第12話 タローの道のはじまり

「さて、無駄話はそろそろお終いかな。君のこともだいぶ分かった気がしてよかったよ。」

「はぁ。」


 というかそれが目的だったんだろう。いきなり平民に話す内容ではなかった、なにか自分に疑惑があったか。


「あんまり地位なんかは考えなくていい。それに私は実力があれば多少はなんでもいいと思ってるからね。」

「それは、どうもありがとうございます。」


 本当に魔法を使ってないんだろうか、先ほどの話からしてこれは魔法を使ってないらしいが、明らかに頭の中を覗かれてる気がする。妖怪か?


「それより今後の話をしようか。君は信頼できるように思えたことだ。」

「えっと、外国に行く話ですか?」

「そうだね、それ以外の全体も含めての国外の話だ。君には多くの部分で関わってもらう。」


 鍛冶師なんですが、という話はもういいだろう。


「君の大きな仕事は2つだろう。1つは外国との話し合い、君には今回の龍との争いについて、その手がある程度の証明になる。国外との交流なんて今までなかったからどうなるかわからないがね。」

「あの、気になってたんですが、今までの交流はどんなものだったんですか?」

「ブリッドのことかな?マーキル―家の仕事を聞いていたのか。」

「はい。」


 知ったことはそんな国があることと、閉鎖的なことだけ。手紙を届けているとメルーラさんは言っていたが具体的になにをしていたのかは知れない。


「本当になにもないな。先代もずっと、情報の交換をと色々と送っていたんだが私の代でも変わらずだ。」

「なるほど。」

「正直期待は薄いかもね。門前払いになる可能性もある。だがひとつ言えることはあの国は魔法のレベルは高い。」

「と言いますと?」

「少し長くなるよ?」


 ブリッドは、この国アレウスより、大体一月くらいはかかる場所にあるらしい。見つけたのはかなり前の王の時、国外調査隊が発見したらしい。

 早速使者を送ったが門前払いになった。次は手紙を受け取られたものの送ったが返事は貰えず。とうとう強硬手段で潜入を試みたがすぐにブリッドの記憶だけを失くして帰ってきた。その後は謝罪の手紙を送ったが返事は来ず。あとは手紙を送るだけの関係らしい。


「タローは魔法についてどのくらい詳しい。」

「えっと、基礎的な部分と、あとは鍛冶に関わるものなら。」

「そうか、なら単純に言うと魔法は魔力での自然のコントロールだと思ってくれ。」

「はい。」

「例えば火を出す、簡単だ火をコントロールするイメージだ。魔力を火に置き換え大きくする。」


 言ってることはわかる。要は魔力は万能物質的なものである。


「身体強化も言ってしまえば筋力の増強に近い。それで身体を強化する。」

「イメージ的にはわかります、僕もやってますから。」

「では記憶はなにをコントロールする?」


 それは、脳か?でも記憶って脳のなにかと言われるとわからない。


「わからないだろう。つまり、魔法は魔力を充ててコントロールする下地が明確であることは基本だ。」

「確かに。」


 そういえば魔法について深く考えたことがなかった。そこにあるものというか、生まれてから自然すぎてあまり疑問に思わない。


「学問的に正確な説明ではないがね。つまりは、この国では存在していない魔法があるんだ。最低でも基礎部分から大きく逸脱している魔法がある。」

「なるほど、だから期待薄でも協力を求めると。」

「ああ、正直この国のレベルはどの程度なのか私たちもわかっていないんだ。」


 なるほど、ここら辺の国外関係は本当に前世とは違いすてわからいものだ。


「だが龍の口ぶりからして、この国が世界で劣っているということにはならないだろう。最低でも見つかる範囲は比べ物になるくらいの国だ。」

「まあそうなんでしょうかね。」


 確かに、自分の作った武器を褒められてはいたんだしそういう風にも考えられる。


「だから、他の国も探させる予定だ。各々の長所を出し合えば少しでも強くなれるだろうしね。」


 異論のない考えである。国が後いくつあるかはわからないが、単純に強い国も見つかるかもしれない。


「では、もう1つの仕事は?」


 最初に2つ仕事があると言っていた。こっちは元々予告されていたことだからわかるがもう1つとはなんなんのだろうか。


「言ってしまえば武器、君の本職だ。」

「ああ、たしかに。」


 完全に頭から抜けていた。いや本職なのでやっていなかったわけではないが、そもそもあの龍が興味を持ったのは他でもない、自分の作った武器であったのだ。


「武器というと、作成ですか?」

「ああ、と言っても君1人で作るわけじゃない。君の技術は必要だが、軍単位で相手取るのに全員分を君が作れるわけないしね。」


 それはそうだ。それにむしろ、単純な技術ならこの国には自分に並ぶ人は他にいる。これから超えてくるだろう人もいるだろう。


「それについては君の父に頼ろうかと思っている。」

「なるほど……父ってやっぱすごかったんですね。」

「知らなかったのか?」


 恥ずかしながら父の話は本当に外で聞いていないことを伝えると、王様は父について自分のことのように話してくれた。

 実は王家に剣を納めたことがあることや、若いときは国一番を自称して大きな仕事をしていたことなど、子供の知り得ぬ親の話を色々としてくれた。どうりで王様に名前を覚えてもらっているものだ。


「いい親をもったな。」

「ええ、ありがとうございます。」


 ここまで大きい存在だとは思っていなかった。しかし父を褒められるのは嬉しいものだ。


「で君についてだが、国外で並行して技術の習得をしてきてほしい。」

「はい。」


 簡単な話だった。国外に行くことが必須の状況。そしてどうせ未知の国にいくなら未知の技術も国に持ってこいという話である。器用が長所な自分にはぴったりの話である。


「あとは、古代の遺物だね。」


 古代の遺物、ケルカさんが話していたものか。たしかに今の人類が各地に散らばる前はあるはずなのだからありそうなものではある。


「神話の時代の人間の武器というやつだ。あるかは、わからない。だが神話と呼ばれている時代があったのは事実だ。」


 表情を見る限り確証がありそうなである。


「王家の口伝にもあるが、龍の言葉を信じるなら大陸の真ん中の方もしくは地下になにかあるのだろう。」


 大陸の真ん中はわかるが地下とはなんだろうか。沈んだ文明か、それとも地下都市があるのだろうか。


「あとは、魔石の発見。直接関係はないがそのうち君にも関わってくるだろう。」

「魔石の手掛かりですか?」

「ああ、大きそうなのがいればな。」


 魔石には2種類ある、魔物から取れるものと自然に取れる物の2つだ。大きな違いはない、だが見つけやすさが違う。

 自然のものは魔力がよりある場所に純度の低いものが沢山。魔物は核となる部分に魔物がある。そしてその純度と大きさは大きい魔物から出やすい。つまりいい魔石は大きい魔物を探すのが手っ取り早い。


「とりあえず、アルトールのところには働いて貰うことになる。そして冒険者も大量に動かすことになる、魔石探しだけじゃなくなるわけだ。」


 冒険者は基本魔石を採取っするのが主な仕事だ。魔法がインフラの世界と同義の世界には必須である。


「君には国外に出て、国との協力を取り付けながら、大きな魔石の手掛かりとあとは古代の遺物探しを平行してもらう。見つかれればいいくらいのものだがな。」


 都合よく出るとは思えない、寧ろ最低限で今確実な情報を使ってやれることをやらなくてはいけないということだろう。


「わかりました。引き受けさせていただきます。」

「そうか、よかった。」


 王様は国の向こうの遠くを見つめる。


「一応言っておくが、死ぬ危険性もあるんだよ。」

「わかっています。」


 最初から分かっている話だ。戦うことを考えずに生きてきた人間の手から溢れてしまうような仕事であることは想像がつく。


「当然、こちらも最善は尽くす。だが国外は危険ばかりだ。マーキルーの人間を付けても危ない。そもそもあそこには個人としての動き方を求めてきたからね。」


 誰かを外に連れていくのは初めて行くということ、それは大層危険に溢れているだろう。


「結構です、そもそもこれは私が巻き起こした面もありますから。」

「君がか。」


 少し考えたりしていたことがある。自分があの刀を作らなければこんなことにならなかったのではなかったと。頭を抱えて考えた。そして考えるのをやめた。だが話を聞いて思い出した、なら文句を言う気分にはなれない。


「慰めでもないが、神話では人は定期的に滅びの運命があるそうだ。なら速いか遅いかだと私は思うよ。」

「ありがとうございます。」


 王は親のように優しく言葉をかけてくれる。確かに信頼される、最高の人たらしなんだろう。


「まあ、責任感を持つのいいことだ。」

「はい。」


 王がこちらに向かってくる。顔は真剣そのもの、王としての風格を感じる。


「跪け。」

「はい。」


 膝をつけ頭をたれる。流石にこれくらいの作法はしっている。


「アレウス王国、国王アレウス・リールスの名の下に仕事を与える。努力せよ。」

「謹んでお受けいたします。」


 これも鍛冶師としての1つの道だ。ただ父親も歩んだことのない、デカい敵を討つための武器を作る、茨の道である。

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