準備し過ぎたので裏方に回ります ~いにしえ人と新たなる同士~

幼瀬

第一章

001 とある超越者達 1

「ヒト、メライアスが滅亡しそうです」

「なんじゃエライアン…ああ、これは滅亡するな」


「私としては干渉しないことを曲げて助けたいのですが」

「これも自然の摂理とは言え、お主の故郷がこれで無くなってしまうのは本意では

ない。それに怠惰の娘も見殺しにはできまい」


「まだ猶予はありますが、対応策を考えなければ…」

「普通に壊せばいいではないか」


「そうですね、では…」

 と、事の重大さに比べて緊張感のない会話をしている者達の一人である、エライ

アンという名の人物が何かしらの対処をしようとした時であった。


「「ん?」」

 その場にいた二人が、同時に異変に気づく。


「これは看過できぬな、銀河系が消滅するぞ」

「私は地球に行き、対象を隔離空間に退避させます」


「儂は銀河系の安定化を図ろう」

「では、後で合流しましょう」


 惑星滅亡どころではない、銀河系消滅という物騒な内容なのだが、それでも緊迫

感の欠片もない緩んだ空気をその場に残し、二人はその場から消えた。


 そして一分後…


「銀河系の消滅は免れたが、どうする?このままにはしておけぬが、何か案はある

か?」

「彼らは、数奇な運命でこのようなことになってしまいましたからね、これからは

良い人生を送って欲しいところではありますが」

 二人の足元には、銀河系消滅の危機の要因となったと思われる、気を失った人間

が二人横たわっていた。


 ここはエライアンが言っていた隔離空間なのだろうが、ただただ真っ白の空間

で、彼ら以外、何も存在していない。


「お主はそ奴らを目にかけていたからな」

「何を言っているのですか、ヒトも人のことは言えないと思いますが?」

 二人とも、足元の人物達をどこか優し気に見ている。


「それにしても困ったものよ、人の感情程やっかいなものはない」

「それが人が人であることの証のようなものですから」

 何か哲学的な会話になってきている。


「此度も運命だと割り切り、儂らが行動を起こす必要もなかったのだがな」

「しかし、審判の日までは地球が存在していなければならないでしょう?」

 また物騒な単語が出て来た。


 少しくらい切迫感は出してもらいたい。”今日の昼何にする?”的なノリで話すこ

とではないと思う。


「そ奴らが地球に来たことで、このような事態になったのも必然なら、儂らが存在

することも、また必然か」

「救う、救わないを判断できるような存在ではないですからね。ただ、信念に沿っ

て行動するだけです」

 だから、そろそろ…


「わからぬことを楽しむのも生きるのに必要なことだというのに、知ろうとすれば

全てわかるのも困ったものよ」

「何でも思い通りに行くことが良い事ではないですからね」

 そろそろ…哲学から離れましょう。


 そういえば…と、ヒト。


「メライアスの消滅は対処せねばならぬが、内情はどうなのだ?」

「当初の予想通りですね、メライアスは何も変わらなかったですよ。確認しなかっ

たのですか?」


「メライアスはエライアンの担当であろう?儂は知らなくていい事は調べぬぞ。し

かし、ただの口約束とはわかっていたが、呆れるしかないな」

「被支配層も、一部を除いて虐げられている環境から逃れようとする気概もなかっ

たですね」


「儂としては、メライアスを助けることで、本来滅びたであろう悪や、その行動す

る気もない怠惰な者達が命を長らえるのは、ちと気にくわぬな」

「そうですね…」


 エライアンは、暫く考え込み…


「では、こういうのはどうでしょう?私達はメライアスにはもう干渉しないと決め

ましたが、私達以外が干渉するなら問題ないと思うのですが?」

 そう言って説明を始めた。


「問題が全て解決する面白い案ではないか。この二人が地球にいては、またいつ同

じことが起こるかわかったものではないからな」

「それで、桜井さんも一緒でいいですか?」


「何を言っておる、桜井遥希さくらいはるきが主たる話であろうが」

「……」


 いきなり桜井遥希という人物が出て来たが、いったい何者なのだろう。


「なんじゃその目は」

「地球は見ていたんですね」


「あ奴がいなければ、二人を見つけることができなかったではないか、あの二人と

は面識こそなかったが、浅からぬ縁を結んでしまっていたからな。儂にとっても苦

い思い出だったのだ」

「それは、そうですね」

 どうやら桜井遥希は、隔離されている二人と関係があるようだ。


「それに、あ奴は良いぞ。力を持つまでは何もできなかったようだが、力を持って

からの行動が実に儂好みだ。法に触れない仕返しは見事であった。復讐は何も生ま

ないなどという戯言を言わないのが良い。だが人の悪意を軽く見すぎておった、だ

から、このような目に遭うのだ。及第点というところであろう」

「あなたが、それほど褒めるのは珍しいですね」


「儂好みと言ったであろう。力を持っても芯が腐らなかったからな。自分の中の善

悪が明確に分かれているのが好ましい。儂の考えと近いのだよ」

「ヒトの立場と比べるのは違うと思いますが」

 ヒトは一般人と異なる存在であったような言い方である。そもそも話し方が一般

人ではない。


「それ程違いはあるまい、同じ人間だ」

 ヒトはあくまで普通の人と言い張っているが…


 ちなみに、ヒトとエライアンは親友である。エライアンのヒトに対する話し方が

目上に対するものに感じるが、彼は誰に対してもこのような話し方である。


 ~~~~~


「では、その様に進めますが、何か指摘はありますか?」

「お主の思う通りにするがよい。一つ助言をするならば、二人は元々地球にいな

かったことにした方が良いであろう」


「確かにその方が良いですね、地球での存在は消しましょう」

「儂の方でも何かやることがあれば言ってくれ」


 また、さらっととんでもないことを言い出す二人。


「ですが、このことを女性陣が知ったら、除け者にされたと文句を言われそうです

ね」

「あ奴らは自らやると言って攻略をしているのだから、儂らが何をやろうと問題な

い。だが、ルリは儂のことを見ているからな、そろそろ…と言っていたら分体が来

たな」

 彼らには他に女性の仲間が何人かいるようである。彼らの様な存在が何人もいる

ことに恐怖を覚える。さらに、そんな彼女達が何か真剣に取り組んでいるようなの

だが…果たして人類が理解できることなのだろうか。


 そして、その内の一人はヒトを監視しているというが…その人物?がヒトの肩の

上に現れ、

【さくはるは保護すべき人、彼のおかげで美味しい物が食べられるから。これから

もおいしい物をルリに提供してくれるかもしれない】

 と第一声。


「ルリは常に食い気が優先じゃな。そもそも桜井遥希はルリのことを知らぬではな

いか」

「そうですね。それに美味しい物はあそこだけではないでしょうに」

 この二人を呆れさせるルリとは一体…


【ルリは、一番槍とパティスリー シュマン・ドゥ・プランセスとベーカリーハリ

マが一番好き。だから、私と味覚が同じさくはるは保護して当然】

「ルリが言うなら仕方あるまい、身体も私達と同じ体を用意してやればよい」

 言葉の端々から伝わってくる、やんごとなきお人感を隠そうともしないヒトが、

一目置くルリとは一体…


「それはどうなんです?いくらお気に入りでもやりすでは?とは言っても、お二人

からそう言われたら従わない訳にはいきませんからね」

「なんじゃ、その言い方だと力で我を通す尊大な独裁者のようではないか」

【心外、エラインこそ私達が言うのを待っていた】

 ヒトとルリはエライアンに抗議する。


「私も彼には悪い印象はないですよ、むしろ好印象です。ですが、もう少し慎重に

なってはと思うんですよ」

「では、(仮)ではどうだ?力を使い横暴に振舞ったら、元の体に戻せばよい」

【エラインも言うようになった。ならエラインがさくはると話して決めればいい、

ルリはエラインの判断に任せる】

 エライアンの意見を尊重するのだから、ルリとエライアンの仲も良好なのであろ

う。


「体の件はそのように。では、スキルはどうしますか?メライアスの住人と同じよ

うに自動で設定するようにしておきますか?」

【いいものあげて】

 と、間髪を入れずルリが言う。


「そうじゃな、厄介ごとを押し付けるのだ、少しくらい贔屓してもよいだろう」

「ですから、二人とも優遇し過ぎじゃないですか?」

 エライアンが再び二人を諫めるが、


【体はエラインに任せたから、スキルはルリが決める。さくはるにはこれ、後の二

人はこれとこれ】

 とルリが決めてしまった。


「いやいやいや、これはやり過ぎです。イージーモードですよ、これじゃあ」

 エライアンが”それはない”と、突っ込む。


「細かいのー。こちから頼むのだから、少しくらいは良いではないか。なら、ここ

をこうして、こうすればよかろう。これで難易度は上がったであろう」

【言語理解も付けないと】

 ルリ、どさくさに紛れて追加。


「……では、説得してきます」

 エライアンは感じる事のない疲労を伴い、横たわった二人とともに、その場から

消えた。


 ~~~~~


 その後ヒトとルリは、エライアンと桜井遥希、それとは別の場所で行われている

エライアンと意識を取り戻した二人とのやり取りを見ていた(脳内で)。

 意味がわからないが、言葉の通りである。


「なんじゃエライアンめ、まるで大サービスで体を与えたみたいな言い方をしおっ

て。あ奴の悪い癖だな」

【あれは、ルリ達への諫め】


「確かに、贔屓し過ぎだったとは反省している」

【さくはるなら大丈夫】


「ルリがそう判断するなら間違いあるまい」

【うん。同士だから間違いない】

 説得力の無い理由だ。


「ん?エライアンも優遇しているではないか、だが…」

【エラインは自分が何をしたかわかっていない】

 エライアンはエライアンで、何かやらかしてしまったようである。


「どうやら桜井遥希は納得したようだな」

【残りの二人はごねてる】


「ごねてるとは言うが、あれは好感が持てるごねだな」

【ポイント高い】


 そんなやり取りをしていたら、エライアンから連絡がきた。


「二人から桜井さんに能力を与えて欲しいと言われてしまったのですが、どうしま

す?この時点でかなり特別扱いしていると思うのですが」

「対価を貰えば問題あるまい」

【魔石でいい、あの純度の魔石はなかなか作り出せない】

 ルリが対価を決める。


 強引ではあるが、決定できる人がいるのは重要だ。それも、エライアンのような

人物がいることで成り立つのだが。


「わかりました、ルリさんの提案通りにしましょう」


 こうして桜井遥希と謎の二人は、正体不明の超越している人達の思い付きで、何

かをさせられることになるのであった。


 そして物語は、それから二年後の時点から始まる。


 その間に起きたことは、徐々に明かされるであろう。


 ~~~~~


「銀河ダンジョンの攻略はどうなっているのだ?」

 と、ヒトはルリに聞いた。


 銀河ダンジョン、ヒト達がこう呼んでいるだけなのだが、文字通り銀河がダン

ジョンになっているのである。


 宇宙は広い。


 文化が生まれると同じようなことを考え創り出してしまうようで、とある恒星系

で生まれた生命体が、ダンジョンを生み出した。


 そのダンジョンはその惑星から生命が無くなった後も成長を続け、遂には意思を

持ってしまった。


 そして、ダンジョンは拡大を始める。


 惑星を自分の意識下に統合、そして長い時間をかけて、惑星が属する恒星をも取

り込んだ。


 そこからは拡大を加速させ、隣の恒星系、また隣の恒星系……そして、銀河系を

支配下にしてしまった。


 ヒト達がそれを発見した時は銀河団の規模にまでになってしまっていた。


 宇宙空間に存在する、別次元の異世界というべき存在に成長してしまっていたの

だ。


 もしこのまま放置すれば、ヒト達が存在している宇宙はその銀河ダンジョンに飲

み込まれてしまうことは明らかであった。


 一方、ヒト達もヒト達で非常識な存在である。


 ヒトはその銀河ダンジョンを消滅させようとしたが、それに待ったをかけたの

が、ヒトの仲間たちの女性陣。


 調べた結果、ダンジョンを攻略すれば消滅させることができると判明したから

だ。


 自分達が攻略して銀河ダンジョンの拡大を止めると言い、攻略に乗り出したので

ある。


 一体どれだけの時間がかかるのか想像できないが、彼女達は何十万もの分体を生

み出し、全方位からの攻略を開始した。


 言っている意味がわからなくてもいい、そういうことが出来る存在だと理解して

欲しい。


 生命体となったダンジョンと、超越者達の存亡をかけた戦い(ダンジョン目線)

が始まったのだ。


 そして現在、攻略を開始して五十年が経過した。


【わりと順調】


 そして、順調に攻略は進んでいるのである。


 頻繁(数年に一度、ルリは毎日)に会ってはいるのだが、余裕が出来たらこちら

の計画にちょっかいを出されるかもしれない。


「あまり、今回のメライアスの件には関わらせたくないな。こちらから会いに行け

ば、来る頻度は少なくなるか…あとは、銀河ダンジョンに集中して欲しいところだ

が…ルリ、頼んでもよいか?」


【わかった。攻略が遅いから、そろそろヒトが痺れを切らして攻略に参加するかも

しれないって言っておく】


 姑息な手段で横やりを防ごうとするヒトであった。


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