メガネを外した魔法少女がまともに戦えるワケないだろ

雑な薬草

弱視の魔法少女たち

プロローグ:やはり創作において、メガネは記号でしかないのか

 ガキの頃から疑問だった。


 どうして多くの作品において、メガネを外すという行為が、本気を出したことを表す描写として定着しているのだろうかと。


 だってどう考えたっておかしいじゃないか。

視力が低いからメガネかけて矯正してんだろ。

じゃあ敵と戦うっていう重要な局面でそれ外しちゃダメじゃん。

折角メガネっ娘ってキャラが立ってたのに、それ外しちゃったらその辺の量産型アニメ顔少女と顔一緒じゃん!!

個性を大事にしろよ個性を!!!!


──失礼、思いっきり私怨が出てしまった。


 さて、どうして急にこんなワケのわからないことを語り始めたのかというと、まさに今、俺の尊厳を破壊し得る事象が眼前で起ころうとしているからである。

 

 こんなもんアニメやゲームの中でしか起こり得ないと思っていたし、まさか現実こんな場面に遭遇することになってしまうとは思ってもみなかったが、なるほど、"事実は小説より奇なり"とはよく言ったものだ。


(畜生…やっぱりお前も──)


 目の前に立っているのは、地味系図書委員の理想形を体現したかのような佇まいの少女。


 三つ編みされた漆黒の長髪は派手さこそないものの、遠目からも明らかな髪質の良さと丁寧な編み込みから、育ちの良さが伺える。


 銀縁フレームで囲われた分厚いレンズの奥のクリクリとした瞳は、不安とか恐怖とか、そういう負の感情で揺れているように見える。


 まさに理想的なメガネっ娘。マジで結婚してほしい。

 

 制服を見るに、俺と同じ高校の生徒らしい。リボンの色的に1年生だろうか。

こんな逸材を今この時まで見逃していたとは…メガネっ娘好きとして一生の恥ってもんだ。


「もう大丈夫ですよ、私が守りますから…。」


 これでもかというほど猫背で、内股で、鞄を持つ手は震えていて──

全然守ってくれなさそうな感じですごく可愛いのだが、問題は彼女が行おうとしている行為だ。


 彼女の右肩の上で白いウサギみたいな奴がぺちゃくちゃと何かを語っているようなのだが、そんなこと今はどうだっていい。


 ついでに言うと、俺は今なんか魔王っぽい奴に襲われてて、足を挫いてたり顔から血が出てたりで実は結構ピンチなのだが、そんなことも今は全くもってどうだっていい。


「やっぱりまだ、少し恥ずかしいけれど…行きます。」


 彼女がそう呟くのと同時に、日の光に照らされ銀色に輝くフレームに、彼女のか細い指がかけられる。


 直後、眩い光によって彼女の姿は隠されてしまったのだが、あの予備動作から繰り出されるアクションなんて、1つしかない。


 俺がこの世で最も疑問を持っていて、かつ最も忌むべきものだと考えている──


(外すのかよ、メガネ。)

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