第4章 選択の果てに
第1話 最後の分岐点
一段、また一段と、
「ねぇ、
過去の事件のこと、
あの一場面しか思い出すことができていないか、あるいは思い出した上で一部の事実を
『そうねぇ……前に会ったときの話題から始めたり、相手のお願いをきく代わりに自分からも条件を出すのがスムーズだと思うけど。藍果さん、何か彼にお願いされていたことはないかしら』
「お願いされてたこと? そんなの……あ」
『あるのね』
「うん……まぁ」
ここ最近でされたお願いなんて、思い当たるのはアレだけだ。教えてもいいものか一瞬迷ったが、教えないと相談のしようがない。
「実は、僕の神様になってほしい、って言われてて」
『……神様に?』
さすがの彼女も
「私、ヤドリ
すでに変化は現れている。ちょっとした
「人を離れてもいいなら、いっそ先に選んでくれって。嫌なら断ってもいいけど、これ以上一緒にいるなら遅かれ早かれその時は来るから——」
話しながら気づいた。これは最後の
彼のこの願いに対して否と答えるのなら、私は彼と関わるのをやめるべきだ。だって、「神様になりたくない」のだから。弓丸の言う通り、彼と一緒にいればケガを負うことは
あぁ、だから弓丸は……わざわざあんなことを言ったのか。引き返すならここが最後だと、その先を望まないならもう自分に関わるなと、私に
『ありがとう、事情はよく分かったわ。
「うーん……」
『心配しないで。ここ直近は、誰も
「……ちなみに、どうやって
せっかくの機会だからというのも変だけれど、前から気になっていたことを聞いてみた。すんなり教えてくれるとは思っていないが、聞くだけならタダだろうという考えだ。
彼女は少し黙った後、さらりと答えを教えてくれた。
『口移しよ』
「く、口移し……?」
『そう。私は化生を食べてその存在を集めてるの。食べた化生は体の中で飼っている。フーッと吹いてやれば外に出すこともできるし、口移しで人に与えることもできるわ』
「そ、そうなんだ。これは好奇心なんだけど、これまでに作った禍者って何人?」
『数えたことないわね。千年も生きてたら忘れるわ……っと、これは私と藍果さんだけの間の秘密よ? 少しでも信じてもらおうと思って、これだけ話してあげてるんだから。前も言ったでしょう、藍果さんとは仲良くしたいの』
「え、あ、ありがとう……?」
お礼を言えばいいのか何なのかよく分からないが、これだけ色々教えてくれた相手をまるっきり疑うのもしのびない。化生を与えることで救っているのだ、という彼女の言い分にうなずくことはできないが、果たして完全に黒と言えるものだろうか。日向さんも
そこまで考えて、ぶんぶんと首を振った。下半身が蔦になったり体が蜘蛛になったり、挙句の果てには人としての全てを捧げて命を落としたり、彼らたちに訪れた未来はろくなものではなかった。うっかり
あれ……ついて、きて?
さっき彼女が言っていたことが事実だとすれば、この刀は、元々彼女のものだったという。そしていま、この刀は私自身に
私は足を止めた。残りの石段は二十段ほど。弓丸が私に示してくれた通り、今ならまだ引き返せる。このまま、彼に会わずに石段を下りて、
『どうかしたの? 急に止まって。あぁそれと、いまの私の声は藍果さんの脳内に直接流し込んでるものだから。不審がられないように、ちゃんと気をつけて
「うん……あの、私やっぱり」
一旦帰る、と言おうとしたところで、突然頭上から弓丸の声が降ってきた。
「なんだ、一人か」
バッと顔を上げて、声がした方を見上げた。鳥居の上だ。弓丸が、その両手に弓矢をもって鳥居に腰掛けている。すでに下ろしてはいたが、弦にはしっかりと矢がかけられていた。敵意はないものの、いぶかしげなまなざしで私のことを見下ろしている。
「ゆ、弓丸? 何してるの、そんなとこで」
「いや……君の他に、何か妙な気配を感じた気がしたんだが。気のせいならいいんだ」
そう言って弓丸はひょいっと鳥居から飛び降りた。慣れた様子で着地すると、弓矢を持ったまま振り返る。くくった髪が揺れて、水色の衣の袖が翼のように広がった。
「入りなよ。聞きたいことがあるんだろ。それとも相談?」
やっぱり帰るって、言わなきゃ。そう思って口を開くのに、どういうわけか言葉が出ない。それどころか、体が勝手に石段をのぼりだす。
『せっかくここまで来たのに。帰るなんてもったいないわ』
すでに——いまの私は、彼女の意に沿わないことはできないらしい。だったら、やれることは一つだけ……元々の目的を無事に達成することだけだ。
「昨日弓丸が言ってた、神様になってほしいって話……受けるよ」
鳥居をくぐって、私はそう切り出した。
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