SS置き場(不定期更新)

ひよこ

お題:星、アイス 45分  『君の空』

君に言っても信じてくれないだろうけど、空って食べられるんだよ。



、、、いきなり言われただけじゃ分かんないだろうから見せてあげるよ。僕が空を食べるところ。少し待てる?もう少し暗くなった時が食べ頃だからね。


それじゃ食べ頃になるまでちょっと話そうよ。ふふっ、めんどくさそうな顔してるね。まあ妄想だと思ってくれていいからさ聞くだけ聞いてよ僕の話。




まずはなんだろ、空の味…とか?

朝6時くらいはシュワシュワしてるんだよ。サイダアみたいな炭酸じゃなくて、元気な舌の上でお魚がぴちぴちしてるみたいな感じ。匂いが特徴的で、今の季節は土と雨が混じり合ったところにグレープフルーツジュースをひと匙入れたみたいな匂い。人によってはあんまり好きじゃないかもね。僕?僕は結構好きだよ。二度寝の次の次の次くらいには好きかな。


そういえばどうやって食べるか話してないね、話してあげよう。



アイス屋さんにアイスを掬うスプーンがあるだろう?あれのもっと長あいので掬うんだよ。すうううってやってからよいしょって。全身を使って掬うんだ。その時の力の入れ具合で食感が変わるからね、気をつけないと。

僕は85%くらいの力で掬った時の硬さが1番好みだなあ。ええっと、なんだっけ?ジェラート?いや違う。そう!シャーベットだ!ガリガリ君をぐちゃぐちゃにしたみたいな食感。

そういえばアイスクリームだったら何が好き?僕は期間限定って書いてあったら絶対買っちゃうな。うん。絶対美味しくないだろみたいな味でも買っちゃう。


前、抹茶トリュフのキャラメルナッツがけってのを買ったけど意外と美味しかった。美味しかった、というかトリュフの匂いがする抹茶アイスみたいな。

なんかそうやって言うと美味しくなさそうだな…

でもなぜか奇跡的にマリアージュしてたよ。



なんの話してたっけ?ああ、空の味の話か。

次は、お昼!太陽が燦々と輝く12時くらいの空!

一言で言うと混沌ってやつだね。


口の中に入れた瞬間スイカの皮とその間の白い部分みたいな味がして、その次によく乾いた砂の匂いがして、大量にガムシロップを入れたコーヒー牛乳の味がしてから口の中で暴れ回っていきなり溶けてどこかに行く。

本当に意味がわからないね。


日によっては全く味がなくて、口に入れた瞬間綿飴みたいに溶けたりする。

何言ってるか分かんないって顔してるね。僕も分かんないよ。



次は、、、4時くらい?学校の授業が終わって電車に揺られてるくらいの時間。

これはなんか懐かしい味がする。おばあちゃんの家で出される名もなきお菓子みたいな。あのカラフルで、すっごく硬いゼリーと角砂糖混ぜたみたいな味してるやつとか。あれしょっちゅう出されるけどなんなんだろうね?まあなんでもいっか。



最後は今くらいの時間だね。真夜中に差し掛かった冷たい時間。

夜の空は格別に美味しいんだ。特によく晴れた三日月の日なんかは最高に美味しい。




、、、うーん、ちょっと月が大きめだからこってりしてるね。

土星がいい感じにスパイシー。

やっぱり寒くなってくると星が美味しい。

金平糖って結構星の特徴掴んだ味してる。後味が特に似てる。

僕みたいに空を食べられる人が作ったのかな。


今日の空を表現するなら、溶けかけているアイスクリームに金平糖と甘いチョコソースをかけてシナモンと生姜、レモングラスをトッピングしたみたいな感じ。


よくわからない?いやでも本当にそんな味してるんだもん。食べてみたらわかるって。ちょっとだけ食べてみる?やだ?そっかあ。残念だ。

また機会があったら一緒に食べたいな。


ふう。お腹もいっぱいになったし寝ようかな。


やっぱ空っていいよね。

食べても食べてもいっぱいあるし、毎日味違うから飽きないし。

別に食べなくても見た目が綺麗だから、見るだけで幸せだ。





そういえば1番美味しい空はね、瞳に映る空なんだ。







特に君みたいな人生に絶望して濁ってしまった瞳に映る、色褪せてしまった空。


食べちゃダメかなあ?


食べてもいい?



お願い、ちょーっとだけだから!


その黒目に浮かんでる星のかけらだけでいいからさ、食べさせてよ。




え、本当にいいの?本当に?何があっても僕知らないよ?


もしかしたら僕が悪い人で、ちょっとだけって言いながら全部食べちゃうかもしれないよ?いいの?




そう。


じゃあいただきます。












            **********






あの晩から、私の目には夜の光が映らない。

夜空を見上げても、星は見えない。

ただ飲み込まれそうなくらいの、大きい闇と雲があるだけ。



星のない夜空は思っていたより暗かった。


でも光のない空は、どこまでも澄んでいてとても綺麗に感じた。




彼は今どうしているのだろう。


「オーロラが食べたい!」とか言っていたし、北極とかに行ってるのかな。


彼に次あったら私の空を食べて欲しい。ふとそう思った。


でも彼は絶望した瞳に映る空が好きって言っていたから、多分今の空は食べてくれないんだろうな。



そんな気がする。


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