　それから、エレノアはデラノに食事の改善や適度な運動、そしてスキンケアの基本を教えた。最初はぎこちなかったデラノも、少しずつその助言に従って行動し始めた。食事に気を遣うようになり、軽いジョギングを毎朝の日課にし、教えられた方法で肌をケアするようになったのだ。

　ある日、エレノアは気づいた。授業の合間にふとデラノを目にすると、彼は以前のようにうつむいて縮こまることは少なくなり、少しずつだが姿勢も良くなっていた。顔に吹き出物はまだ残っていたが、明らかに減ってきている。

「デラノ君、頑張っているわね……」

　エレノアは自分でも驚いたが、彼の小さな変化に気づくたび、心が弾むのを感じるようになっていた。最初はただの同情心から始まった彼への手助けだったが、今では彼が自分の助言を忠実に実行し、少しずつ変わっていく姿を見るたび、誇らしく思うようになっていた。

　デラノがエレノアに駆け寄り、息を切らしながらも笑顔で言う。

「エレノア様、ありがとうございます！　最近少し体が軽くなってきた気がします。皆からもバカにされることが少なくなってきました。本当に嬉しいです」

　デラノの笑顔を見た瞬間、エレノアは胸がじんわりと温かくなるのを感じた。彼の努力は決して目立つものではなかったが、デラノが自分自身と向き合い、変わろうとするその真摯な姿勢に、エレノアの心は自然と引き込まれていった。

「すごいわ、デラノ君。本当に頑張っているわね」

　エレノアの声は、いつもより甘い声音になっていた。デラノが冴えなかった頃のことを思い出すと、まさかこれほど変わるとは思えない変貌ぶりだった。

　デラノはまだ完璧からは遠いかもしれないが、磨けば光る逸材なのかもしれない。そして今、彼の努力を見守るうちに、エレノア自身も彼の一歩一歩に心を動かされていることに気づく。

「私は、いつの間にかデラノ君のことを応援しているだけじゃなく……好きになっているのかもしれないわ」

　エレノアの胸に広がるこの感情は、単なる友情や助け合いを超えたものになっていく。デラノの成長を見届ける中で、エレノアの心は徐々に、確かな恋心へと変わりつつあったのだ。

（完成された男性よりも、私が支えてその成長を見守れる男性の方がずっと楽しいわ。ベッカムのように自らの力で成り上がるタイプとは、どうやら合わなかったようね）

　エレノアは、騎士科の公開訓練で活躍するベッカムを見て、心の中でそう思った。すでに彼は上級生をも打ち負かし、ぐんぐんと頭角を現していた。そのため、彼にはファンクラブのようなものができ、常に人だかりができていたのだ。

　エレノアがデラノを励まし支えていく毎日に楽しさを覚え始めた頃、ベッカムがエレノアに声をかける。

「エレノア、話があるんだ。ちょっといいかな？」

「なによ、ベッカム。散々私を無視していたくせに、何の用？」

　すでにデラノに気持ちが傾きかけていたエレノアは、ベッカムを軽く睨みつけたのだった。

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