第13話

「不思議」

 女の頬を涙が伝った。

「始まりは分からなかったのに、今はこんなに苦しい」

 この子の俺を好きな気持ちは、一時の気の迷いだ。

「しばらく腫れるかもしんないけど、すぐに治まるから」

 そうやって、俺のことも、きれいさっぱり忘れてしまえばいい。


「先生」

 寝室に注射用の保護パッドを取りに行った俺が戻った時、女はもう泣いていなかった。

「次はちゃんと病院でお金払うから、来年また先生のところに、予防接種を受けに行ってもいいですか?」

 まっすぐで、痛いくらいキラキラした瞳で、彼女は俺に言った。

「私、もっと大人になって、先生に振り向いてもらえるように努力します」

 もう十分魅力的だよ。

 そんな本音を隠して、俺は小さく頷いた。

「ああ。俺が院長の孫の注射を失敗してどこかに飛ばされてなきゃな」

 俺はきっと、柄にもなくこの子を待ち続けるだろう。そんな予感がする。


 注射したところに保護パットを貼って、親指でそっと撫でた。

 変な菌が入らないように、ほんの、おまじないだ。

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