狂人と変人

結城 優希

狂人と変人

 「私、北岳に登ってから人生観変わったんだよね。二番目の山であってもこんなにも美しいんだなと思ったんだ。たしかに世の中では一番ばかりが取り沙汰される。でもそうじゃないって気付けた。二番目でもいいんだって思えたの。」と私の友人である宇宙は言った。


 彼女は北岳に登って帰ってきたあの日から様子がおかしい。元々おかしな様子の娘ではあったけどここまでではなかった。見てて面白いから日々の言動をレポートにまとめていたけど前はもっと天然っぽい変人さだった。


 そりゃ生きてりゃ何かのきっかけで考え方が多少変わることもあるだろうしそれが山頂の景色というのも何らおかしなことではないと私も思う。ただ、私はどうしても思ってしまうのだ。いくらなんでも変わりすぎであろうと。そもそもお前滑落して死にかけてんだから価値観変わるならそっちでは!?と思うのだ。


 それなのにあいつはあんなのかすり傷だよ。ちょっと腫れちゃったくらいかな?冷やせば治ったし余裕だよ余裕。あろうことかまた北岳に登りたいとか言ってたし……。そもそもあいつはほんとに宇宙なの?山で何かに乗っ取られたんじゃ……。


 もしかしてバレてることに気付いたら殺される!?その日から私の命懸けの日々が始まった。北岳を話題に出さないのは当然のこと、宇宙の変化について聞かれたら元々変な娘だったからそんな時もあるんじゃない?とお茶を濁して何とか一瞬たりとも気を抜かずに生き抜いて1年が経ったある日。また彼女の性格が変わった。


 やっぱり北岳になんかいるって!きっと人型汎用決戦兵器 人造人間 soraにされて操縦されてるんだ!え?私も北岳に登りに行かないかって?絶対楽しい?人生観が変わる?もうヤダ!なんなの!?うわぁーん私も殺されるんだァ〜!


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 私、宇宙の友人の畸人は狂人だった。それも自分はまともだと勘違いしているタイプの。まともっていうのは私みたいなタイプだというのに。


 と、ここまでがこの肉体の元の主の記憶だ。勘違いしないで欲しいのだが別に僕は彼女を殺してなどいない。元々今後の作戦の都合上着陸は高い山が望ましく、それでいてあまり目立たない山が良かった。


 日本が担当である僕は同じ県内に一番の山があればこちらで何かあっても注目されにくいだろうという安易な考えでこの北岳に着陸をした。そこでたまたま死にかけていたのが彼女という訳だ。僕は彼女に生きれたとしても残り短い時間だと伝えた上で生きる意思があるかと僕が彼女を生かす条件を伝えて了承を得ている。


 僕の星の技術で無理やり延命をした。この星の生き物は脆すぎる。すぐに拒否反応を起こして崩れる。難儀な身体だなぁ。肉体を完全に治すことも出来なくはないがそれをすると彼女の精神がもたない。面倒ではあるがこれしか方法はなかった。


 あ、憲法がどうとか法律がどうとか野暮なことは言うなよ?僕は地球外生命体、所謂宇宙人だよ?この国はおろかこの銀河にも縛られることの無い僕がそんなものに配慮する必要なんてあるわけないじゃないか。彼女自身の了承も得た上での対等な契約だしね。


 とまぁこんな感じのなんやかんやがあったが彼女は知人との最後の時間を過ごした後に魂の輪廻に戻っていった。そこからが大忙しだった。そういう約束とはいえあいつが遠慮もしないで長居しやがるせいで肉体が崩壊寸前。1年は長いだろが!1年は!タダ働きになるところだった。次会ったら殺しはしないがシバく。それにしてもやはり類友というやつか。こいつも友人の方も両方頭おかしいだろ。


 あと、いつ殺されるかビクビクしてるのも不本意極まりないよね。宇宙人をなんだと思ってるんだか……。彼女の中身が僕という宇宙人って気付ける当たり勘はいいと思うんだけど。まぁただオカルト好きなだけか。普通に彼女自身の時も宇宙人に成り代わられてるって疑ってたっぽいし。ただのアホか。まぁデスゲームに参加してると勘違いしてる奴を見るのは面白いし良いか。警戒するまでもないな。


 依代なんてそんなに必要ないし近いところに二体もいらないというのに……自意識過剰ってやつだよね。使うとしたら洗脳してだから殺すわけないじゃないか。そう君も思わないか?見てるんだろ?いや、別にそれを咎めるつもりはないさ。だけど……邪魔するなら、わかるよね?

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