もしもあの日に戻れたのなら
プリン伯爵
プロローグ
2044年4月9日。あの日、平和な世界は一変した。
降り注ぐ隕石、崩れる高層ビル、燃え盛る住宅街、焼け爛れた道路を闊歩する異形な生物。
空が割れ轟音が耳を劈く。無事な人を探すほうが難しいくらいだ。
「助けて!!足が!!!」「なんだよこの化け物は!!うわぁぁぁ!」「痛いよぉ……」
あちらこちらで、声が聞こえる。
僕は手を差し伸べる事もせず、そんな声を聞き流し目的地へと足を進める。
横を見れば黒髪の女性が悲しそうな目で周囲を見渡す呟く。
「何人死んだんだろうな……」
そんな呟きも聞き流し、歩き続ける。もう望みはあそこにしか残されていない。
何もかもが昨日の風景とは違う。
何処を見渡しても阿鼻叫喚。
もう、元には戻れない。
全ての元凶である僕には、ただ静観するほかなかった、、、
2043年9月2日。
光が丘科学大学4回生、城ヶ崎
僕は近未来科学科に所属し、文明の発展に役立つ知識や技術を学んでいる。
難しい事をしているように聞こえるが、ただ時代の最先端を知りたいから、なんて単純な動機で入っただけだ。
昔は空飛ぶ車なんて物は出来たばかりで運用には至ってなかったみたいだが、今じゃ何処を見上げても車が飛んでいる。
ちなみに僕は免許がないから乗ったことがない。
両親は高校生の時に事故で亡くなったが姉と二人暮らしでなんとかやっていけてる。
ただそんな姉もそろそろ弟離れしてほしいんだけどな、、、
「カナター!ちょっと来てー!」
ご近所さんに聞こえるほどの大声で2階の自室から僕を呼んでいるのは社会人2年目でアパレルショップで働いている城ヶ崎
「姉さん、そんなに大声出さなくても聞こえるよ」
階段を登り紫音の部屋の前で溜息をつきながら声を掛ける。
「この服どう?似合う?」
いきなり扉が開いたと思ったら、恐らく買ったばかりであろう服を身体に合わせながら僕に問う。「姉さんなら何を着ても似合うでしょ、、、」
自分の姉の事を良いように言うのも変な話だが、身内贔屓なしに見ても姉はかなりの美人。
街を歩いて声を掛けられない日がないと本人は言っていたがあながち間違いではないだろう。
「今日はカナタの大事な日でしょ!その為にいい服買ってきたんだから!!」
そう、今日は僕にとって大事な日だ。
1年前、論文を披露する場で[異次元空間への渡り方]の題目で論文を発表した。
もちろん最初は笑われたり冗談を言う場所ではないと怒られたりもしたが、論文の中身はしっかりした物であり、立証できるかもしれないと著名な科学者や研究者が目を付けたらしい。
そして今日、詳細に[異次元空間への渡り方]を説明してほしいと場を設けられたというわけだ。
自分で言うのもあれだが僕は、天才の1人として数えられてもいいんじゃないか、ってくらいには知識が豊富にある。
姉さんは弟の晴れの舞台となる発表の場に、それなりの格好をして行きたいってところだろう。
「それにしてもまさかカナタがそこまで頭がよかったなんて」
「勉強をしっかりして、覚えたことを忘れなければ誰でも僕と同じレベルになれるよ」
「それが出来れば誰も苦労しないでしょうが!」
正直に言って姉さんはアホだ。
学生時代、単位を落としかけて泣きそうな顔で帰ってきた日もあったくらいだ。
「とりあえずその服似合ってるから早く支度してよ、そろそろ出ないとバスに乗り遅れるから」
家からバスで15分も揺られれば目的地まで到着できる程度の距離だが、姉さんは準備に時間がかかる。
「先玄関に行ってて!着替えたらすぐ行くから!」
そう言うと扉を閉め、僕も身なりを整えつつ玄関に向かう。
さあ、全世界に僕の偉業を伝えてやろう。
異世界に行く方法ってやつを。
嬉しさと緊張に押し潰されそうな自分を奮い立たせる為にそう言い聞かせて玄関の扉を開けた。
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