第19話
ドッと疲れて、ぐったりしながらリビングに行くと、父親がソファーで寛いでいた。私に気づいて、「おう」と手を挙げてくる。テレビでサッカーの試合をやっているようだ。
「エリカちゃん何の用だったの?」
呑気にテレビを見ていたのかと思うと腹が立って、声が尖った。
「ああ、今月分の金払うの待ってくれっつったらよぉ、待てねぇっつうからよぉ、ユメの部屋にあった十万、渡しといたぞぉ」
「……は?」
耳を疑った。
「え、嘘でしょ?」
確かに、机の引き出しに十万円の現金が入った封筒を置いていた。でも、それはおばあちゃんが私に持たせてくれたお金だった。困ったらいつでも戻っておいでと、そう言って。
「嘘じゃねぇよぉ。引き出しに入ってたからよぉ」
「だからって、何で勝手に盗るわけ!?」
自分が馬鹿だったのだと思った。お母さんがこの人にお金や物を盗られて怒ったり悲しんでいる姿を何度も見てきたのに、さすがに娘のものは盗らないだろうと甘く考えていた。
「怒るなよぉ」
こちらの怒りを逆撫でするようなトーンで父親が言う。これも何度も聞いた。その度にお母さんが逆上していたのを思い出して、私はかえって冷静になった。
「しょうがねぇだろぉ。エリカがよぉ、金がなくてレンヤに食わせるもんも着せるもんもねえっつーからよぉ。可哀想だろぉ」
可哀想というのが、父親の行動原理なのだ。
「あげちゃったものはもういいけど、お金はお父さんが返して」
怒りを押し殺して、淡々とそう要求した。
「いやぁ、そんなこと言ったって俺ぇ、金ねえからよぉ。お前ぇ、金持ってんだろぉ」
悪いことをしたという意識は全くないようだ。
「ユメが帰ってくるっつーからよぉ、家のクリーニングとかぁ、マットレス買ったりぃ、うまいもん買ってよぉ、金使っちまったんだよぉ」
「頼んでないよ、そんなこと。お父さんが勝手にやったんじゃん!」
冷静を保つのは無理だった。
「親の愛情をそんなふうに言うことないだろぉ」
「そんなの愛情じゃないから。ただの自己満足だよ。わたしは何にも嬉しくない。二度としないで」
そう一方的に怒鳴りつけて、二階に駆け上がって自分の部屋に閉じこもった。
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