序章

第2話

近江の国は 、琵琶湖を中心として四方を山岳がとりまいている 。


比良山地 、野坂山地 、伊吹山地 、鈴鹿山地である 。



さらに地域的には京の表玄関であり 、上方の東の出入口にあたるため 、古来 、いくつもの歴史の盛衰を目前にながめてきた 。



そればかりでなく 、近江において源平の合戦をはじめ 、歴史を大きくうごかした戦いの数々がくりひろげられてきた 。


琵琶湖は陽を浴びてキラキラ、光っている。


むせ返るような暑さの中、琵琶湖畔の今浜に槌音つちおとが響いている。



新しい城普請が行われていた。



1573年、織田軍は近江の小谷城を攻略し浅井久政長政父子を自害に追い込んだ。



姉川の戦い以来、三年余りにおよんだ浅井との戦いの事実上の責任者を務めていたのは木下藤吉郎で浅井氏討伐の功により、浅井氏の旧領である江北ごうほくの三都の坂田、浅井、伊香十二万石を信長から与えられていた。




藤吉郎はいったん小谷城に入ったものの、信長に許可をもらい居城を琵琶湖の畔の今浜へ移すことにした。



築城が始まったのは1574年の六月からで藤吉郎は町作りもはじめていた。



今浜は北国街道があり、琵琶湖の舟運の重要な地であり、鉄砲産地の村もある重要な土地だった。


普請の進み具合を見るのが佐吉の楽しみの一つだった。



特等席に座っている少年がいた。




佐吉は思い切って話しかけてみた。




「おぬしも城の普請を見に来ているのか?そこの場所は俺の場所だ」




「それはすまんな」



振り向く少年は同じ年頃ようだが、体格はしっかりとしている。

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