「僕のお顔をお食べ」と言いながら無理やりねじ込む系スライムに転生しました。

サプライズ

第0章

第1話

「どこかにうまいものでも落ちてないかな」


空腹を抱える俺の独り言に、森の中の魔物が鳴き声で答えた。


ギィァァァァァァォ!


おぞましい悲鳴のような鳴き声。


どこかの魔物がまた別の魔物に食べられていく声。


森の中では常に誰かが誰かを食べている。


つまり答えは


「自分で取れってことね」


一人で納得して森の中を歩いて行く。




いきなりだが、俺はスライムとして異世界転生した。


ぷるぷるの肌質に、パチリとした目、半透明の体。


まごうことなきスライムだ。


スライムといって思い浮かべる魔物はドロドロ派ともっちり派の2種類のスライムがある。


俺の姿形はもっちり派で、もっと言うと『ぷるぷる、悪いスライムではないよ』の方のスライムだ。


勇者とかが仲間にしてくれないかな。


「しかし転生した先がスライム、スライムかぁ…」


異世界転生というのは知っていたが、まさか自分に起きるものとは思わなかったし、さらにはスライムに転生するとは思わなかった。


他にも候補はあっただろうに。

なぜにスライム。


悪役貴族とかそこら辺のモブでも何でもよかったんだが。


せめて人間、最低でも二足歩行する生き物が良かった。


なぜに軟体生物、しかも無限軌道を描きそうなよくわからない生物に転生したんだろう。


「はぁ…」


ひとまず転生した先がアメーバのような第一印象最悪なドロドロスライムではないということを喜ぶべきだろうか。


それともゲームの中ではほぼ最弱の種族であるということを悲しむべきだろうか。


「ま、種族ガチャは当たりってことにしとこう」


生まれたことは喜ぶべき。

それが古今東西にある習わし。


生まれを呪うような人生を送るよりかは、祝うような人生を送った方がいいに決まってる。


それに、俺には前世の記憶がほとんどない。


前世というのがあったのは覚えているし、そこで人生を送ったことも覚えている。


だが人生そのものついては覚えていない。


何と言うかゲームの設定資料集だけ渡されて単語や設定などは知っているが、中身については何も知らされていないような状態。


それが今の俺を説明するのにふさわしいかもしれない。


心の外側だけが固められ、中身には何もない。


そんな状態だ。


だから前世が人間でありスライムになったことによって、できないことが増えたことを嘆くというのは薄かった。





あぁ、心の中に何もないと言ったが、実は不思議と心の中に残っていた言葉があった。


『出されたものは残さず頂く』


…。


文字の上っ面だけをなぞれば、物持ちのよさそうな人の言葉だが、印象としては強欲な人間が言いそうな言葉だ。


ひょっとしたら前世は遠慮という言葉を知らないろくな人間じゃなかったのかもしれない。


なるほど。だからこんな全身で食べ物を吸収できる種族に生まれ変わったのかな。


それなら納得だ。


「ちょっと悩んだけれど、スライムに転生したの天性だったってわけか」


転生だけに。





…こほん。


まあそれはいいや。


自分の出自に関して悩むのはここまで。


なぜスライムに転生したかなんて考えてもわからんだろうし、原因があったとしても俺がそれを知る機会はおそらくないだろう。


前世でもなぜ人間に生まれたのかなんて考える奴ってほとんどいなかっただろうし、なぜその家その国その性別に生まれたのかがわかることなんてなかった。


物語じゃあるまいし、それらが分かったとしても詐欺師が適当にほざいた言葉を心の悩みに当てはまるようにつなげたというだけだ。


だから気にしても仕方がない。




そんなことよりも食事だ。


生まれた時からお腹が空いて空いて仕方がなかった。


スライムというのはとかく空腹の種族なのかもしれない。


「うーん…。 微妙だな」


それで俺はスライムの体をポヨポヨと引きずりながら、森の中を歩いて見つけたものを片っ端から食べている。


モシャモシャモシャモシャ。


体内に含んだそれを噛むような感覚でじわりじわりと溶かしていく。


何を食べているかって?

 

森の中に落ちていた虫の死骸だ。


ここら辺にはそこら中に餌が落ちている。




今歩いている場所は生命力豊かな森。


全身に鱗を生やした狼が他の獲物をペロリと平らげ、遠くでゴブリンの卑屈で卑怯な鳴き声が響き、そのゴブリンたちを叩き潰したオークたちのガキ大将のような雄叫びを聞く。


さらに遠くでは寝起きのドラゴンが、寝ぼけた顔を洗うために空に火を吹き雨を降らしていた。


生命力が非常に豊かで、豊かすぎてカオスとなっているこの森。


そんな森だからスライムが食べることには全くもって困らない場所だった。


今も森の中を散歩がてら歩いて行くと、目の前に死骸が向こうからやってきたものだから、それをパクリと食べただけだ。


それだけで俺の腹はわずかに膨れる。


次から次へと食べ物が落ちているが、昔から口の中に何かを突っ込んでいないと気が済まないたちだったので問題ない。


ここはスライムにとっては天国だ。あるいは、ひょっとしたらここは本当に天国なのかもしれない。


食べて溶かし終わった虫をゴクリと飲み込む。


俺が食べたものは虫の死骸以外にも、文字通りの道草を食べたり、枯葉を食べたり、クッキーを食べたりもした。


道草には薬草のようなものやしびれ薬や毒草もあったが全て平らげた。


もしゃもしゃもしゃもしゃ。


ごっくん。


ふぅ。これで今日45度目の食事を終えたかな。


さて次の飯は何だろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る