第9話 まさかの提案

 学校から帰ってしばらくした後、隣の部屋にタッパを返しに向かう。

 インターフォンを鳴らす。よく考えたら、女の子の家のインターフォンを押すとか初めてだ。怒られたりしないよね?

「はーい。」

 といって出てきたのは葵である。


「ごはん、ありがとう。美味かった。タッパ、返す。」


「美味しかったならよかったです。では、はいどうぞ。」


「え?何で?」


 渡されたのは、まだ中が暖かいタッパである。デジャブを感じる。

 中身は見える感じからおそらく、揚げ物系だろう。


「一度でいいから、出来立て食べてみたいよなあ。」


「家に入れて食べさせろと?」


「そんなことは言ってねえ。大体、図々しすぎるだろ。」


 身に覚えのない疑いをかけられたので(正直に言うと、思っているが)、真面目な顔と声を意識して否定する。


「…うーん。……食費折半なら…。」


「いや、冗談だぞ?」


「食費は折半で、あなたの部屋で料理をするなら、考えないでもないです。」


「え?…いや、食費折半は当然の権利だし、何なら人件費までお支払いしたいくらいだが。いいのか?」


「私から言っているのですから、いいに決まっているでしょう。」


「不安とかないのか?男の部屋にあがって。」


「ないと言えば嘘になりますが。あなたは無害そうですし。私の学校での立場を理解されているでしょう?」


「まあ、そんなことしたら、俺が破滅だわな(社会的に)。」


とりあえず、今日のところは冷めてしまう前に揚げ物を食べてほしいとのことで、話はここまでとなった。美味そう。


 今晩の献立

 ・唐揚げ(もらったもの)

 ・コロッケ(もらったもの)

 ・パックのごはん

 ・コーンスープ(インスタント)


 誰だい?やっぱ、お前インスタントばっか食ってんな。とか、言ったやつ!「貰い物以外インスタントじゃねえか。」とか正論パンチしてきたやつ。シバキ回したる。

 美味しいものが目の前に広がっている今の翔には、葵が自分のことを少し気になり始めていることなど、知る由もないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る