第4話 極めたい学と術とのマッサージ
マッサージルームはいつも満員だが、たまにお客さんが途切れるときがある。
そんな時、お互いにマッサージし合う。
私は西さんにマッサージをしてもらいながら、ツボの位置や力加減を学ぶ。
癒やされるひとときだ。
いい気持ちになってよだれが出そうになるのをぐっと我慢していた時、二人のマッサージ師のおばちゃんが入ってきた。
二人は犬猿の仲だと聞いている。
「あんた、私のお客さんに私の悪口言うたやろ」
「言うてへんわ」
「嘘つかんとき。あのお客さんがあんたを指名したんがその証拠や」
「取られる方が悪いわ」
「腹立つ!」
「やるんか」
と二人は髪の毛をつかむ取っ組み合いになった。
私はガバっとベッドから起きて二人の間に入った。
「大変でしたねえ、伊丹先生」
と先輩の岩城先生が声をかけてくれた。
岩城先生は整体学校を卒業して、臨床経験を積むために、この健康ランドで働いている。
「マッサージの勉強もせんとあかんし、おばちゃんたちの喧嘩まで止めなあかんなんて」
「ありがとうございます。派遣先のリボーン東京から主任やってくれという条件で入社したんで仕方ないんですよ」
「それにしても壮絶な取っ組み合いでしたね」
「見て下さい、間に入った勢いで顔に爪痕つきましたよ」
「男前が台無しですね」
と冗談まじり労ってくれる岩城先生。
「たくさん人の体を触って経験を積み、早く整体院を開業したいんですわ」
と言う岩城先生の優しさが身にしみた一日だった。
「私はたくさんの人の体を触りたいのでこの健康ランドでマッサージをしていますが、はっきり言って“慰安”です。治療ではありません」
岩城先生は言う。
「気持ち良いだけで、どんどん強揉みに慣れて筋肉が固くなっていきます」
なるほどな…そういえばカチカチの筋肉の人が多いなと私は思った。
「私が求めるのは治療ですから、どうしたら筋肉を固くせずに健康になれるかです。なので足で人を踏んだりしたら逆効果だと言う事だけでも学べたのは良かったと思います。この職場でたくさん経験させてもらった事に感謝しています。そろそろ開業に向けてやめようと思ってるんですよ」
という岩城先生の言葉に「お別れなのか」と私は切なくなった。
「慰安のマッサージが悪いと言っているわけではありません。ただ私の目指す方向は治療のマッサージがしたいと言うことです」
と岩城先生は大きなビジョンを語った。
「私も治療がしたいです」
「伊丹先生もそうですか」
「はい、治るマッサージがいいです」
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