第2話

「愛香さん、ハロウィンのケーキ、どれにしますか?」

 子供の腕をアルコールで消毒していると、女がチラシを持ってきて子供に話しかけた。気を逸らそうとしてくれているらしい。

 ありがたく便乗して、子供がチラシを覗きこんでいる間に注射を終わらせた。

「偉かったねえ、アイちゃん。じいじが何でも好きなもの買ってあげるからねえ」

 院長に大げさに褒められて、子供はキョトンとしている。打たれたことにも気づいていないようだ。


 とりあえず成功だな、と胸を撫で下ろした。

 ただ、子供は二回接種が原則だ。三週間後にもう一度打ちに来なきゃいけないかと思うと、今から気が重い。


「お疲れさまです」

 孫娘の馬をしている院長をなるべく視界に入れないようにしながら片付けていると、女が声をかけてきた。

「ああ、ありがとなチラシ。助かった」

 その時初めて女の顔を正面から見た。

 まだハタチそこそこのようだ。エプロンをつけているから家政婦なのだろうけど、それにしては随分若い。

「あんたも若いのに大変だな」

 何の気もなくそう言ったら、女は目を見開いて、口元を引き攣らせるみたいに笑った。


『お前に何が分かるんだ』


 顔にそう書いてあるようで、その勝ち気な表情は、俺のストライクゾーンど真ん中だった。

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