016 ポメラやらかす 1

 シナリオが崩れるのは想定しているが、想定以上の想定外は起こるもので…


 それが自らのやらかしとなれば、目も当てられない。


 ポメラは、遥希に任されたこの計画が段々と楽しくなってきた。スイーツ無料に

引かれて安請け合いしてしまったと最初こそ後悔したが、自分が知恵を絞って計画

した仕事の結果が人を喜ばす事に繋がり、毎日充実感を得ていた。


 その最たるものが動画だ。みんなが見て楽しんでくれている快感が、楽しみを義

務に変えていった。


 マエラのいいところを引き出したい、マエラの色んな表情をもっと見たい、ポメ

ラの暴走した欲望が向かう先は、マエラ…


 忘れていけなかったのだ、マエラは物語の主人公のような強い精神は持ち合わせ

ていないのである。指の先をナイフで切っただけでも涙が滲む、痛み耐性、恐怖耐

性皆無のちょっと正義感が強い一般人であることを。


 ~~~~~


 レベル上げが終わり、マエラは全能感に満たされていた。


 レベルが上がると身体能力が格段に上がると聞いてはいたが、まるで別人。今な

ら魔道具無しでカシンの村まで行けるかもしれない、冗談抜きで。


 自分なら何でもできる、教会に乗り込んでも負けない自信が湧いてくる。


 打たれ弱いマエラでもそう思ってしまう程、レベルアップの恩恵は凄いのであ

る。


 冷静に考えれば、教会の傘下にあるリビール商会が無償でレベル10にしてくれた

のだ。教会にとっては、レベル10の人間など障害にならないのでは?と結論が出

るはずなのだが、今のマエラは突然得た力に酔っていた。


 それをポメラが見逃すはずがない。


 ~~~~~


 レベル上げが終わった翌日、マエラはポメラに呼び出された。


 場所はマエラが面接をした部屋。マエラが入室するとポメラは既に室内にいて、

着席を促された。


 マエラが対面に座ると、ポメラは前置きもなく、確信を突く言葉を言い放った。


「マエラさん、あなた、教会に敵愾心を持っていますね?」

 マエラの心臓が大きく脈打った。


「これまでマエラさんの行動を監視していて、おそらく教会に強い怒りを感じてい

るのではと思ったのですが?」


 マエラはこのインフォメーションセンターの技術を知れば知る程、対抗出来る自

信がなくなって来ていた。しかし、表立って怪しい態度はしてこなかったのに、な

ぜ疑いをかけられるのか。無意識に態度に出ていまっていたのだろうか…


 いつから疑われていたのか…露呈した理由を探るが、頭の中は動揺で支配されて

いく。


 だが、認めるわけにはいかない。もしかしたら、これは自分を試しているだけな

のかもしれないと、勇気を振り絞って小さな可能性にかける決意をする。


「…いえ、私は教会に敵意を持っていません。なぜそのように思ったのか、証拠を

示して下さい」


 マエラは、ポメラの目を見てそう答えた。


「そうですか、あくまで否定すると…」


 ポメラの声は冷たい。


「…はい、私は一度もそのような態度は見せていませんから」


 マエラはこれまで、自分がリビール商会に入ることになった動機を、人前で一度

も口に出していない確証があった。


 あくまで白を切るマエラに、ポメラが静かに語り掛ける。


「マエラさん、この商会の一番の売りは何であるか忘れたのですか?情報ですよ?

情報を得るためには何を使いますか?」


「聞き込みや、蓄積した知識ですか?」


「何を見当違いのことを言っているのですか。マエラさん、昨日あなたも手に入れ

たでしょう、スキルを。人の心を覗くことができるスキル、そのようなスキルがあ

ると考えないのですか?」


 マエラの顔から血の気が引いた。


「あえて、私の口から言わせないで下さい」


 そう、インフォメーションセンターは情報を扱うのだ、持ち込まれた依頼を白紙

の状態から調べ上げる必要がある。それにはかなりの労力が必要だ、だが、それを

大幅に軽減できるものが教会にはある。スキルという独占してきた知識が。マエラ

一人のことなど、スキルを使えばいとも簡単に調べられるのだ。


「…いつから…ですか?」


「マエラさんが初めてインフォメーションセンターに来たときからです。マエラさ

んの行動には不審な点がありましたので、その人となりを見させてもうために、あ

えて泳がせていました」


 マエラは目の前が暗くなり、しばらく茫然自失となってしまう。


「認めてもらえると、私も無駄なことをしなくて助かるのですが」

 ポメラは、冷淡に告げる。


「…私は…ある目的のために、この商会に入社しました。それで…私はどうなるの

でしょうか?」


 マエラは全てを悟り、解雇などという易しい対応はないと思う一方、死にたくな

い、助かりたいと何度も心の中で繰り返していた。


「このような重要な事実をペラペラと話している時点で理解しているのでは?敵対

者が教会の秘密を知ったら、もちろん命はありませんよね。残念です、まさかこの

手でマエラさんを処分することになるとは。私、マエラさんのこと、結構好きだっ

たんですよ?」


 だが、返ってきた言葉は非情なものであった。


 逃げよう、マエラは一か八かその場からの逃走を試みようと考える。


「逃げようとしても無駄ですよ?マエラさんがドアに手を掛けることはできませ

ん、私の方がドアに辿り着くのが速いという意味ではありませんよ。あなたが椅子

から立ち上がった瞬間、手足が胴体から無くなるということです」


 もう…何もかも終わった…


 マエラの体から力が抜けた。


「このような場合、親類縁者まで処罰するのが通例なのですが…」


 弛緩したマエラの体が、その言葉を聞いて一気に緊張し、ガバッと顔が上がる。


「事前に実家の商会と絶縁してきてよかったですね、マエラさん単独の行動と判明

しているので、実家までは累が及ぶことはありませんから、ご安心下さい」


「ありがとうございます、それだけお約束して頂ければ十分です…」


 マエラは心底安堵して息を吐く。


「はい、約束は必ず守ります」


 そう言いってポメラは席を立ち、マエラの後ろに回った。


 そして、マエラの左肩に手を乗せ、口を右耳に近づけて、

「マエラさんに謝らなければならないことがあります。実は…今までの会話は…全

て嘘なんです」

 と囁いた。


 その言葉にマエラに心に小さな希望が灯り…


「人の思考を読めるわけないでしょうに」


 絶望に落とされた。


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お読み頂きありがとうございます。

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