ねぇねぇ、神様、

雛星のえ

零話:トウコ

 トウコはごく普通の村娘であった。

 五人兄妹の三番目、次女として生まれ育ったどこにでもいるような農家の娘。近所に住む、七つ年上の男性とも婚約が決まっていた。

 特別な何かがあるわけじゃなかったけれど、家族や婚約者、そして同じ村の人々と過ごす平凡な毎日が愛おしくて仕方なかった。

 そんな日々に変化が訪れたのは、私が十五歳を迎えようとしていた頃のことだった。

 村に雨が降らない。作物が育たない。

 このままでは、飢饉が発生するのも時間の問題であろう。

 雨乞いをするにあたって必要だった生け贄。成人したての若い娘を、村から選任する必要があったのだ。

 この村における成人年齢は、十五歳。

 ……私は、運悪くもその対象に選ばれてしまった。いや、選ばされた――と言った方が正しいか。あらぬ疑いをかけられ、婚約者を一人の女に取られた後、贄として生きたまま湖の底へ沈むことになった。

 ……正直、怖かった。どうして私がこんな目に遭うのだろうって、どうして私が殺されないといけないのだろう、って。

 けれど、奇跡が起きた――、と、そう考えていいのかな。

 目が覚めたら知らない場所にいた。死んだかと思えば、そうでもないらしい。

 私を見つめていたのは、黒髪に赤い目が特徴的な美しい男性。彼こそが神様だった。

 神様は存外優しい人で、私のことを、最期のその瞬間までずっとずっと愛してくれていた。

 出会い方は最悪だったけれど、叶うことならば、私はずっとずっと、この人と……――。

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