『○○○○○』
米津玄師が大好きなエセ小説家
第1話 誰でもいいからヘルプミー
『友達…できない!』
私の名前は今田カナ。
どこにでもいるぼっちの高校一年生。元から人付き合いが苦手なので通信制高校とかに行きたかったんだけど…
「だいじょーぶだって、カナちゃん!私がいっぱい話しかけるから!」
その言葉を信じて、この高校に行った。そんな私にとって唯一の話し相手であるあの子は9組。んで私は1組。神様、私何かしました?
あの子は陽キャだから絶対私が知らない友達と楽しく話してるんだろうな…。
いやさ、話しかけられたら?私も話せる方だと自負してるんだけどね?ずーっと待っててもう3日。
『もう、みんなグループ作ってるんだよなー』
放課後、トイレの個室で一言つぶやく。私だけ取り残されてしまった。このまま不登校で退学?親にどんな顔して言えばいいんだよ!!!!!!
「でさー、あの先生マジやばくない?」
「それな!急に実験でバクハツさせるとか」
うわぁ、クラスメイトだ、この声は。どっちもキレイだし、明るいから、友達とか、もしかしたら彼氏とかいるんだろうな。
「うちらのクラス女子陽キャすぎて草なんだけど」
「あれ、でもなんか一人静かな人いなかった?」
「誰だっけ…まぁそんなことどうでもいいや、でさ!」
…そんなこと、か。どうでもいい、か。
そっか…名前すら覚えられてないんだ。当たり前だよね。だって、一言も喋ってないし。話しかけられたら、とか、私が、甘い考えしてるから…。
…なんか、全部、馬鹿らしくなってきた。
「屋上入れないの、マジ最悪ー」
「私の先輩が言ってたけど、屋上に…」
「屋上に?」
「飛び降り自殺した人の、幽霊がいて、呪い殺されるらしいよー?」
「なにそれー?マジ怖いじゃん!」
ギャーギャー騒ぎながら、足音とともに二人は消えていく。少し考えて、私は個室を出た。
ちょっとくらい、いいよね?
『通行止め…』
鎖で繋がれて、看板の文字がこちらを見る。私のクラスがある階は4階で、その上の階はない。そう、噂の屋上がある。
中学校でも、立入禁止だったな。
不意に酸っぱい好奇心が私を唆らせる。
どうせ死ぬなら、幽霊とかが、存在ごと消してくれたらいいなーとか思いながら鎖をくぐり、階段を1段ずつゆっくり踏んでいく。
『この奥に…?』
屋上へのドアノブを握りしめる。鍵はかかってないみたいだ。
ガチャ、と開閉音がなる。外には、見ても飽きない町並みが広がっている。
『バレないように…』
ゆっくりと、扉を閉める。急に閉めてでかい音がなったらやだからね。
『なんか、拍子抜けだったな』
かれこれ5分くらいだろうか。景色を楽しんだり、遠くの先輩カップルのアツアツチューを見たりしてもメインディッシュである呪い殺してくれる幽霊が来ない。
『このまま帰っても、明日もなんも話せないんだろうな』
飛び降り防止の為の柵から真下を見る。かなりの高さだ。
『もう、やめちゃおっかな』
親からも愛を受けて育ったし、別にこのまま生きれるけど、私なんかが高校生活を楽しむなんて、できなかったのかな?
何かのブログで書いてたな。飛び降り自殺は、痛みは一瞬だって。
死んだこともないくせに、何赤裸々に語ってんだ。
…今、味わえる?
「バキッ」
柵が、壊れた。体制が、崩れた。前かがみに寄りかかってたから、前に倒れるよね。
視界はさっき見た真下だ。今から、私は落ちるんだ。死ぬんだ。ごめんね、お母さん、お父さん。
悲しい。悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい。
…でも、助からない。
「よっ」
『あ?』
誰かがぎゅっと手を掴む。その手はひんやりと冷たくて…
『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ』
心臓がバクバク高鳴る。腰が抜けて、立つことすらできずその場に尻もちをつく。
「危ないよ」
『だ…誰』
そう私に注意したのは、噂の幽霊…なのか?
「自殺とか、危ない」
『え?』
「良くないよ、死んで喜ぶ人なんていない」
『…?』
「見て!これ、浮いてるよ!ほら!すごくね!?」
『え、なんか急にキャラ変わった』
「あぁ!下半身ねぇ!クソが!」
何を言っているんだ?こいつ。…幽霊に「自殺は危ない」、「死んで喜ぶ人はいない」と諭されてしまった。…至極ごもっともだが。
「名前何?」
名前を聞いてきた幽霊は左腕を負傷したまま死んだのか、左腕がない。少々グロテスクだがそれが気にならないほど優しい声と容姿だ。
『い…今田カナです』
「カナ?よろしく」
ふわふわーと浮いて飛びながらこちらによってくる。何やら顔にも傷がある。
『名前は?』
「ごめん…わかんない」
『忘れたってこと?』
「というか…生きてたことがわかんない」
とても誇らしげにフフンと鼻を鳴らしながら語る幽霊。意外と幽霊というのも楽しそうだ。
「じゃあ名前決めてよ」
『え…無茶ぶりすごい』
「一応先輩だからね、年齢は、多分同じだけど」
『幽霊だから…「ユウレイ」とか?』
「流石に嫌だなー?…ひねろうよ、もう少し。あれだよ?カナに赤ちゃんできても『アカチャン』って名付けないでしょ?」
『そうですね…』
「苗字も考えて!」
正直もう少し怖いイメージだったが意外とフレンドリーすぎるなぁと思いながら名前を考える。
『土野カイ、とか?』
「ほほぉ、なぜその名前に?」
『あの…私、ツチノコが好きなんですよ。あのミステリー感というかそれとは裏腹に可愛い見た目のものが多いじゃないですかほらそういう二次創作とかも結構私自分で描いててサイトに載っけたりしててこれとかみます?ちょっとすみません、スマホ出しますねあー待ってなんか回線が』
「オタクみたいな早口!わかった、ツチノコが好きなのは…カイは?どういう意味?」
『普通に「奇怪」の怪ですね』
「やっぱ幽霊だから?」
『いや、私なんかに、こうなんかフレンドリーに話してくれて、変だなーって思って。あと、幽霊なのに、口数多いし』
「…そう」
スマホで時間を確認する。もう4時か。
『じゃあ、帰りますね。自殺はもうしませんね。さよならー。もう、会えないかもですね』
驚いたように、カイはカッと目を見開く。
「え?」
『え?』
首を傾げてこっちをじろりと見る。
「何言ってんの?憑くよ?」
『“つ”くって…取り憑くー、みたいな?』
「また私がいないところで自殺とかするかもしれないじゃん」
あぁん?え?…い、嫌なんだけど。
『いや、大丈夫ですから。 一人でこれから生活しますって』
「いいや、心配。成仏するまでついてくから」
『えええええええええ!』
死を免れた代わりに、なにか大きな荷物を持っていく羽目になったらしい。
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