いじめられっ子を救いたい!
ある日のこと、エレノアは王立学園の庭を歩きながら、遠巻きに聞こえてくるクラスメイトたちの嘲笑に気づいた。笑いの中心には、いつものように1人の男の子、デラノがいた。彼はかなりふくよかで、顔には無数の吹き出物が広がり、明らかに自分に自信がなさそうだ。彼をからかう生徒たちに気づかれないように、エレノアはそっと近づいていく。
「またデラノ君がターゲットにされてるのね……なんだか、可哀想だわ」
デラノが肩を縮めて小さくなっている姿に、エレノアの胸が痛んだ。彼が何も言い返せないことを知っている彼女は、無視し続けるのがつらくなり、ついに彼に声をかける決心をした。クラスメイトが驚くのも気にせずデラノへ近づき、にっこりと微笑む。
「デラノ君、少し話せるかしら?」
彼は驚いた表情でエレノアを見上げた。公爵令嬢であるエレノアが自分に話しかけるなんて、思いも寄らぬことだったからだ。
王立学園には貴族の他にも、有力な商人や官僚の子供たちが通っていた。デラノは国王に仕える文官の子供であり、彼の父親は平民であった。国王は、優秀な人材であれば平民でも文官に取り立てる賢王として知られていたのだ。
「え……僕に話しかけているのですか? こんな僕に話しかけたら、エレノア様もなにか嫌なことを言われますよ」
「私はそんなこと気にしないわ。ちょっとついてきて。大丈夫だから」
エレノアは彼を人目のつかない場所へと連れて行く。
「ねえ、デラノ君。みんな、ひどいことを言っているけれど、私はあなたがただの冴えない人じゃないって思っているの。外見で笑われているのは本当に残念だけど、変えられる部分もあるんじゃないかしら?」
デラノは顔を赤らめ、恥ずかしそうに目を伏せた。
「でも、僕には無理です……そんなこと、考えたこともないし……外見はこんなですけど、勉強はがんばっているつもりです」
「無理じゃないわ。少しずつでいいの。私が手伝ってあげる。あなたが変わりたいと思うなら、協力するわ」
エレノアの言葉には優しさと強さが混じっていて、デラノはしばらく黙っていたが、やがて小さくうなずいた。
「変われるかな……」
「もちろんよ、デラノ君。ちょっとずつでいいから、自分を信じてみましょうよ」
「はい、よろしくお願いします!」
ふたりの間で身分違いの友情のようなものが芽生えた瞬間だった。
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