第27話 カーテンコール
「三枚っ!?」
二人で踊った後、舞台裏でフェイスベールの下に何故もう一枚フェイスベールがあったのか関口さんに聞いたところ、予想のしてなかった答えが返ってきた。
「うん。峰先生が激しく踊る上で取れたり捲れたりしたら大変だから、三枚重ねにして着けてなさいって言われててね」
関口さんは、水曜日に送られた時の箱の中にはこのフェイスベールが三枚入っていたと言う。
「おかげで、あのスポットライトの中でも透けて見えなかったでしょ?」
「それはっ…なるほど、そういうことか…」
峰先生が関口さんへフェイスベールを送った日、何故あんなにもヒラヒラとした布一枚を信頼していられるのかが疑問だった。
しかし、最初から一枚では無かったのだ。
だがそうなると一つ疑問が湧いてきた。
「あれっ…?最初から三枚着けてたの?水曜に初めて着けたのを見た時はそんな感じしなかったんだけど…」
複数枚重ねればどこかで気付きそうなものだが、俺は最後まで重ねて着けていたことを気づかなかったのだろうか。
「実は私も、最初は一枚だけ着けるもので残りは予備なのかなって思ってたの」
顔に着けた二枚のうち一枚をヒラヒラと手で揺らして彼女は言った。
「だからあの日、斑目くんにお披露目する時は一枚だけ着けてたんだけど、あの後峰先生に言われて三枚着けるようにしたの」
「そうだったのか…」
あの時の保険とはこういうことだったのか。
「ていうか、本番であれだけ私の顔を見てたのに気づかなかったの?」
関口さんは、ジト〜っとした目で覗いてくる。
「いや…なんていうか、顔ってよりかは目を見てたし離れたタイミングはドレスを見てたから、緊張してたのもあって気付けなかったんだよ…」
「そういうものか…」
「そういうものってことで…」
そう言って、俺達は体育館から出て更衣室のある旧体育館へ向かった。
「あっそうだ、関口さん」
「なに?」
「これから…着替えた後でさ、一緒に屋台巡らない?」
朝比奈さんから言われたことを思い出し、関口さんに誘いをかけた。
「いいよ」
なんだか意外なほどあっさりオーケーが貰えた。
「本当!?」
「一人で回るのも退屈だしね、せっかくだし付き合うよ」
「ありがとう…あっ俺、財布教室にあるから取ってきて良い?」
「もちろん、朝比奈さんにも顔見せたいし私も行くよ」
その後、俺達は制服に着替え教室に向かった。
「なんだか久しぶりだなぁ…」
「そんなに緊張しなくても平気だと思うよ?」
そう言いながら俺は引き戸を開けた。しかし教室に入ると、クラスにいた二十人ほどの視線が集中したのを感じた。
「…え、あの?」
そのうちの何人かが俺達二人に近づいてくる。
しかし、彼らの目当ては俺達二人ではなく関口さん単体だったらしい。
たちまちに彼女は取り囲まれ、俺ははじき出される。
「舞台良かったよ、関口さん!」
「凄かったね、あんなに踊れたんだ!」
「私ラストシーン凄い感動しちゃった!」
「えっ…あの…ちょっ…」
何が起きてるのかわからず、財布だけ取り出し遠くで様子を見ていた朝比奈さんに声をかける。
「朝比奈さん…これって…?」
「お疲れ〜、良かったよ」
「いやそれよりも…なんでこんなに人数が…」
朝比奈さんが舞台を見ていたのはわかる。関口さんが踊る姿を、誰よりも楽しみにしていたのは知っているからだ。
だがクラスの大多数が先程の舞台を見ており、かつ終わった直後に教室へ戻ってきたことになる。
「なんでこんな人数が…」
「あぁ、アレよ」
そう言った朝比奈さんは、クラスのテレビを指さした。
テレビが映していたそれは、俺の高校の制服を着ていたバンドが演奏する場面だった。
「体育館で発表されるパフォーマンスは、各クラスのテレビに中継されてるのよ」
「えっ、なにそれ?」
「私は体育館で見たんだけどね、聞いてなかったの?書道のパフォーマンスが始まる前に校内放送でアナウンスされてたけど」
「多分俺達、ステージ袖にいて聞けてなかったと思う…」
「あぁ…まぁそんなに大きな放送じゃなかったからね、体育館の中もざわざわしてたし」
体育館の壁越しや観客の声で、本来届いていた放送が遮られていたのだろう。
「あんた達二人、二番手だったからね。他のクラスの屋台に行ってた子も、クラスメイトが出るって言うんで結構な人数が教室に戻ってきてるらしいわよ」
関口さんは今も尚大勢に取り囲まれている。スキャンダルを起こした芸能人のようだ。
「そんなに…良かった…?」
正直、あれは失敗以外の何物でもなかった。
拍手は起きたが、ここまで称賛されるものだとはどうしても思えなかった。
「うん、面白かったわよ。最後にマネキンが意思を持って舞に抱きつくところは特にね」
「…え?」
「変な演出だな?とは思ったけど、斑目くんの迫真の演技が光ってたよ。なんであの輪の中に入ってないのか不思議なくらい」
どうやら、あのハプニングは演出の一つとして捉えられた様だった。
「それよりも…ま〜い!」
朝比奈さんの大声に関口さんはもちろん、取り囲んでいたクラスメイトも俺達の方を向いた。
「ほっ…!」
「あっちょっ…!?」
朝比奈さんはいつの間にか俺の後ろに周り込み、俺の背中を関口さんの方へ押し出した。
「なにを…」
「ほらっ……一緒に屋台巡るんでしょ?」
「…!」
関口さんの周りは、取り囲まれていた時よりもいくらかスペースが空いたように見えた。
俺は周りのクラスメイトの間を通り抜け、先程の舞台でしたように関口さんの手をとった。
「行こう…」
「あっ…うん…!」
教室から廊下に飛び出し、しばらく走った。
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