第9話 旅の再開
魔族を討伐したため街では大規模な宴が開催された。私も当然参加するイベントだ。同室の4人で出店の美味しいものを食べて回ったり、ちょっぴりお酒も飲んだりもした。
「お酒はもっと大人になってからの方が美味しいかな」
「そうだね、はいお水」
私は少し呑んだらすぐに酔ってしまったので少し静かなところでアリスと休んでいた。クルーやマネスは酒場で呑み勝負している。
「あの2人はすごいね」
「まぁ、あれほとんどアルコール入ってないけどね」
「私が呑んだのは?」
「普通のお酒だね」
決めた、これからお酒は程々にしよう。
夜風にあたって気分を落ち着かせているとふと暗い方へグレンが歩いていくのが見えた。
そういえばグレンとまだ話してなかったな。
私はグレンのあとをついてとある広場までやってきた。
「いいところだろ。気分が引き締まる」
「気づいてたんですか」
「当たり前だろ、俺を舐めるなよ」
近くの芝生に座ってこちらを手招きしているので隣に座った。
「んで、なんで俺がここに来ているのを知ってたんだ?」
この質問の言い訳をたくさん考えたけど結局素直に答えるしか思いつかなかった。信じてもらえるかは言ってから考えようか。
「花が教えてくれたんですよ」
「花?...くくく...はははは! お前もっとマシな言い訳なかったのかよ! 傑作だわこれ!」
「あ〜、信じてないですね」
「当たり前だって言いたいとこだけど半分くらいは信じてる」
「それでも半分...」
「今日のあれを見せられたらなんだかな」
ケラケラと笑うグレンはいつもとは違って無邪気な子供のようでとても愛らしい感じだ。騎士としてではなく今ここには人間としてのグレンがいる。
グレンとある程度話していると突然グレンが真剣な面持ちで私に問いかける。
「ユウキ、まだ旅は続けるのか?」
「そうですね。魔族も討伐してここの脅威は去りましたからね」
グレンは私の返答を聞いて「そうか」と少し残念な声で呟く。そして続けてまた話す。
「お前はもう立派な魔法使いだ。これからの旅でお前の望むものは得られないと...俺は思う。それならここで俺達と一緒に...」
「すみません、それは出来ません」
私はグレンが言い切る前に言い放った。
まだまだお師さまの足元にも及ばない私だからこれからもっと沢山の見識を広げないといけない。
「私はお師さまの隣に立ちたいのです」
「そうか...わかった! それで、いつここを出るつもりだ?」
「明日です」
「へ?...明日?」
すごく素っ頓狂な声が出てきた。グレンもすごく驚いているし、流石に早すぎたかな?
「別に...そんなに急いでるわけじゃないし明後日でも〜」
「わかったよ、明日だな」
「あっちょ」
グレンは立ち上がると戻ってしまった。
女の子を1人置いていくなんて、後でルーシーに怒られても知らないよ。
さてと、私も明るい夜の街に戻るとしますか。
外はどんちゃん騒ぎなのに宿屋はちゃんと人がいて営業していることに驚きを感じる。律儀な子ね。
魔獣の攻撃が収まって魔族が倒された後は1度姿を消して騎士団との対面を避けたが帰るのも面倒なので私とイアスここに泊まることにした。
「あの、部屋を2つ借りれるかしら?」
「はい、10
「ん? じゅうごーるど?」
「はい、10Gです」
しッ、知らない! いつの間にか通貨が変わっているのだけど! 私今40
「すみません。今手持ちが5Gしかないの、1部屋で頼むわ」
「ちょっと! 勝手に変えないでもらえます?」
「じゃあ野宿でもします? メリスにそんなことが出来るの?」
「仕方ないわね! 今回だけよ!」
部屋の鍵を1つ渡されて案内された部屋に入る。
一人部屋なので2人じゃと思ったけど部屋自体はそこまで狭くなくて快適に過ごせそう。だが問題は...ベッドが1つしかない。当然1人用、2人で寝るには狭いというか...私の心臓がもたない。
「当然、2人では寝れそうにないわね。メリスが使っていいわよ。私はそこの椅子で寝るから」
「なっ! なんで!」
「ん? 別に私は椅子でも寝れるから」
「なんなのそれ! 貴方は私の事が嫌いなはずでしょう! それなのになんで! そんなところが私は大...!」
「だい?」
「大......だい....」
私は今何を言おうとしている? 何か大変なことを口走りそうな気がする。体が熱い、身体中の魔力がものすごい速さで駆け巡ってる。
「あなた顔が赤いわよ。疲れているのよ、シャワー浴びて寝なさい」
「はぃ...」
勧められるがままシャワールームに入る。1人になって落ち着く。そうよ、あとはベッドで寝るだけよ。何を慌てているの? 無心となって寝るだけなのに。
着替えてシャワーから出るとイアスが椅子に座って首を上下に動かしていた。
「イアスさん、空きましたよ」
「んあ、そうなの? ありがとう」
ふにゃふにゃな声で返事をして立ち上がるとフラフラとシャワーを浴びに行った。
大丈夫かな?
ちょっと様子を見てみよ、別にこれは覗きではない! 心配だから様子を見るだけ、それだけ...
「はぁ〜、イアスさんの生肌〜」
なかなか見られない貴重なシーンだ。私の瞳の魔法でちゃんと焼き付けとかないと。
「何してるの?」
「え?」
バッチリと目が合った。あっこれ死んだ、確実に殺される! まぁ死ねないけど。
「あんたもしかして...」
あぁ、いわないで!すごく心にくるから!
「シャワーちゃんと浴びてないの? ちゃんと浴びないとダメよ。ほらこっち来なさい」
は?(思考停止).....
「ほら、ちゃんとシャワー浴びて。体あっためないと」
は〜(思考停止)
「体もちゃんと洗ってね」
は〜(思考停止)
「はい、おしまい。お疲れ様」
「はい、お疲れ様でした」
何が起こった? 私何された?
状況が理解できないまま私はベッドで眠ってしまった。
翌朝
まぶたの上に光を感じて目を覚ます。寝起きの頭が段々と覚醒していき昨日のことが鮮明に思い出されて私は再び布団に包まる。
夢じゃなかった! どうしよこれ!
「んあ〜、よく寝たわ。いい夢も見たし。でも結構リアルだったようなも気がするけど」
イアスも起きたようだ。椅子でよく寝れたな。
「メリス、ほら起きて」
「起きてます」
この人昨日あんなことしたのになんで変わらないんだ? しかもなんか上機嫌だし。 はっまさか! イアスも私と同じ...!
(あんなリアルなユウキと一緒にお風呂入る夢を見るなんてね。近くにいるからかしら)
とまぁ、この2人の進展はまだなさそうです。
頑張れメリス
いつも通りの時間に目が覚めて準備を進める。
「あれ? 今日は3人とも居ない」
最後に挨拶をしようと思ったが仕方ない。机に手紙を置いておこう。
荷物をまとめて部屋を出る前にこの部屋に別れを告げる。
「さようなら。短い間ありがとうね」
私のベッドにはここに来てから買ったものとかが置いてある。旅には必要ないし、私のお金で買ってないからみんなに返そうと思う。でもみんなで作ったブレスレットだけは持っていかせてもらうよ。
「やけに静かね」
廊下を歩いていると騎士団が異様に静かだ、みんな昨日の作戦で疲れているのかな?
騎士団の玄関まで来て扉に手をかけると
「よっ!待ってたぜ」
「グレン、見送りしてくれるのですか?」
「俺だけじゃあない。まぁ外に出てみろよ」
グレンに言われたように外に出るとそこには騎士団の皆さんとこの国の人々が待っていた。
あまりの光景に困惑していると団長がきた。
「間に合ってよかった」
「驚いたよ! ユウキちゃんもう行っちゃうんだから!」
「ルーシーさん、すみません」
「謝らないで、ただもう少しお話したかったなって思っただけだから」
ルーシーと話しているとコホンと団長が話し始めた。
「ユウキ騎士、君はまだ階級をもらってないだろう? 本来なら入団試験を見て決めるのだが君は特殊だったからな。でも今回の作戦の活躍などを加味して君の階級を決めた」
「いえ、別に私は騎士団の人間じゃ...」
「そんな訳ないだろう。この国を命を賭して守ったんだ。誰がなんと言おうと君はこの国の騎士だ。あとこれはお礼だと思って受け取ってくれ」
「まぁ、そう言うなら」
私が了承すると団長はニコッと笑って姿勢を正して。
「ユウキ騎士、貴殿は先の作戦にて非常に我が国に貢献してくれた。よって1級魔法使いの位と名誉騎士の称号を与える」
そう言ってバッチを取り出してきた。
私がただ立っていると横からグレンに教えられた
「1歩前に出てそのバッチを付けてもらうんだよ」
言われた通りに前に出るとバッチが付けられてそこらじゅうから歓声があがった。
「本当に感謝する。君がいなかったらどうなっていたことか」
「いえいえ、私だけの成果ではありません。この騎士団がこの国を守ったんですよ」
「そう言ってくれると嬉しいな。それでは元気でな」
「団長もお元気で」
握手を交わして別れを告げる。
「ユウキちゃんまたね! 今度買い物とか行こうね!」
「はい、約束ですよルーシー」
指切りで次の約束をして別れを告げる
「これからどこに行くんだ?」
「とりあえず中王都に行こうかと」
「そうか、まぁいつでも帰ってこい。ここはいつでもお前の居場所だからな」
「ありがとうグレン。また今度試合しましょうね」
拳を突きつけ合わせて未来の挑戦を宣言して別れを告げる。
「ユウキちゃん、今度会ったらまたどこか行こうね! 絶対だよ」
「そうだぜユウキ、次会うときは私達も成長してお前のナイスバディに負けねぇくらいデカくなってやるからな!」
「その願望はあんただけでしょ」
良かった最後に話せないと思ったけど話せた。
話せなかったらちょっと未練残ったからね。
「うん、行こうね。それと、この前買って貰ったやつ、みんなに返すよ。今度は私もお金稼いでちゃんと平等な状態で買いに行こう」
「別に、気にしなくてもいいのに。わかった預かっておくよ」
「いいか、預かるんだよ。だからあれはお前のものなのは変わらないからな」
「旅が終わってゆっくりできるようになったら渡すね」
「ありがとうみんな!」
お互いの思い出の自作ブレスレットを前に出して再開の約束をして別れを告げる。
今度はさよならじゃない。また会うための言葉。
「またね!みんな!」
もう春は終わりかけだというのに私の歩く道は様々な花で埋め尽くされてこれから私がたどる道をはっきり示してくれる。
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