春旅
雨百合
第1話 春を見に行く
ここは異世界
今、私たちが生きる世界に似ているけれども何かが違う世界。科学の世界、超能力の世界、自然の世界...
そして魔法の世界
魔法、それは人の理解が及ばない領域
魔法、それは人を惑わす力
魔法、それは争いを導く
魔法、それは...
「お師さま、ただいま戻りました」
森の奥にある小さな家
日課の魔法の練習も終えて私はそこに帰ってきた。
「おかえりなさい。疲れたでしょう?お昼ご飯にしましょうか」
扉を開けると一人の魔女が湯気がたっている鍋を持ってリビングから顔を出す。
この人が私の魔法の先生の『イアス』記憶の魔女だ
身寄りのない私をこの家で住まわせてくれている
「ところで魔法の鍛錬はどう?辛くない?何か身体に異常があったらすぐに言うのよ」
ちょっと過保護な所もあるかな?けど私の尊敬する先生で命の恩人と同じくらい感謝もしている
「大丈夫ですよお師さま」
「ほんとう?ユウキは無茶ばかりするから私心配よ」
「それより!早く固有魔法を教えてよ!」
「それはあなたにはまだ早いしそもそも固有魔法は教えて貰って習得するものではないですよ」
私も18才になるのにまるで子供のように扱ってくるのはやめて欲しい。
今日だって魔獣に遭遇したけど隠密魔法で気付かれずに帰れたって言いたいけどそれを言うと森の奥の方へ行ったことがバレるのでやめておこう
「それでは、これを食べ終わったら街まで下りますよ」
「何故ですか?」
人混みを嫌うイアスからの提案に疑問を感じて理由を聞いてしまった。買い出しなら私一人でこれまで行ってきたから今更その付き添いな訳が無い。
「春を見に行こうかなって」
「春...ですか」
なんとも抽象的な回答がきたがあの人が街に行きたいならそれに従うしかないと思い、食器を片付けて下りる準備をする。
いつもの服にローブを被ってフードで顔を隠す。別に隠す必要がある訳でもないが隠したいらしい。買い出しの時はそんなもの付けてないけど。
深い森を抜けると1つの街があった
通りはお店で賑わっていて活気が溢れている。ただ今日はいつもよりも活気づいているような気がしなくもない
「なんでしょう?何やら騒がしいです」
「そうね。はぐれないようにちゃんと手を繋いでいてね」
イアスに手を引かれてたどり着いたのは街の広場、いつもなら真ん中の噴水に何人かが座っているだけの場所だが今日は違うようで普段は無い店が並んで椅子やテーブルが置かれてたくさんの人が笑いながらお酒を飲んでいる。その光景を見て私はその場から動けずにただ見惚れていた。
「その様子だとあなた一度も来たことなかったのね。どう?楽しい?」
「はいお師さま!」
「この街では桜が満開になると盛大にここでお酒を飲み交わすのよ」
確かにここの広場に植えられている桜は満開で街を華やかに彩って春の柔らかさを街に与えている。
「少し遊んできなさい。私はここで待ってるから」
そう言うとイアスは近くの椅子に座ってお酒を持ってきてもらっていた。
「お師さま、飲みすぎないでくださいね」
「わかってますよ」
一応注意をしてから私は活気の中へ足を踏み入れた
そこにはいつもとは違う世界のようで様々な魔法が溢れかえっていて皆楽しそうだ。私も気分が高揚して歩く速度も自然と速くなっていっていた。
「そこのお嬢さん」
突然声をかけられて振り返ると知らない男が2人がそこにいた。
「君可愛いね!顔が隠れてても雰囲気が可愛いもん。だからさ少しだけそのフードをとってくれない?」
別にいつも隠している訳じゃないしとってもいいよね
フードをとって顔を見せると男達は歓声をあげて私の顔を見てくる。そして以前私を見た事あるようで色々と聞いてきた
「君あれだよね。いつも一人でここに買い物にきてる」
「そうですね」
「なんで今日は顔を隠してるの?」
「それはお師さまが...」
「あら、あなた達何か用ですか?」
私が言い切らないうちにイアスが隣から男達に話しかけていた。そしてイアスの体内の魔力も男達に話しかけているようであった。
男達は何も言わずにずっと立っていたが少ししたら何してたんだっけと言いながら去っていった。
「やはり人間は...いや今は違うでしょ。帰りましょうか」
「えっでも」
「帰りましょう」
2度も言われたら逆らえずに私は大人しく帰った。
後ろから感じる熱気を背中で受けながら
翌日
私はいつも通りに日課の魔法の練習をしていた。
汎用魔法の物体浮遊や五大属性の創生魔法など基本的な魔法をマスター出来るようにしている。しかし今日は全然集中出来ていなかった。何をしても昨日の風景が頭の隅にある。特に街を彩っていた桜が目に焼き付いたままで全然離れてくれない。
「ちゃんとしないと」
結局あまり集中出来ないまま今日の練習は終わった
いつもよりも疲労が溜まっている気がする
「お師さま、ただいま戻りました」
「おかえり...って!?どうしたのよそれ!」
「え?」
イアスが持っていた鍋を落として急いで駆け寄ってくるのに驚いて尻もちをついてしまった。
イアスは私の顔や身体を触って何か呟いている。
「これは?汎用の魔法でこんなものはないはず...水と土属性魔法の作用?でも...」
「あの〜お師さま?どうしたんです?」
イアスを見ようとして自分の身体を見ると身体に桜がついていて帰ってくる時に身体についたのだと思ったが花弁1枚がついているのではなくどちらかと言うと咲いているという表現の方が正しかった
「なっ、なんなのこれー!」
驚きで少し暴れてしまいイアスにいい右ストレートが入ってしまった。
「いてて...それはおそらく固有魔法ね。まさかユウキが習得するとは思わなかったわ」
「これが固有魔法?」
「そうよ。でも今は制御が出来ていないから未完成だけどね」
「制御出来るようになるには?」
「魔女になればいいのよ」
魔女、それは魔力で生きる人間
魔力で生きるため人間よりも長い時を生きる人間
人間という枠組みから外れた人間
魔力と生きる魔法使いとは一線を画す人間
「魔女に...私が...」
「他にも方法はあるわ。その固有魔法を捨てなさい。そうすればあなたは魔法使いになれるわ」
私は...私は一体どうしたいのだろう?
やっと手に入れた固有魔法は手放したくないが私が魔女になれる自信もない。
私が思い悩んでいると何かを察したようにイアスが私の肩に手を置いてゆっくり話しかけてきた。
「今すぐ決める必要はないけど時間がある訳でもない。だからこれから決めるのよ。この世界を歩いて回って魔力と生きるのか魔力で生きるのか」
その後のことはあまり覚えていないがとりあえず魔法の暴走は落ち着いて数日が経過した
「お師さま、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
旅支度を終えて遂に旅立ちの時がきた。あまり長い旅にはならないと思うがこの旅で私がどう生きるか見つけにいく。
桜舞い散る道を歩いて私の知らない世界へ
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