまく誤魔化せて良かった。アカリは自分が少し変わっている自覚はないようだから。
そういえば、茜さんに遭う前に何か言いかけてなかったか?
「アカリ、さっき僕になんて言おうとしてたんだ?」
「んー、まあいいや。また今度聞く」
煮え切らない返事だが、ホントに大した事ない内容だったのだろう。
とりあえず早く家に帰って風呂に入りたい。
魔力を大きく消耗したから足も震えるし、息切れも激しい。
家に帰り姉さんにアカリを紹介すると、茜さんと似たようなリアクションを取ってくる。
「おいおい!弟くーん!こーんな可愛い彼女どこで見つけたんだい!」
さっきと同じような問答を繰り返し、落ち着いた所でアカリをこの家に居させてもいいか聞いてみた。
「いいよー!こんな可愛い子なら大歓迎!でも家出とかじゃないよね?」
「私一応成人してる」
「ならオッケー!部屋は余ってるしどこ使ってもいいよ!」
えらく姉さんに気に入られたようで、ご飯中もずっとアカリに話しかけていた。
アカリも姉が出来た気分になり、機嫌は良さそうな表情をしている。
アカリは一人旅行でこの近辺に来た事にしており、当分の間は僕らの家で世話になるように話は纏まった。
風呂に入り一息つくと走馬灯のように頭の中で今まで起きた非日常の映像が流れてくる。
最近、あまり良くない事が周りで起きすぎている気がするがこれもあの夢と関係があるんだろうか。
4年前から毎日見るあの悪夢と……
アカリは与えられた部屋で、電気もつけずに瞑想しながら一人呟く。
「カナタに聞けなかったな。明日は聞こう。気になるし。」
……カナタはなんで異世界と現世を繋ごうとしているの?……
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