荒廃した世界で、ダンジョンマスターやることにしました。

みやもとはるき

第1話

 小説を書き始めてから十年が過ぎた。俺は井上というペンネームで活動を続けてきたが、ずいぶん前に発表された生成AIによって執筆の意欲は無くなっていたのだ。

 

 今の生成AIは、ひと昔前と違って会話形式で生み出されるわけではなく、生成AIを使っている人に合わせた作品を有料で提供してくれるものだった。

 具体的に言えば、シリアスで推理物。そして、有名作家Aさんの作風に似ているものを読みたいと言えば、生成AIがいくつか小説を書いてくれる。しかもすべての作品に高評価が付くほどだ。現役の小説家という職業はほぼなくなり、昔の作家に似た小説を書く、生成AIという小説家だけが生き残った。

 生成AIのなかった昔の作家でも書けたなら、俺でも書けるだろうと思い、小説を書いている。発表する場はなくなっているが、個人のブログに投稿している。

 

 生成AIを不使用だと、案の定面白い小説は書けず、俺は生成AIのサイトに触れてみることにした。小説を止める代わりに、自分の小説家の人生を潰した相手がどんなものなのか知りたくなったのだ。

 

 その生成AIは小説、漫画、音楽、絵画といった芸術作品に特化したものだった。無料期間があり、一週間までは無料で生成できた。俺が選んだ項目は、シリアス、ダーク、死、この世の終わり、チートというものだった。

 生成AIがどんな作品を生み出すのか待っていると、エラーの文字が発生した。次の瞬間、パソコンの電源が落ちてしまったのだ。負荷をかけ過ぎたのか。

 パソコンを再起動させるボタンを押して、合間にカーテンを開けることにした。洗濯物を取り込むためだ。夜空に赤く閃光のようなものが走っていた。花火を散らしたような赤い光が絶え間なく降り注いでいる。

 

 俺はとっさに双眼鏡を探した。

 引き出しにしまってあった小さな双眼鏡を手にし、夜空を眺めてみた。向こうでは大きな鳥のような物体がいくつも浮かんでいるのだ。

 何かが始まっている予感がした。

 パソコンの稼働音が聞こえると、机の前に急いだ。さきほどの生成AIのサイトに飛ぼうとしたら、ネットワークのエラーが発生した。

 部屋の電気もいつの間にか消えていて、暗がりをパソコンから漏れている光が照らしている。地震かと思ったら、空に大きなキノコ雲が浮かんでいたのだ。


 そしてパソコンの画面には、『入室しますか』という文字が浮かんでいた。

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