第21話

由香里は、予告通り二十一時すぎに電話をかけてきた。

『さっきは用件も聞かずに一方的に喋っちゃってごめんね』

と、由香里は開口一番謝ってきた。

 ほんの少し寂しさが和らいだ気がした。

「ううん、特に用事があったわけじゃないの。ユカちゃんと話したくなって」

『そうなの?何かあった?何でも聞くよ。あたし、サッちゃんはもうとっくにリクくんと幸せにやってるもんだと思ってた。だって、あたしがリクくんにサッちゃんの住所教えたのって結構前だよ。ほら、出産祝い送ってくれたじゃん。あたし、その段ボールに貼ってある伝票見ながらサッちゃんの住所伝えたんだもん』

「え、そうなの?」

 お祝いを贈ったのは七月の中旬だったから、三か月前くらい前のことだ。

 さっき由香里が食いついたのは、陸がわたしのところにすぐに会いに行っていなかったことに驚いたからだったのだ。

『リクくん、いきなりうちの実家に来たらしくてさ』

 少しトーンを落として、由香里は陸から連絡が来た時のことを話し始めた。

『平日だったから、家に兄ちゃんしかいなかったみたいで。母親がいたらもう質問攻めに遭って大変だっただろうね。リクくんのこと大好きだったから』

 脱線したことを自覚したのか、『まあそれはいいけど』と話を戻した。

『それでね、あたしの連絡先を兄ちゃんから聞き出して、あたしに電話をかけてきたの。何かめちゃくちゃ急いでて、あたしがいろいろ訊こうとしたの全部スルーで、サチの住所を教えろってそれしか言わなくて。しょうがないから教えてあげたら、すぐ切れちゃって。電話番号とかは要らなかったのかなって不思議だったけど、もう、今すぐにでもサッちゃんのとこに行こうとしてるのかなって。そのくらいの勢いだったからさ』

 由香里は一気にそこまで話して、やっと言葉を切った。

「何ですぐに会いに来なかったんだろう」

 束の間生まれた空白に、そう呟いた。

 忙しかったのだとしても、手紙くらいくれても良かったはずだ。

『まあでも、良かったじゃん。会えたんだったら』

 由香里が、軽い調子で宥めてくる。

『リクくんのことずっと待ってたんでしょ。あ、それともサッちゃん、もしかして付き合ってる人いるとか?あたしと話したかったのって、それ?』

 その勘違いを否定した。

「ううん、待ってたよ。りっくんに会えて嬉しかった」

『だったら良かったじゃん』

 由香里はそう言ってくれたけど、やっぱり何となく興味がなさそうに聞こえる。

『リクくんって今何してんの?』

 続けてそう尋ねてきた。

「お医者さんになったみたい」

『ふーん。医者の奥さんって大変そう。いつ結婚すんの?』

 随分と気が早い。

「そんな話は全然。りっくん、すぐ帰っちゃったから」

『帰った?どういうこと?一回しか会ってないわけ?喧嘩でもした?』

 また食いついてくる。

 由香里に話そうか少し迷った。でも、誰かに聞いてほしいという気持ちが抑えられなかった。

「喧嘩はしてないんだけど、全然喋れなかったんだ」

 そう前置きをして、台風の日のことを由香里に話した。

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